3話 村一番の○○……ダウト!
早朝、ランニングをして部屋に戻ってきた隆二は汗を拭きながら奥に行く。
部屋の中央に来て隣にあるベッドを見つめるとコムギが涎を垂らしてシーツを蹴っ飛ばしている姿が目に入る。
「どの口が美女とほざくやら」
溜息混じりに見つめる先にいるコムギは隆二のシャツを捲り上げてお腹を掻いた格好で気持ち良さそうに寝ていた。当然のように目に入る白いパンツの有難みはゼロである。
ちなみに隆二が早朝ランニングに行く時も同じ格好をしていたコムギのシーツを元に戻しておいたが帰ったらこの有様であった。
溜息を洩らす隆二は未来視が出来る気はしたが再び、シーツをかけ直して汗を流す為にバスルームへと向かう。
「きっと無駄な事をしてるんだろうな……」
その言葉を証明するようにシャワーを済ませた隆二が返ってくると予想違わないコムギの姿がそこにあった。
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学食の朝食時間が始まるタイミングでコムギを起こして部屋を出た隆二は聡と合流して向かう。
勿論、起こす直前にシーツをかけてから揺する配慮は欠かしてはいない。
当然、隆二の為の配慮であるが。
学食に着くと朝食を食べ始める3人だが、朝からランニングをしていた隆二は分かるが昨日の夜と同様に健啖さを見せるコムギは今日も3杯目の白米を幸せそうに食べていた。
どのオカズでも美味しそうには食べているが特に白米が好きそうである。
そして、昨晩と同じ葛藤を始めるコムギを見て隆二は突っ込まないと心に秘めた。
そうこうしていると隆二達と同じように朝食を食べる為に入ってきた学生達が隆二と聡のコンビと一緒に見慣れない少女、コムギがいるのに気付き始める。
遠巻きに見ている事に早い段階で気付いていた2人はシカトをしていたが、1人の少年が押し出されるようにしてコムギを目指して歩いてくる。
「ねぇねぇ、君を見た事をないと思うんだけど中途入園者?」
「えっえっ?」
4杯目に行くべきか熟考していたところで声をかけられたコムギが目を白黒させる。
先陣を切った少年に続けとばかりに様子見していた者達が近寄る。
「どんな能力を持ってるんだい?」
「私達、女の子だけの4人パーティなんだけど一緒にどう?」
などと色んな者達に一気に声をかけられてどうしたらいいか分からないコムギが涙目になって隆二に視線を向けてくる。
聡はクスクスと笑い、食後のお茶を飲んでいるので介入する気がないと分かり、渋々、隆二は口を開く。
「勧誘したいのは分かるが、コイツは何を言われてるか分かってないぞ?」
「どういう事だよ?」
露骨に邪魔するな、とばかりに隆二に視線が集まる。
「俺もどういう事だよ? って聞きたいぐらいなんだが、とりあえずコイツはこれからフレイドーラ先生の所に連れて行く予定だ。ちなみにおそらく無能力者だ」
「ウソじゃないだろうな……先に唾を付けようとか?」
違う、違うとウンザリと手を振る隆二を訝しげに見つめるがコムギが理解出来てない様子で右往左往しているのを見て少年は舌打ちする。
先程、女だけのパーティに誘っていた女が気を取り直すように肩を竦める。
「なるほどね……じゃ、宣託の儀を受けたらまたお話しましょう」
そう言うとクモの子が散るように学生達が朝食へと戻って行く。
まだ事情が分かってないコムギが目をパチクリしてるのを見て溜息を吐く隆二が食器を持ち上げて立ち上がる。
「説明してやるからここから出るぞ。同じパターンがあったら面倒だからな」
そう言う隆二が食堂に入ってくる学生達に顎でしゃくって示すのを見たコムギはガックンガックンと頷くと隆二を見習うように食器を手にして立ち上がった。
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職員室を目指して歩く隆二は隣で聞きたそうにしているコムギに説明を始める。
「今さっきの奴等はコムギを仲間にしようとしてた。そこは分かるよな?」
「う、うん、良く分からないけどそれだけは分かった。でもコムギがどんな子が分からないのに……」
「まあ、どこのパーティも新しい顔を見ると勧誘するからね。数は力だし、換えの駒は必要なのは間違ってない」
だから、コムギがどんな子か分からなくてもとりあえず声をかけると聡に説明される。
困ったように両人差し指をツンツンとするコムギが悲しそうに言う。
「リュウが言うようにコムギは力もないし、魔法も使えないよ?」
