涙の訳は(修正済)
2/4/11に段落修正済みです!
真面目な展開が続くとちかれた~ってなるんだよね!
まぁ、この作品基本真面目な作品だからしかたないけど!
「………少しは落ち着いた?」
「………はい、すみませんでした、不二さん。アトロポスにも心配かけちゃって、駄目ですね、私。」
《んーん、気にしてないよ!誰だって調子の悪いときはあるさっ!》
あれからしばらく経って、橘さんの状態も落ち着いて、俺たちはまたさっきのように円になって座っていた。
とは言うものの、橘さんはまだ本調子ではないようで、伏し目がちに俯いて、物憂げな表情を浮かべている。
しかし、それでもやはり橘さんの乱心の理由は問いたださねばならない。前に進むには僅かでも思考の材料が必要だ。
橘さんにはつらいことになるかもしれない。
それでも、俺は意を決して口を開いた。
「橘さん、説明して貰えるかな。」
橘さんの肩がびくりと震える。顔はさらに俯いて、小さな唇がぎゅっと噛み締められる。
苦しいのだろう。
つらいのだろう。
それでも、俺は聞かねばならない。
俺と女神は、ただ黙って言葉を待った。
「…………………私、いじめられっ子だったんです」
「………!」
《………!》
「いえ、だった、というのは不適切ですね。現在進行形で私、橘薫はいじめられているんです」
「橘さん………」
《たっちー………》
それから、橘さんは多くのことを話してくれた。
小さな頃に浮気して出ていった父のこと。
たった一人でずっと大切に育ててくれた母のこと。
ささやかだが幸せだった小学校中学校生活のこと。
頑張って高校に進学したこと。
そこでいじめが始まったこと。
頑張っていじめに耐えていたこと。
それでも無理になって担任に助けを求めたこと。
その担任が自分の味方ではなかったこと。
二年になってもいじめっ子と同じクラスだったこと。
自殺を決意したこと。
そして、ビルのこと屋上から飛んだこと。
橘さんはゆっくりと、それでもちゃんと全てを話してくれた。特に後半は思い出すだけでもつらいことの連続だったはずだ。
それでも、橘さんは話してくれた。話しているとき、彼女は一度も泣かなかった。
きっと優しい橘さんは俺たちに気を遣って泣かなかったのだ。
強い人だと思った。
気高い人だと思った。
そして、美しい人だと思った。
全てを話し終わった後、橘さんはゆっくりと顔を上げて俺たちを見た。瞳は潤んでいたが、涙は流れなかった。
「……これが私の全てです。ごめんなさい、こんな暗い話なんかしちゃって。嫌な思いをさせましたよね。すみませんでした」
「橘さーーー」
《ーーーおよよよよ!》
「「!?」」
突然聞こえた妙な声に思わず声の振り向くと、そこにあったのは涙と鼻水で崩壊した女神の顔面だった。
………ってか、あんたが泣くのかよ!
しかも泣き声が「およよ」って、昭和か!
………昭和じゃなくて神話だったわ!
そんなことを考えているうちに、女神は古くさい泣き声を上げながら橘さんの胸元へダイブした。
《だっぢぃ~!》
「わ、わ、わっ!」
《だっぢぃ、すごく頑張ってたんだねぇ゛!話すのめちゃくちゃぐるじかったよねぇ!ごめんよ、気づかなぐって!私は駄目な女神だぁ!およよよよ!》
「「アトロポス………」」
そのまま女神は橘さんの胸に顔を押し付けて泣いた。
橘さんはそんな女神の頭を優しくなで続けた。
◇◇◇
《あー、ごめんね、女神なのに情けないとこ見せちゃってさ! でも、神様にだって心はあるのさ。許しておくれよ二人とも!》
「私は気にしてないよ。それよりも、私の代わりに泣いてくれてありがとうアトロポス」
「俺も別に気にしてない。……泣き止んだ後に俺のTシャツでおもいっきり顔を拭いたのは気にしてるけど。」
《あー、めんごめんご!めちゃくちゃ拭きやすそうな白い布が見えたから、タオルかと思った》
「んなわけあるかい。………まぁ、それは置いておいて。とりあえず、橘さんが置かれている状況は分かった訳だから、ここからは建設的な話をしよう」
《そだねー》
今までの流れで橘さんがなぜあれだけ俺が彼女に成り済ますことを恐れていたのかが分かった。
橘さんは俺がいじめの身代わりになることを恐れたのだ。それも彼女が自殺を選ぶくらいのいじめだ。
優しい橘さんは、いじめで俺の心が傷つかないように、あれだけ強く拒んでくれたのだ。
…………女神!圧倒的女神!
