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8話


「ようこそ、私たちの家へ……」


 ロクロ―はスライムの上に寝っ転がりながら、アンリの言葉を反芻していた。あの後、ロクロ―はアンリ達と一緒に食事をとり、ハルと一緒に風呂に入った後、スライムと遊んでいた。食事中に料理の名前、食器の使い方を覚えたり、体の洗い方を教わったりと、目をつむるだけで今日の出来事が鮮明に呼び起される。街で味わったあの疎外感が全く気にもならないほどに。少しだけ笑みがこぼれた。ただ、ハルとの戦闘は全く記憶にないため、少し気になるところであった。が、思い起こそうとしても水中でフワフワと漂うような感覚だけで何も思い出せない。まあ、いいかと記憶のことを隅に追いやり、少し天井を眺め始めて、少しウトウトとし始めた。今までのボロボロだった服は取り換えられ、新しく貰った服の妙になれない感じもすぐに馴染んで、少し暖かい。それがまた眠気を誘った。


「アドル、なんとか僕はやっていくよ」


 そう呟いて、満たされた心地よい闇の中へと入っていった。


 翌日、ロクロ―が妙な熱さを感じつつ目を覚ました。あの青色のスライムが一晩中、身体を覆っていたようだ。意外なことにかなり居心地はよかった。


「ありがと」


 スライムはロクロ―を離して、小刻みに揺れた。ロクロ―はなんとなく察しがつき、手に魔力を集めて、スライムに触れた。スライムはそれを吸うように手だけ覆い、水を飲むときの喉の動きのように体を収縮しつつ魔力を吸った。満たされたのか激しく青い身体を振って弾んで、ロクローにすりすりと体を当ててから、部屋の奥へと下がっていった。ロクローは舐められた箇所と当てられた箇所に触れて濡れ具合を確かめるようにさすったが特にしっとりとした感触がなかったので、気にすることなく部屋から出た。


 ロクローは食卓に着くとすでにアンリとハルがいて、アンリはお茶を入れて、ハルはフワフワと黄身が盛り上がっている目玉焼きを皿に盛りつけていた。軽く挨拶をして、三人で食事をした。少しロクローをいじったような会話でアンリとハルは盛り上がっていた。ロクローは食事に夢中で何も聞いていなかったが、雰囲気がまったりとして安心感が優しく周りに広がって行く感覚が心地よかったので会話に割り込む事なく黙々と聞いていた。そうして、ちょうど目玉焼きに手を着けているところにアンリが話しかけてきた。


「そういえば、ロクロ―君」


「なに?」


「魔法とか興味ない?」


「魔法……うん、少しある」


「そっか、じゃあ教えてあげよっか?」


「え、いいの?」


「うん。驚くことに私ね、実は魔法使いなんだ!……あんまり驚いてないね、あ、いいの、気にしないで、それでね、教えるのがあんまり上手くないから、弟子が出来た時に不安だから練習で弟子役が今欲しかったところなの」


「え、ハルは?」


「勉強は苦手だ」


「ってな感じなの。ねえ、むしろお願いします!」


「うん、いいけど、あんまり体力ないから、そんなに長くできないけど」


「?・・・・・・いいの、いいの!そこが私の腕の磨きどころだから任せて!」


「う、うん。それじゃ、よろしく」


「ありがと!ついでに戦い方も教えてあげるね、ハルが」


「なんだそりゃ」


「いいから、ね。どう、ロクロ―君」



 ロクローはアンリの提案を受け入れて、というよりは押し切られて、アンリからは魔法を、ハルからは戦いを学ぶことになった。ロクローにとって、これは有難い提案だった。少し勘ぐってアンリの言葉の裏にあるかもしれない思惑を探ろうと思ったが、どうにもこのペースに巻き込まれて深くは聞けなかったし、不思議と聞く気にもならない程の些細な問題にも思えた。


 朝食を食べ終わるとロクローは昨日教わった通りに皿洗いをしてから、家の地下の部屋に案内された。地下室はアンリが一拍、手を叩くと、天井の明かりが点いた。そこは足の踏み場もないほど無数の紙と本が散らかってるのと、壁に掛かっている大きな黒板も白で塗りつぶしたのかと勘違いするぐらい白い文字の書きなぐりがあった。


「ちょっと、散らかってるけど、がまんしてね」


 黒板前の机の上にふわりと浮かんで、机にあった試験管や、紙を片づけだした。


「うん。どこにいればいいの」


「じゃあ、ほいっと」


 アンリが片手に空中に向けた、宙に正立方体の藤色の何かができた。思わず、ロクローは感嘆の声を出した。


「そこの上に乗ってて、すぐ片づけるから」


 ロクローは手を突きだして箱にぺたぺたと触り、しっかりと抜けないかどうか確かめて箱の上に上った。少し口の広角が上がった。


「うーん、もうそのままでいいかな。片づけはめんどくさいしね!じゃあ、さっそくやろう!まず、魔法とはね」


 感動も冷めぬまま、アンリの授業が始まった。アンリはやる気十分といった様子で黒板に文字を書いていく。


「それなんて書いてるの?」


「あ、そっか文字わかんないか・・・・・・これは魔素って読むの、魔素っていう魔力の素があってね、基本的にこの世のどの物質でも持ってる要素なんだけど、世界の理に呼びかけて魔法を顕現するっていうのが、基本的なことなんだけど、実際問題は違うの、魔素の運動が魔法を呼び起こしてるの、それがどういうことかっていうとね・・・・・・」