「はっ? リュウって俺の事……まあいいか、現時点はそうなんだろうが、そこでさっきの女が言ってた『宣託の儀』というのがある」
何それ? と首を傾げるコムギから隣にいる聡に目を向けると肩を叩く。
「説明任せた」
「はっはは、やっぱり馬鹿な隆二に説明は難しいかな? ある水晶があってそれに触れると眠れる才能を揺り動かすんだ。そうすると君の世界の言葉では魔法やスキルが発現する」
流暢に説明をする聡だが、隆二にケツを蹴られて地面にキスさせられている。
一瞬は驚いたが平気そうに話すので無事だろうと判断したコムギは聡に質問を続ける。
「でもでも、コムギには何もないかもしれないよ?」
「それはないらしいよ。少なくとも一つは発現すると言われてるからね」
「どうしてそんな事が出来るのかな?」
「まあ、神様がしてるって言われてる」
合ってても、違っても証明しようがないと分かる内容を隆二がドヤ顔で言ってくる。
説明させられたのに蹴られて顔面を地面に叩きつけられたのに聡の顔は傷一つなく、平然と立ち上がる。
「でもまあ、お前は元の世界に戻るから関係ないだろうけどな」
「その事なんだけど……キャッ」
何かを言おうとしたコムギであったが急に止まった隆二の背に顔をぶつける。
また鼻をぶつけたらしく赤くなった鼻を押さえて泣きそうになっているコムギに罪悪感を感じてなさそうな隆二がコムギに文句を言われる前に告げる。
「着いたぞ、ここが職員室だ」
そう言うと隆二はサクっとドアを開き、入って行く。隆二を追うように聡も入って行くのを見てコムギも口をへの字にして入って行った。
入ると隆二の背を追ってコムギは歩いて行く。
すると昨日の晩も会ったフレイドーラの姿があった。
フレイドーラは頭が痛そうにコメカミを押さえて、隆二達を見て一瞬首を傾げるが何かを思い出した顔をした。
その様子に凄まじい不安を感じた隆二達に手招きをするフレイドーラ。
「待っていたぞ、3人共」
「いや、絶対に忘れてたな」
「二日酔いのようですね」
そんな事実は確認されないとそっぽ向くフレイドーラに隆二が告げる。
「本当ですか? コムギに耳元で叫ばせますよ。女の高い声は良く響くんじゃないですかね」
そう言って睨み合う、いや、見つめ合う2人。
一息吐いたフレイドーラが腕を組んで隆二達を見渡す。
「昨日の会議で決まった事なんだが……」
「会議じゃないよな? 飲み会だよな!」
「僕が保障しよう。フレイドーラ先生は忘れていた」
「……」
隆二と聡に言われ、コムギには半眼で見つめられたフレイドーラはクッと唸り、目を閉じる。
すぐにクワッと目を見開く。
「昨日の会議で『帰りたいなら帰る。ここに居たいなら好きにさせてあげたら?』と言う者の意見が取り入れられる事になった」
「それ言ったの絶対、ノルン先生だよな? なっ?」
詰め寄ってくる隆二の顔をアイアンクロ―するように掴んで押しやりながら続ける。
「ここに残ると言うなら『宣託の儀』を受けるように」
コムギにそう伝えたフレイドーラの手を必死に放そうとする隆二に質問する。
「で、どうしてこの子は我達に着いてきたんだ?」
「そう言えば聞いてないわ」
隆二がそう言うと3人の視線が集まり、たじろぐコムギがポツリポツリと話し始める。
「村一番の美少女であるコムギは生贄に自分から志願した……」
「最初からダウト!」
「どうしてよ!」
「我もさすがにどうかと思うぞ?」
「ふっは、ママ以外は等しくゴミ」
手帳を取り出して中を覗く聡と憐れみの目をするフレイドーラ。
最後にウンウンと頷く隆二がフレイドーラの机の上にあった棒状の水晶の差し出す。
「何これ?」
「これは嘘を吐くと色が変わり、程度次第で色は濃くなる。もっとも酷い嘘を言うと割れる」
そう言って目の前に差し出されて水晶を見せつけてくる。
「ウソじゃないなら触ってみ?」
「……そんな事……いいの! 私は帰りたくない。だから、ここにいたい」
そう言った後、水晶をコムギが握るが色は変わらない。
どうやら最後の言葉は本気のようだ。
「まあ、我はお前が元の世界で何をやったかはどうでもいいがな」
フレイドーラは、何かコムギがやらかしたのだろうと気付くがどうでも良さそうだ。
訝しげに見つめてくる隆二から視線を逃がすコムギにフレイドーラは机から書類を取り出して手渡す。
「高田、保健室に連れて行ってやれ」
「『宣託の儀』だな? 了解」
フレイドーラから書類を受け取って戸惑う連れて隆二達は職員室を後にした。
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