俺は橘さんのその優しさに報いたい。
いや、報いなければならない。
年下の女の子にこれだけ気を遣わせたのだ。なにもしないのは男が廃るというものだ。
「全てを把握した上で俺は言う。やっぱり俺は橘さんに成り済まそうと思う。というか、もうそれしか選択肢はない」
《それな。女神的にも同じ意見だね》
「でも………それは………」
女神はさらっと賛同してくれたが、橘さんはやはり及び腰だ。言葉を並べてなんとか彼女を説得する必要がある。
「橘さんは俺がいじめに遭うことを心配してくれているんだろう」
「……はい」
「それなら気にしないでいい、いじめは俺の方で何とかするから」
「そ、そんな! 駄目です! 私のために不二さんにそこまでしていただく訳にはいきません!」
橘さんは弾かれたように慌てて俺を静止する。
想定した通りの反応だ。
だから、あらかじめ用意していた言葉を俺は続ける。
「いや、これはむしろ橘さんのためじゃなくて俺自身のためにやることだから」
「えっ?」
「アトロポス、結局のところ俺は橘さんの代わりに地上で暮らさないといけないんだよな?」
《その通り。ほかにうまい案もないし、そうなるだろうね》
「OK。ということはやっぱり俺は橘さんのふりをして学校に通うからいじめに遭うのは絶対不可避だ。」
「それは………」
「ただね、やられっぱなしでは俺も寝覚めが悪いからさ。俺自身の生活環境を向上させるために、俺はいじめを何とかしたいわけだ。だから、これは俺が俺のためにやること。橘さんがあれこれ気遣いする必要はないんだ」
「でも………」
橘さんはまだ粘ろうとする。
やはり、橘さんは優しい人間だ。そんな姿を見せられたら意地でもどうにかしてあげたくなる。
「だったら、別に俺はいじめられっぱなしでも構わない。肉体的にも精神的にもきついのは部活やジムで慣れっこだから、全然俺は耐えられる。」
「それは駄目です!私の代わりに不二さんが耐える必要はありません!」
「そこまで言うなら、俺がいじめをどうにかする方向でいくけど、いいかな?」
「………!………………はい。」
……よし、本人から言質をとった。
ここからは俺のやりたいようにやれるわけだ。
待ってろよ、いじめをやりやがったクズ共。
俺が完璧にぶちのめしてやるからな。
まだ見ぬいじめっ子の姿に俺の闘志は否応なく掻き立てられた。
《いやー、ふじっちったらカッコいいんだからぁ!マジにいい男だぜ、このこの!》
「はははっ、おいおい茶化さないでくれよ。俺はわりとマジだぜ」
じゃれてくる女神を軽くあしらいながら、俺は橘さんの方にしっかりと顔を向ける。
「それじゃあ、橘さん。作戦会議といこうじゃないか。つらい作業になると思うけど、いじめについてもっと詳しく聞かせてくれ。そこから俺の勝ち筋を探す。あと、日常生活の上で気を付けることとか、君のお母さんのこととかも知っておきたい。できる限りのことを話してくれ。俺もできる限りのことをするから」
「はい、こちらこそよろしくお願いします!」
「アトロポスもアドバイスやいい案があったらじゃんじゃん出してくれ。三人寄れば文殊の知恵っていうがその内一人が女神になったら怖いもんなしだ」
《合点承知の助! へっへーん、久しぶりに神託とかいっちゃう? いっちゃう?》
俺たちの心はひとつになった。
後は話を聞いて、みんなで最善手を導き出すだけだ。
橘さんの言葉を皮切りに俺たちの作戦会議は段々と熱を帯びていった。
神界編、つぎでおわっから!
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