5話 戦慄、コムギの試練
三連休の金曜の夜に夜更かし
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起きるとガクガクと震える体と発熱
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お正月の時の焼き回し
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だるい体を引きずって仕事に出勤(泣)←いまここ
「であるからして、このダンジョンにいるモンスターで死ぬような事はないが……」
訓練用のダンジョンへと向かう道ながらフレイドーラが注意事項のような事を離す後ろを歩く隆二達であったがコムギがチラチラとフレイドーラに目を向けながら声を潜めて隆二に話しかける。
「ねえねえ、リュウ、サトッちゃん。コムギの『宣託の儀』の時が終わった後、変な顔してたの?」
「変な顔ってお前、まあ、思う所があったのは間違いねぇーけどな……」
「コムギちゃん、その田舎者臭さが匂う呼び名は僕は認可した覚えないんだけど?」
呼び名の変更を訴える聡の言葉をスル―するコムギは早く言えとばかり隆二の裾を引っ張る。
頭をガリガリと掻く隆二は溜息を洩らし嫌そうにするのを隠さずに話す。
「さっきの『宣託の儀』で回復能力を得ただろ?」
「うん、イマイチ、コムギも良く分かってないけどね」
ウンウンと、それでそれで? と興奮気味に顔を近づけてくるコムギの顔を押し退けながら続ける。
「まあ、それはこの後の訓練の後に見れるステータスチェックで分かるからいいんだが、『宣託の儀』で得た能力はこのまま放置すると零れ落ちるように無くして永遠に得る事が出来ない」
「それは勿体無いね?」
「勿体無いどころじゃないよ、コムギちゃん。女神ノ学園にいるつもりなら無能力じゃ居れるような場所じゃない。元の世界に帰るなら別にいいけどね」
無能力で居る学生が皆無という訳ではないが鍛え抜き、拳で大岩を粉砕するようなヤツや武術を極めたような変人ぐらいである。
元の世界に帰ると言われて慌てた様子で口をワナワナさせるコムギが2人に詰め寄る。
「それ、困る! コムギ、困る!」
「お前……元の世界にそこまで帰りたくない理由って……まあ、いいか」
隆二から目をツッツーと擬音が聞こえるような露骨な目を逸らし方をするコムギを呆れ、肩を竦める。
こちらに気付かずに説明を続けるフレイドーラの背を見ながら隆二は話を本線に戻す。
「その流出を防ぐ為にこれから2つ目の能力を覚醒しにいく。訓練用ダンジョンに行くのはその為だ」
「コムギちゃんはレベル2になりました! 新しいとくぎを覚えた……はっはは」
ちゃらっちゃちゃちゃ、と言って1人で楽しそうな聡を隆二は相手にしてられないとばかりに放置してコムギに向き合う。
「覚醒した能力が『宣託の儀』で得た能力を自分に固定してくれる役割をしてくれるんだが、その特技も人それぞれで能力の良し悪しが……」
「おい、お前等、我の話を聞いてるか?」
説明していた隆二を止めるように話しかけてきたのは悲しくも誰も聞いてない説明を延々にしていたフレイドーラであった。
不機嫌そうに半眼にするフレイドーラに苦笑いする隆二と目を逸らすコムギ、そして我関せずとばかりに自分の母親の写真を見つめて恍惚な表情をする聡。
お小言を言われるかもしれないと思っていた隆二達の予想を裏切り、フレイドーラは口の端を上げる笑みを浮かべて、再び、歩き始めた。
チラリと後ろにいる隆二達を見ると話しかけてくる。
「どうせ、発展性のない能力の優劣の事を話しておったのだろ?」
「発展性のない能力なんですか?」
質問するコムギに振り返らずに頷くフレイドーラは続ける。
「『宣託の儀』で得た能力は鍛えれば鍛えただけ高みを目指せる。だが、これからお前が得ようとしてる能力は発現した時のまま鍛えられない。まあ、その能力の如何で将来が決まると思ってる学生は多いようだがな」
くだらん、と吐き捨てるフレイドーラは「我の友はその能力は面白いヤツが勝ち組と言っておった」と豪快に笑う。
