2話 コムギの初めての夜な件
仕事初め、初日の出勤をしようと思ったら車のタイヤがパンクしておりました……
いつなったかは正直分からりません……活動報告で書いたような事情があったので(泣)
運転席側の2本がやられ、前輪が空気を抜かれ、後輪は釘が刺さっていた……
ひたすらブルーになる初日でした(泣)
夜、学食時間終了30分前に滑り込むようにして入ってきた3人の少年少女が広い片隅で食事を取っていた。
いや、正確に言うなら食べているのは少女だけで、少年2人は既に済ませたようで白髪の少年に至っては食後のお茶を楽しんでいる。
もう1人の寝癖をそのままにしているような黒髪の持ち主の少年は正面でモキュモキュと擬音が聞こえそうな幸せそうに白米を食べる少女を片肘を付いて呆れ顔で見つめていた。
ショートの金髪の少女は頬にお弁当している事に気付かず、自分が持つ茶碗に逆手で持つフォークを突きいれてカツンと高い音をさせる。
茶碗の中を覗くと空になったようで背後にある備え付けされる炊飯器と自分の持つ茶碗を交互に見つめて断腸の想いで被り振る。
「食べ過ぎは駄目。だって、コムギ、女の子だもの」
「別に食いたいだけ食えばいいんじゃねぇ? それに大盛3杯食った後で今更感が酷いしな」
「そんな小さい体でどこに入ったのか不思議なぐらいだね」
黒髪の少年、隆二にそう言われた金髪の少女、コムギは顔を真っ赤にしてフォークを咥える。
そして、聡が言うように身長150cmあるかどうかのコムギのどこにそれだけ食べたのだろうと思わされる。
この場で一番食べるのは隆二であるが少なくとも聡よりは食べた上にまだ食べれる様子のコムギの限界はいずこであった。
更に顔を真っ赤にしたコムギが両手でテーブルをバンと叩いて身を乗り出す。
「美少女を掴まえて食いしん坊のレッテルを張らないで!」
「いやいや、あれだけ良い食いっぷりを見せられたらな?」
身を乗り出して近づくとコムギの小さい唇の傍に備え付けられた米粒を抓んでとって見せてやる。
その事実を突き付けられたコムギが口をパクパクさせるのを横目に隆二はその米粒を食べてみせると沸点が超えたらしいコムギは目をグルグル回し始める。
「なっなっなっあああ!!」
「ああ、悪い。後で食べようと思って残してたのか?」
「そんな訳あるかぁ!!」
ムキーとコムギが口で叫ぶのを見て隆二は思わず拍手して聡は頷いてみせる。
「これは隆二以来の傑物かもしれない」
「誰がこんな愉快なモノと同列ってか? と聡を殴り飛ばしたいところだが、食堂をおばちゃんがこちらをチラチラ見てるから部屋に戻るか」
隆二と聡の物言いに噛みつこうとしたコムギであったが隆二が言うように食堂をおばちゃんが早く帰って欲しそうに見ているのに気付いて不承不承納得する事にしたようだ。
渋々という様子を隠さずに隆二に案内されるコムギは途中で聡と別れて、隆二の部屋に到着する。
到着した部屋はワンルームであった。
男子生徒はワンルームで個室であり、女子生徒は相部屋である。これを聞くと女子が冷遇されているよう聞こえるが、女子の部屋は風呂は足を伸ばして入れる程の大きさだが、男子は膝を抱えるように入るような小さな風呂である。
だから、男子は大抵シャワーで済ませる者が多い。
更に相部屋ではあるが男子の部屋より3倍も広い空間に設計されている。
ちゃんと均衡を取っているように見えるが何故、男子は個室なのか。
先程、フレイドーラが言っていた責任が取れるなら、という例の話に繋がる。基本的に男子の意思より女子の意思が尊重される。
合意の上でなら連れ込めるが逆に女子部屋は相部屋な為、夜這いのリスクは跳ね上がる。
後、ロンリーウルフである男子にも色々と都合があるだろうという有難いような有難くない配慮がされた結果らしい。
話は逸れたが、部屋に着いた隆二はコムギにシャワーの使い方をレクチャーをして、汚れてしまったシスター服と思われる物を洗濯機に入れるように指示する。
そう言った隆二が一旦、お風呂から出て、バスタオルと隆二の長そでのシャツを持って帰ってくる。
