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4話 可能性の光

 職員室を出た隆二達が保健室に向かう。


 保健室がどういう場所なのかを聡がコムギに説明していた。女神ノ学園の保健室は通常と違い、表と裏の顔が存在していた。


 表はどこの学校でもある簡易病院のような側面。これはコムギにとっては街の病院ではなく、退職した先生が聞きかじりでしている診察のようなものとして理解が早かった。


 裏の顔、『信託の儀』を行うというのが良く分からないようだ。


 説明するのが苦手な隆二が聡に振った訳だが、どうしてもコムギにはピンとこないらしい。


「人には眠っている、普通は決して表に出ない才能があってそれを見出して表に出す儀式みたいな、としか言いようがないんだ」

「良く分からないけど、凄く危ない気がする……コムギはそう思う!」


 何がどう思っての発言かは分からないが、おそらく未知から恐怖だろうと隆二と聡は顔を見合わせて肩を竦める。


 特に危ない事はないし、実際、今まで事故らしい事故もない。しいて上げるなら覚醒した力に興奮して暴発させたヤツが過去にいたぐらいである。


 コムギの不安は原理の分からない力というところからきているのだろうとは2人も気付いている。


 どうしたものかと思っていると隆二が何かを思い付いたような顔をした。


「まあ、あれだ。神様に祈ってたら魔王復活が迫っていると力を授けてくれるヤツの親戚みたいなもんだ」

「神様か……なるほど、それだったらコムギも安心!」


 隆二の適当過ぎる説明で納得したらしいコムギは鼻歌を歌いながら「神様はコムギにどんな力をくれるかな?」と嬉しそうにする。


 それを横目にしている聡がヒソヒソと隆二に話しかける。


「ウソ……原理が解明されてる訳じゃないから違うとも言えないけど適当過ぎない?」

「いいんだよ。現時点、ウソって訳じゃないならな」


 チョロイとばかりに口の端を上げる隆二からコムギに目を向ける聡は「所詮、ママ以外は愚かだしね」と結論付ける。


 適当に述べたそれを信じた隆二とコムギが実は正解である事を隆二と聡は気付く事は出来なかった。


 それはともかく保健室が見えてくると浮かれるコムギに隆二が言う。


「そういや、お前、自分が美女がどうこう言ってたよな?」

「それがどうしたの? コムギは美女であり美少女よ!」

「せめて、どっちかにしとこうよ。まあ、所詮、ママ以上はいないけどね」


 フフンとない胸を張るコムギに余裕の笑みを浮かべる隆二を訝しげに見つめる。


 到着した保健室のドアをノックをすると女性の声で返事あり、ゆっくり開く隆二が言う。


「美女というのはこういう人を言うんだ!」


 コムギが隆二に招かれるように入った先には美女がいた。


 同性であるコムギからしてもそう表現して見惚れる長い新緑の髪をする白衣を着た美女がいた。


「失礼します、ミドリ先生!」


 少し照れた様子で言う隆二が言うミドリという保険医はオッドアイで髪と同じ色の新緑と金色のコントラクトが美しさを醸し出していた。


 隆二の言葉に微笑むように目を細めたミドリは軽く腕を組むのを見てコムギは気圧されるように自分の胸に目を向ける。


 腕を組む事で豊かである胸と更に腰の細さを見て先程、信仰している神に向かって心で呪う。


「あら、どうかしましたか、隆二君?」


 首を傾げると僅かに流れる髪にも爽やかな色気に隆二は更に照れた様子をみせ、コムギは貧富の差に涙する。コムギが感じる貧富が何かを追求しないのはきっと優しさではないだろうか?


「えっと、コイツに『宣託の儀』をして貰おうかと」

「そういえば見ない顔……ああ、昨日、フレイドーラ先生が言ってた子がこの子? 可愛い子ね」


 ミドリの可愛い子発言でパァと表情を明るくするコムギと「ないない」と断言する隆二に迷わず踵で足を踏むコムギ。


 踏まれて痛がる隆二に苦笑するミドリが隆二の額を人差し指で突く。


「女の子に優しく出来ない男の子は駄目よ?」

「はい、以後、気を付けますっ!」


 シャキっと敬礼する隆二に微笑み、離れて奥にある箱から人の頭サイズの大きさの水晶を取り出して机に置くとコムギを手招きする。


 そして、やってきたコムギに水晶の目の前にある椅子に腰かけるように言って反対側にミドリも座ると説明を始めた。


「これから『宣託の儀』を始める前に少しお話しますね?」

「は、はい!」


 先程までの柔らかい笑みから真剣な表情に変わったミドリに緊張したらしいコムギは若干上ずりながら返事をする。


「『宣託の儀』を受けるという事は女神ノ学園の学生になること……つまり覚醒したら戦いを強いる事になる。勿論、どうやっても戦いの場に居ても役に立たない能力だったりすればサポートという違いがありますが基本、それはないと思って欲しい、ここまではいい?」


