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7話 初依頼はビシッと決めた格好で

 エグエグと鼻を啜りながら廊下を歩くコムギの前を歩く隆二達に最後方を歩くフレイドーラは窓から見える太陽を見ながら話しかける。


「まあ、コムギの件はお前達預かりで落ち着いた。これからどうするんだ、今からなら2時間目の授業には間に合うが?」


 声をかけられた隆二はウンザリした表情でチラリと振り返って前を向くと溜息混じりに返事をする。


「フレイドーラ先生、分かってて聞いてるよな?」

「いや、我は本気で聞いてるぞ?」

「分かっててコムギの面倒を見る為の報酬、1単位のエサで釣ったんだよな!?」


 何の事だ? と言いたげに本当に分かってなさそうな顔をして腕を組んだまま首を傾げるフレイドーラを見て、本気でコムギの世話を押し付ける対価として適性と思ったようだ。


 現実を直視した隆二が肺にある空気を全部吐き出すような溜息を洩らすのを見てコムギが聡の背中をツンツンして声をかける。


「ねえねえ、サトッちゃん、どういう事?」

「その呼び方、定着するの?」


 聡が振り返った先のコムギはホヘェと馬鹿な子のような顔をしながら「良い名前でしょ?」と言ってくるのを見て聡は諦めるように肩を竦める。


「隆二があっさり諦めたと言う事はそういう事なんだろうけど……ママ、世の中は理不尽で満ちてるよ」


 懐から取り出した母親の写真に話しかける聡に聞きたそうにするコムギが口を開く前に話を再開される。


「単位というのは願いを叶えて貰える為に必要というのは説明したかな?」

「えっと……大事なものぐらいには……」


 その様子を見て隆二にまったく説明されてないと理解した聡は苦笑しながらどこから説明したものやらと考える。


 仕方が無いので基本から始める事にした聡はこの学園に居る為には一定期間の保有しなくてはならない単位数が存在し、それを下回ると退園になる事を説明する。


「ほへぇ~」

「コムギちゃん、元の世界じゃなければどこでもいいって本気で思ってたんだね?」


 大変だねぇ~と他人事のように言うコムギを見て「やっぱりママ以外(略)」と首を横に振る。


 気を取り直した聡が続ける。


「単位が欲しいという大元の理由はそれなんだけど、単位はお金とも言えるんだ。換金する事も出来るし、学園内ならそのまま使えるけどね」


 聡が昨晩の夕飯もさっき食べた朝食も単位で食べたと告げるとコムギの瞳に真剣みが宿る。


「単位、重要! で1単位でどれくらいなの!」

「1単位でこっちのお金……分からないよね。うーん、パンなら1~2個? 学食なら1食だね」


 学食は安い。


 だから隆二は基本的に外で食べる事はしないし、大抵の学生は学食を利用する。


 利用しない学生はこの学園では珍しいタイプで寮で生活してない部類であった。


 そして、聡は思い出し笑いをするように拳で手を隠す。


「ちなみにコムギちゃんの食事代を出したのは隆二だけど、隆二の懐事情を想像するに夕飯は食べれるかどうか……コムギちゃんは単位0だから……」

「単位を稼がなきゃ!!」

「まあ、そういう事。隆二は授業に出てる場合じゃない、依頼を受けて単位を稼がないと、言いたいんだね」


 聡の言葉に力強く頷くコムギは「ご飯大事!」を何度も口にして背筋を伸ばして話してる間に距離が空いた隆二の背を追う。


 フンフン、と気合いが漏れ出すコムギであったが何かを思い出したようにハッとした顔をする。


 先程の気合い溢れる表情から一転して情けない顔をするコムギが隆二の服の裾を掴むと苛立ちげな隆二が振り返る。


「なんだよ?」

「コムギの面倒を見るのに1単位で引き受けたって言ってたけど……コムギってパン1個ぐらいの価値なの?」


 ウルウルと目を潤ませるコムギが見上げてくるのを正面から受け止めた隆二は大きな掌で小ぶりなコムギの両肩を掴む。


「パン様に謝れ。比べた事をな!」

「シクシク、コムギはパン以下なのね」


 隆二の言葉に止める事が出来ない涙を流すコムギはしばらくパンは食べたくないと心に秘めた。





 単位を手にする為に隆二達は職員室の隣にある掲示板に向かった。


 フレイドーラは「まあ、頑張れ」と告げて職員室へと戻って行ったのを見てコムギは首を傾げる。


「あれ? 先生は一緒にこないの?」

「お前と会った時は単位不足になったから監督に来てただけだからな」


 掲示板に張られた依頼書を凝視する隆二が答える。


 そうなんだ、とホヘェと声を洩らすコムギも隆二達に倣って掲示板を見つめると首を傾げる。


「えっとえっと、見た事ない文字なのに読めるんだけど?」

「それはね、『宣託の儀』を受けたせいだよ」


 依頼書を吟味している隆二に代わりに聡が答えてくれる。


 色んな異世界に行く女神ノ学園の学生達がいちいち現地の読み書きを習っていたらとてもじゃないが間に合わない。

 それを加味されてるのか分からないが簡単な読み書きであれば脳内で自動変換されるようになっていた。


「これがなければコムギちゃんと会話は成り立たないよ」

「ほへぇ、なるほど」


 聡とコムギが話してる間に隆二は一枚の依頼書を手にしていた。


「よし、これを受けるぞ」

「どんなの、どんなの?」


 嬉しそう隆二の手に持つ依頼書を覗きこもうとしたコムギであったが身長差で見えなかったので隆二の右手を引っ張るがピクリともしない。仕方がないので両手を使ってぶら下がる。


 ぶら下がるコムギを半眼で見つめる隆二が「何してんだ?」と言ってくるのに涙目のコムギは自分の姿を客観的な視線を想像して悲しくなる。


「依頼書が見えにくいから下ろしてって言いたいのを察してよ!」

「そうなら口で言えよ」


 ヤレヤレと溜息を吐く隆二がコムギでも読める位置に下ろす。


 漸く、内容が読めるようになったコムギが覗き込むのを見る依頼書を先に読んでいた聡が微妙そうな顔をする。


「火山での鉱石集め、10単位か……簡単だし、いつもよりは良い単位けど鉱石集めは安すぎない?」

「まあな、とりあえず飯代は確保したいしな」


 切実な悩みを泣くのを耐えるように言う隆二に苦笑する聡はサラッと掲示板を見て納得するように頷く。


「良く見れば普段より鉱石集めが多いね。そういえば開発科の奴等が鉱石不足で嘆いていたから偏ったのかな?」


 基本は誰が張ったか分からない依頼、神からだとは言われているが中には学生が依頼を出すパターンがある。


 女神ノ学園には異世界科だけでなく異世界で通用する武具の製作という名目を掲げる開発科など色々と存在していた。


 つまり学生が自分の単位で報酬を払うと依頼も中に混じっている。


 腹は決まったとばかりに依頼書を懐に仕舞う隆二は2人に向き合う。


「準備をして出発だ!」


 そう言うと隆二達は無料レンタル出来る武具置き場に向かい、昨日、コムギの世界から帰還した魔法陣がある部屋へと向かう。


 魔法陣の前で頷き合う隆二達。


 そして、魔法陣の真ん中に立つと魔法陣が光り始め、隆二達は光に包まれる。


 コムギを入れた初依頼を学生服にツルハシを持つシュールな格好で異世界に旅立った。

 感想など頂けたらバイブルのやる気に繋がるのでよろしくお願いします。

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