「ううん?うん」


「魔法ってすごいでしょ!、それでね・・・・・・・」


 ロクローはほとんど理解ができなかった。アンリの言葉の表面しかわからず、魔力は魔素からできてるんだな、ぐらいしか理解できなかった。


「それでね、どうなると思う?」


「うん?どうなるんだろう」


「それはね、魔法陣や召還術まですべて魔素が使われてるってこと、しかも生け贄とか代償なしで、すべて魔素、つまり魔力だけでいけるってこと!」


 スピードが早くて全く理解がおいつかない。アンリが違うの世界にいった人間に見える。アンリはその視線に気がついたのか、口を止めてロクローをみた。ロクローはアンリがこっちの世界に帰ってきたことさいわいにと話しかけた。


「ごめん、アンリ。ちょっとよくわかんないや」


「えっと、どこがわからないの」


「大体全部、その魔素っていうのが魔力の元っていうのしかわからなかった」


「ええええ!もっと早く言ってよ!」


「アンリが速いから、言えなかった」


「ええ、そんなに?」


「そんなに」


「うーん、どこから教えていったら・・・・・・」


 ロクローは困っているアンリを見て、それならと座っている何かを叩きながら


「じゃあ、これ教えてよ」


「それは結界っていって、障壁を繋いで作るんだけどかなり難しいよ?私でもーー」


「へ、そう?」


 ロクローが手を出すと、宙に同じ立方体が現れた。アンリが作った物と違い、黄色の結界だ。


「ほら、できたよ」


「半年もって・・・うそ・・・」


「いや、だって目の前で見せてくれたし、それにこれ結界だっけ、体力ぜんぜん使わないし、楽だ」


「それはロクローくんの魔力量がおかしい・・・・・・うーん、天才かな。ねえ、ロクローくんこれどうやって作ったの?」


「ええっと、なんかぶわーってなって、なんかこうわーって、ぐーんってなるでしょ。そんでそっからぶーって」


「うん、うん、そっか・・・ねえ、これはどうかな」

 

 とアンリの手のひらにスライムの氷像ができた。


「できるよ」


 と同じような氷像がロクローの手のひらにできた。冷たいのか、さっき自分で作った結界の上に置いて、すこし満足気に氷蔵を見ている。アンリは度肝を抜かれたように口を開けてロクローを見ていた。


「ほんとだぁ・・・・・・よし、今日はここまで!」


「え、もっと教えてくれないの?」


「うーん、ちょっと私に作戦を練る時間くれない?弟子の教育方針を間違えたみたいなの」


「また教えてくれるんだね?」


「うん!最高の魔法使いアンリがちゃんと約束するよ!」


「う、うん」


 なんだか、不安になりつつもロクローは部屋を出て行った。さっきの結界を作った感触を確かめるように手のひらに結界出しつつ、その上に氷蔵を作り出した。すこし、にやつきながら一階に戻ると、ハルがエプロン付けて掃除をしていた。


「お、はやいな、もう終わったのか」


「うん。これ教えてもらった」


「結界と氷魔法か。厳しい授業だったろ」


「うん、何言ってるかちょっとわかんなかった」


「はは、俺もだ。おまえはやっぱりこっち側かもな」


「こっち側?」


「肉体主義者だ。よく脳筋とか体力バカとかいわれるあれだ」


「そっかー、そうなのか」


「まあ、とりあえず、そっちが終わったんならこっちもやろうか」


「よろしくお願いします」


「おう」


 ハルは掃除を手早く済ませ、ロクローを前回闘った荒野に連れた。荒野は枯れた潅木と根っこが見える雑草が家の周りに散らかっており、目の前には黒く焦げた箇所と地割れが目立つ。昨日の戦闘の臭いがまだそこにあった。


「さて、さっそくやるぞ」


「なに教えてくれるの」


「それはやりながら確認するわ、とりあえず、魔法以外ならなにやってもいいぞ、かかってこい」


「うん、わかった」


 そういって、数分程、ロクローはハルにあしらわれ続けた。ロクローは昨日のような身体能力に任せて、ゴムボールのように跳ねながら突っ込んでいく、ハルはそれに不可解な顔しつつ、ロクローを攻撃をいなしたり、軽く攻撃を当てるなど、あしらっていたが、ロクローの首回りを掴んで地面に投げた。ロクローは体勢を立て直したかったが、ハルが掴んだままはなさない。


「お前、まじめにやれよ。昨日のあのキレはどこいった?」


「ちゃんとやってるよ」


「だとしたら、ちょっと問題ありすぎだな。殴る時も防ぐ時も下を向いて、俺を見てないぞ。避け方にも無駄が多い。闘ったことあるだうが、これじゃズブのど素人だ。昨日はもっとマシだったぞ」


「いや、そんなことないけど……本気ではやってないから」


「だとしてもだ。お前、今まで山にいたとき何してたんだ?獣や魔獣と闘わなかったのか」


「だって、魔物も襲って来なかったし……戦うことなんてないし、お腹減ったら木の実とか果物でいいし……」


「そりゃそうか……」


 少し、ロクローはむっつりとした。ハルは気だるげに髪をかきあげた。そして、少し間を空けてロクローに話しかけた。


「それじゃちょっと初歩中の初歩をするぞ。違うことをするぞ。打撃はお前向きじゃない」


「じゃあ何するの?」


「歩く」


「え、できるよ?」


「歩く」


「でも」


「歩く」


「はい」


「真似しろ」


 そこからロクローはハルの指導の下、歩き続けた。 

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