「お前の服は朝にはちゃんと乾くからパジャマ代わりにこれを着てろ」
何かを疑うように手渡されたバスタオルとシャツを胸に抱きながら隆二を見る。
「なんか妙に親切よね……まさか覗く気!?」
「ないな」
力みもなく即答されたコムギが放心してるのを無視して隆二は部屋から出ていく。
そして乾いた音、パタンという音と共にバスルームのドアが閉じられて我に返るコムギ。
「て、テレよね……コムギレベルな美少女相手なんだから! 感情を殺すプロなのよ!」
余裕ぶって髪を後ろに流そうとするがショートヘアであるコムギの指はあっさり通り抜ける。
若干、唇を尖らせて震えているように見えるが気付かないフリはエチケットであろう。
そして、隆二に言われたように着ていたシスター服を洗濯機に入れてシャワーを浴び始める。
体を洗いながらない気配に反応して何度となくドアを振り返るが当然、覗く隆二は存在しない。
それを幾度となくその行動をして何事もなくシャワーを終える。隆二のシャツを切るとワンピースのような格好になってバスルームから出る。
「お、あがったか?」
きっと覗きに来ると思っていた隆二は部屋で上半身裸で腕立てをしていた。少しは肌を紅潮させ、開け放たれた窓から流れる春の程良く冷たい風がほんのり汗の匂いを運ぶ。
腕立てを止めて肩にかけていたタオルで顔を拭いながら棒立ちするコムギの横を隆二は通り抜ける。
「ベッドを使っていいぞ。俺は床で寝るから」
また再び、乾いた音、バスルームのドアが閉まる音が聞こえる。
シャツをギュっと掴んでプルプルと震えるコムギが声音を震わせながら呟く。
「な、なかなか紳士じゃない? 運動で発散して耐えようなんて?」
何かを必死に自分の中で守ろうとしているらしいコムギが乾いた笑いをしながらベッドに入り、シーツに潜りこむ。
「いえ、まだ油断するのは早いわ! 寝静まったらビーストチェンジする気かも……気を引き締めるのよ、コムギ!」
クワッと目を見開くコムギが息を顰めているとシャワーを終えた隆二がバスルームから出てくる。
そして、部屋の電気を消され、床に隆二が転がる音がし、数秒後、息を顰めていたコムギの耳に静かな呼吸音、寝息が届けられる。
「……」
何から身を守ろうとしてるのかは不明だが小さく身を丸めていたコムギであったが数分後、プルプルと震えた後、ガバッとシーツを跳ね除ける。
「有り得ないっ! こんな美少女を傍にして何も出来ない青少年というなら分かるけど、あっさりと寝るとかどういう神経してるの!」
コムギは寝ている隆二に文句を言い放つが既に深い眠りに落ちているらしく目を覚ます様子はない。
有り得ないと枕をバスバスと叩くコムギはハッと何かを思い出したかのようにびっくりした顔をする。
「そ、そういえば、コムギの話を聞いて貰ってない!!」
ベッドから慌てて降りて隆二を揺すって起こそうとするが寝がえりをうって背を向けるだけで起きはしない。
それを見て深い溜息を洩らすコムギは疲れたようにベッドに戻る。
「コイツ、どんな神経をしてるのよ……」
シーツを被り、隆二を背にするようにしてベッドに横になる。
また何かを思い出したかのような顔をするコムギ。
「あれ? 良く考えたら男の子と同じ部屋で寝るのって初めてじゃない? よりによってコイツが初めてとか……」
落ち込みそうになるコムギであったが小さい声で「コムギ、ふぁいと」と呟く。
目尻に涙が浮かんでいたような気がするが存在しない事実らしい。
寝がえりをうって隆二の緩やかに動く背を見て肩を竦める。
「今日、コムギ寝れないかも……図太いコイツが羨ましい」
そう言うコムギが目を静かに瞑る。
数秒後、2つの音色、隆二とコムギの寝息が混じり合うように静かな部屋に奏でられた。
少なくとも、コムギが定義する青少年も年頃の少女はこの部屋には存在を確認は出来ないようであった。
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