 言ってくるミドリの言葉に生唾を飲むコムギが怖々と頷くのを見て苦笑いするミドリが「ごめんね?」と言う。


「脅すように言ってるのは退園になったら目覚めた能力も覚醒前の能力も完全に失う事になるからなの。これは偶発的にそういった能力が目覚めてしまった人の受け入れ先になった女神ノ学園の基本、ここは納得して欲しいわ」


 本来、異能などに目覚めた者を入れる学園だったのでここでも許容出来ない人格破綻者にはどうしても必要な手段であった。


 だから、そのリスクに見合うように『願いを叶えて貰える』というシステムがあるのでは? と言われている。


 びっくりしているコムギを覗き込むようにするミドリ。


「ここにいるという事から元の世界に戻る選択をしなかったのは分かる。その理由は詮索する気はありませんが、女神ノ学園は貴方が思うような場所ではないかもしれませんよ?」

「……そうかもしれません。でも、コムギは戻るよりここがいいと思ってます」

「はぁ? なんでだよ?」


 横で聞いてた隆二が問うと拳を震わせて横にいる隆二を見上げる。


「で、出会いがないの! 女しかいない修道院だったからっ!」


 はっ? という顔で固まる隆二とクスクスと笑う聡とミドリ。


 コムギの説明を聞くとどうやら僻地にある修道院で訳ありの貴族の娘だったり、男という生き物に絶望しか感じられない女達の駆け込み寺ならずの駆け込み修道院らしい。


 コムギは物心が付いた時には修道院にいて男を幻滅しておらず、ある意味、憧れのようなものがあった。


 正直な話、隆二達に着いてきたのも珍しい男に会ったからという理由も含まれていた。二か月に一度やってくる初老の行商人の男ぐらいしか見た事がなかったらしい。


 クスクスと笑うのを収めたミドリが頷く。


「まあいいでしょう。それが本命の理由ではないようですけど……」


 流し目をするように見つめられたコムギが引き攣った笑みを浮かべるがそれを追求せずに


 「フレイドーラ先生も悪い子だと思ってなかったようですしね」


 と告げ、自分もそう判断したと言いたげに微笑を浮かべる。


 優しい笑みを浮かべるミドリが目の前にある水晶を示す。


「では、『宣託の儀』を始めましょう。その水晶に触れて下さい」


 おそるおそる手を伸ばすコムギに「触れた時に光りますが驚かないように」と注意してくる。


 それに頷いたコムギがゆっくりと水晶に触れると弾けるような光が生まれる。


 激しい光に目を細めて驚くコムギと嬉しそうに両手を合わせるミドリ。


「「……」」


 その光を見て眉を寄せて微妙な表情をする隆二と聡。


 激しい光を放っていた水晶の光が何事もなかったように消える。


 事情が分かってないコムギが3人を見渡して困惑顔で情けない声を洩らす。


「何が起きたの?」

「おめでとうございます。才能開花しました。回復させる力のようね。しかもあの強い光は高い才能かもしれないわね」


 ミドリに才能があると言われたコムギは鼻息荒くして振り返った先にいる隆二達に言う。


「聞いた!? コムギ、凄いって!」

「あ、まあ……しかしな……」

「隆二、待って……これから慣らしに行って、ステータスチェックしてからで」


 2人のおちょくる感じの雰囲気がまったくなく少し深刻そうにしているのを見て戸惑うコムギ。


 その3人の様子を見て困った子達だと言いたげにするミドリが口を開こうとした時、ノックもせずにドアが開かれる。


「そろそろ終わったか?」


 ドアを開けて入ってきたのは職員室で別れたフレイドーラでそれぞれする表情がバラバラなのを見て首を傾げる。


 そんなフレイドーラを見て小さく溜息を吐くミドリが立ち上がり、フレイドーラに近づく。


「ノックぐらいしてくださいね? でも入ってくるタイミングは悪くありませんでしたので今回は不問にしますね?」

「むぅ、そうか、悪い事をしたな」


 たいして気にしてない様子のフレイドーラはコムギをジッと見つめた後、頷く。


「ふむ、どうやら『宣託の儀』は済ませたようだな。では、慣らしに訓練用ダンジョンに行くぞ」


 隆二と聡に「お前等も付き合え」と言われ、おとなしく頷く2人は出て行こうとするフレイドーラに着いていく。


 コムギは右往左往した後でミドリに深々と頭を下げると飛び出すように保健室を後にする。


 走り出るコムギに掌を振るのをやめたミドリが椅子に腰かけて足を組んで窓から空を見上げる。


「まったくあの2人はまだ自分達と周りを比べて劣等感を感じてるようね……」


 悩ましげに溜息を洩らして出て行ったフレイドーラ達を追うように見つめる。


「何でも出来る子より、何かを成そうとする子が愛される……神々にね」


 人の評価とは違う評価をする神々。


 そう、あの水晶の光の強さは可能性を示す事である事を人の子達はまだ知らない。


「でも、そんなところがまた愛しいのよね」


 ミドリは優しい、母性を感じさせる笑みを浮かべた。

 感想など頂けるとバイブルのやる気に繋がるのでよろしくお願いします。

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