人形転生
私の名前は小出九九葉。どこにでもいる普通の高校生の女の子。
私は小学校からの幼馴染の男の子である鏡赤獅に恋をしている。彼の母親は日本人形の職人で、物心つく前から人形に囲まれて生きてきた彼もまた人形のことが大好きで将来母親と同じ人形師になることを夢にしている。そのために日々熱心に人形の勉強をしている彼のひたむきさにやられて、私は絶賛彼に片想い中なのだ。人形が好きで体格が小さくひ弱な男を好きになる女なんて、きっと私くらいだろう。
最近更に勉強に熱が入っている赤獅とは昔のように一緒に遊ぶ時間はない。ただ、家が隣なので毎日学校から一緒に家に帰ることはできる。一緒に居られる時間が減っているのは悲しいけれど、一生懸命な彼に惹かれた私はそうやって頑張る彼を見守りたい。私が彼の為にできることはそれくらいしかないのだから。
そんな想いを胸に秘めつつ、私はいつものように赤獅と一緒に家へと帰っていた。同じ道、変わらない風景の中を歩き続けるだけの日常の最中、川の側を歩いているときに赤獅が唐突に足を止めた。
「くーちゃん、ちょっと待ってて」
そう言って河原へと降りていく赤獅。一体どうしたのかと赤獅が向かう先を見ると、河原の石の上に黒いゴスロリ風の服を着せられたフランス人形が無造作に捨てられていた。
「こんなところに捨てられてかわいそうに。服も少し破けてしまっている」
その人形を抱えて戻ってきた赤獅が嘆いた。
「本当だね。でも、赤獅が直してあげればいいじゃない。いつも裁縫道具を持ち歩いているでしょ」
「そう思ったんだけど・・・。タイミングが悪いことに、今はちょうど糸を切らしてしまっているんだ。だから、家に帰るまで直してあげられない」
今拾ったばかりのフランス人形を、とても申し訳なさそうな目で見る赤獅。本当に、人形のことが好きなんだから。
「しょうがない。ほら、私の髪をあげるから、それで縫ってあげて」
その姿を見かねた私は自分の髪を一本引き抜いて、糸の代わりに使うように差し出した。人形の服の色と同じ黒色で長髪だからちょうどいいと思ったのだ。
「えっ、いいの?助かるよ、ありがとう」
赤獅は悲しそうな顔から一瞬驚きの顔になりつつも、すぐに笑顔になって私の髪を受け取った。そして、すぐに修繕に取り掛かりあっという間に服の破れた部分がきれいに閉じられた。本当に見事な手際だ。
「服だけでもすぐに直せて良かったね、君。家に帰ったら体の汚れた部分もきれいにしてあげるから」
一安心という顔でそう言うと、赤獅はその人形を抱きしめた。
それを見て私は胸が痛む。私もあれくらい赤獅に愛してもらえたらな・・・。ああ、ダメだ。私は人形を愛する赤獅が好きなんだから、人形に嫉妬するなんて情けない事はしてはいけない。
「くーちゃんどうしたの?なんだか辛そうな顔をしているけど、体調が悪いなら早く帰って休まないと」
「大丈夫・・・、だから心配しないで」
「ねえ、あの人形はあの後どうしたの?」
次の日、一緒に帰っている赤獅に人形のことを聞いてみた。
「ああ、あの子ね。家に帰ってすぐに体の汚れをきれいにして、今は僕の部屋の机に置いてあるよ。酷い目に遭ってた子だからその分これから幸せになってもらわなくちゃいけないし、これから毎日手入れをするつもりなんだ。
名前も決めたんだよ。くーちゃんから髪を一本もらったから、『百』って名付けたんだ」
赤獅は楽しそうにそう語った。
私の名前にちなんで名づけられたことに少し複雑な気持ちにさせられたが、赤獅が楽しいならそれでいいかな。
「そうだね。赤獅に手入れしてもらえるなら百も嬉しいだろうし、大切にしてあげてね」
赤獅が人形を拾ってから一週間くらい経っただろうか。最近私はある夢を見るようになった。机で黙々と勉強や人形作りの練習をした後、ベッドで眠る赤獅を眺める夢だ。きっと私が眠った後もこうやって毎晩遅くまで頑張っているんだろうな、と思わせるようなリアルさがある。
どうしてこの夢を繰り返し見るのだろう?勉強熱心な赤獅の姿が好きな私の心の表れ?
更に一週間後。最近何だか体が思うように動かない。あの夢を見るようになってからちゃんと眠れていない気がするからそのせいだろうか。
思うように動かないから帰り道で足がもつれて転んでしまった。
「くーちゃん!?足からすごく血が出てるよ!早く消毒しないと・・・」
赤獅が心配して私に肩を差し出してくる。
「えー?別に大丈夫だよ。なんかあんまり痛くないし。それよりも、今日は前みたいに縫ってくれないの?」
確かに血は出てるけど、その割に何故か痛みは薄い。というか、今何か変なことを口走ったような・・・。
「え?前みたいに縫うって、僕、くーちゃんにそんなことしたことないよね?くーちゃん最近ボーっとしていることが多いし、痛くないのも何かの病気かもしれないよ。一回お医者さんに診てもらった方がいいよ」
「うーん、そうなのかな・・・」
正直頭が働かなくてまともな考えをすることができない。これは一回ちゃんと寝ないといけないかも・・・。
とりあえずその場は赤獅に近くのドラッグストアで消毒液と包帯を買ってきてもらって応急処置をした。
家に帰った私はすぐにベッドに潜り込んだ。赤獅は心配していたが私が赤獅の時間を奪うわけにはいかない。
「赤獅は自分の夢の為にするべきことをがんばって」
そう言って家の前で別れたのだった。
ベッドに入った私はすぐに眠りに落ちた。そして、また赤獅の部屋の夢を見る。でも、今度はいつもと違って、赤獅が勉強している光景ではなかった。なんと、赤獅が私の方へ近づいてきて私の頭をなでたり櫛で髪を梳いたりしてくれた。普段は全然私に積極的に触れようとしない赤獅がこんなことをしてくれるなんて、夢でも嬉しい。こんな時間がずっと続けばいいのに・・・。
おかしい
どれだけ寝ても寝たりない
体の感覚もどんどん鈍くなっている
今は爪で体中を引っ掻いてみている
血は出ているのに全然痛くない
まあいいか
寝よう
寝れば赤獅がなでなでしてくれる
いまはあかしのへやにいる
でもあかしはいない
となりにすんでるおさななじみがなくなってそうしきにいっているらしい
わたしいがいにおさななじみがいたとはしらなかった
からだじゅうからちをながしてまるでたましいがぬけたようなかおでしんでたんだって
なにがあったかはわからないけどかわいそうだからいまはあかしをゆずってあげる
あかしはかえってきたらわたしをなでなでしてくれるんだから
あ
あかしがかえってきた
おかえり
なんでそんなにかなしそうなかおをしているの
ほら
わたしは
ももはここにいるよ
だからなかないで
これからはずっとわたしがそばでみまもっていてあげるから
短い話でしたが読んでくれてありがとうございました。