さよなら神界、また来て地上(修正済)
2/4/11に段落修正済みです!
加筆修正はまた今度します。
「ありがとう。橘さん、アトロポス。とても有意義な意見が聞けて本当によかった。」
「いえ!私だけじゃ、絶対にこんなこと思い付きませんでした。みんなのおかげです!」
《うひぃ~、女神ブレインフル回転って感じ?ふへへ、もっと誉めてくれてもいいよん!》
白熱した作戦会議は、無事に終わった。
俺の勝ち筋は今やアスファルトで舗装された幹線道路並みの太さと快適さで完成されている。
もはや負ける要素はないといっても過言ではない。
勝利への確信に俺の心は熱く滾った。
「それにしても橘さんはマジでファインプレーだ。まさか、あれだけのものが揃ってるとは思ってなかったよ」
《それな!たっちーマジ最高って感じ!あれのお陰で私の頭脳も冴え渡ったっていうか!》
「いえ、私はそこまでのことは考えてなかったっていうか、後で何かに使える位に考えていたぐらいで……」
「それでも、俺は大いに救われた。ありがとう橘さん。」
そう言って俺が頭を下げると、橘さんはゆっくりと首を左右に振った。
「お礼を言われるようなことじゃないです。それに………」
《「それに?」》
「………これだけのことができるのなら、私がもっと頑張ればみんなに迷惑をかけることもなかったのかなって。」
「橘さん……。」
《たっちー………。》
「私がもっと頑張って、考えて、行動していればよかった。自分の《運命》を自分で切り開けばよかった!でも、私にはその《勇気》がなかった!」
橘さんの目から久しぶりに大粒の涙が零れた。
「……これだけ完璧にお膳立てしてもらって、でも、もし今から私が自分でやれと言われたら、私には不二さんみたいにそれをするだけの《勇気》がありません。私は、そんな自分が情けないです………。」
「それは違う。」
「えっ?」
今にも消え入りそうな橘さんの声に被せるように、俺は橘さんの言葉を否定する。
「橘さんには《勇気》があるよ。」
「……そんな、嘘です。」
「嘘じゃない。……橘さん、俺はね、《勇気》には身長や体重みたいに個人差があると思ってる。」
「個人差……ですか?」
「そうだ、だから俺の《勇気》と、橘さんの《勇気》は比べて優劣をつけるものじゃないんだ。」
橘さんとアトロポスの目がじっと俺を見つめる。
一呼吸置いて、俺はゆっくりと二人の心に染み込ませるように言葉を続ける。
「橘さんはもういじめに耐えられなくなったとき担任にはちゃんと相談しに行った。自分がいじめ受けたことを他人に曝す。これは大変に《勇気》のいることだ。」
「………っ!」
「自殺を決めて、実行に移したのもそう。《勇気》がないやつは、どんなに最悪な現状維持でもだらだらそれを受け入れる。例えその先に待つのが死だとしても、橘さんは自分の意思で未来を選び、貫き通した。これは大変な《勇気》だ。」
自らの命に自らけりをつける。
この考えに至ってもそれを実行に移せるものはそう多くはない。
取り返しのつかない決定だ。大勢は二の足を踏んで、そしてそのまま諦めて引き返す。
けれど、橘さんは先へ進んだ。これを《勇気》と言わずになんと言おう。
「だから、橘さんには《勇気》がある。おれの《勇気》とは違うけど確かにそこにあるんだ。」
「私に………、《勇気》が………。」
橘さんの手がブラウスの胸元をグッと握る。
そう、そこだ。
橘さんの心の中。
《勇気》はまさしくそこに宿る。
その様子を見届けて、さらに俺は先に進む。
「それでももし、もしも橘さんが自分には《勇気》がない、《勇気》が足りないと言うのならーーー」
言葉を止める。
橘さんがその瞳でこちらを見る。
瞳の中に俺が写る。
その俺を射抜くように彼女の瞳を見つめ返す。
そのまま瞳の中へ入り込んで彼女の心に俺の想いが届けばいい。
「ーーー俺が君の《勇気》になる。俺たちはまさに二魂一体。今の俺は君でもある。俺の《勇気》は君のものだ。君の《勇気》は俺のものだ。二人の勇気を合わせて未来を掴む。橘さん、君の《勇気》を俺にくれ。」
言葉が終わるその刹那。
橘さんの目から一粒の涙が零れた。
涙は彼女の頬を伝って顎へと向かい、そのまま落ちて雲へと溶けた。
その涙の跡を拭うことなく彼女の口が開いた。
「………私の《勇気》が、どれほど不二さんのお役にたつかは分かりません。それでも、全部持っていってください。私たちが二魂一体というのなら、私の全てはあなたのもの。どうかあなたの道行きを支える縁としてください。」
橘さんの右手が差し出される。
俺はそれを固く握り返す。
ここに契約は成った。
これより俺たちは真の二魂一体。
苦楽の全てを共にする、分かち難きものである。
そうして固く結ばれた俺たち手の上に小さな手がもう一つ勢いよく重ねられる。