思い出すように掌をパンと叩くコムギは嬉しそうにフレイドーラに話しかける。
「コムギ、ミドリ先生に凄い才能があるかもって言われたんだけど……その能力が凄い?」
「ん? ミドリがそう言ったのか? めでたい事だ。だが、それは『宣託の儀』で得た能力のほうだ」
フレイドーラの説明を受け、ホヘェとアホの子がするような顔をするコムギを見て、フレイドーラだけでなく隆二と聡にも分かった。
コムギの脳の処理が追い付いてない残念な事実に。
「まあ、実体験に勝る説明はない、とも言うしな。そう言ってる間に次の角を曲がれば訓練用ダンジョンだ」
フレイドーラが言うように曲がった先には廊下からいきなり洞穴といった場所に出る。入口である場所は真っ暗、というより揺らめく闇といった風に霧状になっている。
その入口の周りには沢山の学生が待ち構えていて、コムギが来た事が分かるとコムギに群がり始める。
コムギを囲むと一気に話しかけられる。
「『宣託の儀』は済んだ? どんな能力?」
「え、えっと、回復……」
コムギの解答を聞いた学生達が一瞬、眉を寄せるが「この後の能力次第か」などと呟く。
ぎらついた目をして勧誘に勤しんでいる学生に囲まれてビビったコムギが必死に隆二達にジェスチャーで助けを求める。
隆二や聡がこの学生達に何か言えば、余計に騒ぎが大きくなると判断して隣にいるフレイドーラを見つめると頷いてくる。
前を見たフレイドーラは気負いのない動きで横の壁を叩きつける。
軽くしたように見えたが壁一面にひび割れが走り、崩壊間際の軋みを聞いた学生達がビクついた様子で振り返る。
ビビる学生達を睥睨するフレイドーラはゆっくりと話をした。
「勧誘に必死なのは良いが、ここで足止めしてソイツの能力を流すハメになったらどう責任を取るというのだ? そんな事あったら引率者としての責任で書かされる始末書……減給されて我の酒代がっ!!!」
「フレイドーラ先生、最後に本音がダダ漏れです」
凄まじい威圧を放つフレイドーラの横で範囲外であった隆二が半眼で呆れを隠さずに突っ込みを入れる。
威圧範囲外であった隆二だからそうだったがモロに受けた学生達は両端を綺麗に分かれ、ビシッと整列する。
まさにモーゼの十戒のようであった。
それを見て鼻を鳴らすフレイドーラは踵を返して訓練用ダンジョンに入って行く。
フレイドーラに続くように背を追う隆二も入って行くが聡は入る前に振り返る。
「コムギちゃんは整列する必要はないよ?」
学生達と一緒に整列するコムギの姿が聡の視線の先にあった。モロにフレイドーラの威圧を受け、流れで整列したコムギは聡に声をかけられたと同時に色々と悲しくなって涙を流した。
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訓練用ダンジョンに入ったコムギはあるモンスターの向き合い、冷たい汗を流していた。
目の前のモンスターから決して目を逸らせられないという気迫を漲らせる。
ジリジリと下がるコムギであったが大きな掌で後退を止められる。
「さあ、戦え」
「む、無理! コムギ、あれは無理!!」
プルプルと顔を振り、目端に涙を盛り上げるコムギに呆れた溜息を零すフレイドーラ。
同じようにさっさとやってくれとばかりにウンザリとした表情をする隆二と母親の写真の手入れに余念のない聡。
「とはいえ、これ以外で命の危険がない相手はおらん、というか、これ以外ではお前は死ぬぞ?」
「そ、そうかもしれないけどぉ……違う危険が孕んでると思うの!」
コムギの視線の先にはプルプルお肌の楕円系の生き物? が立ち塞がっている。
イヤイヤと首を振り続けるコムギの背をフレイドーラが蹴っ飛ばす。
全力で泣くコムギがたたら踏みながら近づくモンスターを指差すフレイドーラが告げる。
「最弱モンスター、スラ犬だ。さっさと倒せ」
雪で作ったウサギのスライムの犬バージョンといったモンスター。
初めてする戦闘をコムギの悲鳴と涙で火蓋が切られた。
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