驚いて横を見るとそこには満面の笑みのアトロポスがいた。
《それじゃあ、二人が《勇気》担当で、私は二人の《運命》担当ね!三姉妹の一柱だから力は三分の一だけど、それでも正真正銘の《運命》の女神だからね!ご利益幸運待ったなしだよ!》
「「アトロポス……!」」
俺たちは頷いて、その手の上に更に手を重ねる。
全員が互いの熱を手に感じながら、俺は高らかに宣言した。
「《運命》を《勇気》で切り拓く!みんな、行くぞぉ!」
《「「おーっ!!!」」》
―重ねられた手を天へと解き放ち、俺たちの気炎はその手の先から天高く駆け登って行った。
「それじゃあ、しばらくお別れだな。」
「うん。」
《そだねー。》
そうして俺はいよいよ地上へと戻ることになった。現在俺は最初に神の世界に着いた場所まで戻ってきている。
あれから少しずつ話したのだが、橘さんの精神はしばらくここに残るらしい。
女神曰く、もう少し時間が経てば橘さんの精神が地上で活動することも可能らしいが、現状は完璧に俺が主人格なのでからだで眠らせておくのはあまり意味がないと判断したのだ。
《ここからは地上のふじっちのこともモニターできるからね。記憶の共有のためにもたっちーはここに居た方がいいよ。あと、私も友達が近くに欲しいし。ガールズトークとかめっちゃしたいし!ふへへへ……》
最後の方は女神の私情が駄々漏れだったが、記憶を共有できるのは最終的に元に戻るときに便利なので俺たちにも異論はなかった。
《あ、それとね、これからみんなでコミュニケーションをとるときには《夢渡り》を使うからそのつもりでいてね!》
「……?《夢渡り》?初めて聞く言葉だな。」
《人間はね、寝てるときは魂が体から離れやすいのさ。ほら、寝てるときに魂が抜けて世界を旅したなんて地上の昔話でよく残ってるでしょ?だから私がこうちょちょいとその魂を引っ張ってこっちに連れてくるわけさ!》
なるほど、寝ているときに夢を見るように世界を渡るから《夢渡り》というわけか。
「OK。じゃあ、俺が眠ればみんなとコンタクトがとれるわけだ。」
《そういうこと。ここでは趣味で寝ることはできるけど、基本的に神や魂に睡眠って意味がないしね。だから、ふじっちが寝たらいつでも会えるように準備しておくよ。》
「了解。もしも方針で迷うことがあったら相談して煮詰めよう。」
「分かりました。」
《おっけー!まかせんしゃーい!》
現段階で語るべきことは全て語った。いよいよ俺がここを去る時間が来た。
《それじゃあ、来たときみたいに門を開くね。ここは時間がゆっくり流れてるから現実では一分も経ってないけど、元の時刻が遅いからね。良い子は寄り道せずに真っ直ぐ家に帰るのじゃよ?ふぉっふぉっふぉ。》
「急に変なキャラ作らなくていいから。まあ、でも忠告通り真っ直ぐに家に帰るよ。橘さんの家にね。」
そう、地上に戻った俺はこれから橘さんとして生活する。だから俺の帰る家は、親父の待つ家ではなく橘さんの家だ。
親父には心配をかけるがそこはもうどうしようもない。
「不二さん、ごめんなさい。不二さんにも待っているお父様がいるのに………」
「気にしないで橘さん。俺の親父は大した人間だからね。俺なしでも何とかしてくれるさ。」
「不二さん、ありがとうございます。そして、お母さんのことよろしくお願いします。」
「わかった。なるべくぼろがでないように頑張るよ。」
《もういいかーい?じゃあいくよー!》
橘さんと最後の言葉を交わした俺を光の柱が包む。
足元に浮遊感。雲の足場が開いて体が宙に浮く。
《アテンションプリーズ!当機はまもなく離陸いたします。当機は神界発の地上行き。フライト時間は30秒ほどを予定しております。ベルトはないので暴れないでね!》
ここに来たときと同じ女神のアナウンスを聞きながら俺はその時を待つ…………
…………あれ?何か少し違うぞ?
「…………アトロポス?なんか来たときよりもフライト時間が半分になってるんだけど?」
《あー、短期間に二回も門を開くのは疲れるからね。帰りはお手軽宅配便でひとつよろしく!あ、行きよりかなりの衝撃だからほんとに暴れちゃダメZO☆》
「帰りもちゃんと送ってくれえぇぇぇぇぇ…………!?」
「ふっ、不二さーん!?」
そうして、神の世界に盛大に叫び声を残しながら俺は再び地上へと戻って行った。
神界編全4話これにて終了!
ん?6話ある?
まぁ、龍造寺四天王も五人居たりするし、2話ぐらい誤差ですよ誤差!
ま、多少はね?
あと、地上編一話やって第一章は終了。
第二章は学園編。プロットではこの章でとにかくざまぁ&スカッと系展開を詰め込んでおります。
あと、一応完結までちゃんと考えてあるので、四月から物理的に肉体が拘束されない限り話はつづくよ!
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