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6話

「よっしゃ決まりだ。さっさと来いよ」


 ハルはそのまま外へと軽い足取りで出ていった。ロクロ―は少し唖然とした様子で佇んでいたが、ハッとして立ち上がり、ふと目についたカップに入ったお茶を両手で勢いよく一気に飲み干し、苦い顔でハルを追いかけた。


 ハルを追いかけて、玄関の扉を少し開けると冷たい風がロクロ―をさすった。ロクロ―は怪訝な様子だったがそのまま開け切った。すると外はさっきまで昼だったはずだが、辺りは夜のように暗くなっており、夜空に浮かぶ様々な色の星たちが地面を照らしていた。青白い地面を下地に赤、緑、黄色らが彩っている。さっきまであった庭も建物もなく、ただ一面にこの荒野が星の光を照り返して、広がっていた。その荒野にぽつんとハルは立っていた。ロクロ―は余りのことを動揺して辺りをきょろきょろして玄関から動かない、動けない。顔が青白くなった。だが、間違いなくここは現実だ。肌に触る風の心地がそう言っている。ハルはそのロクローの様子を見て、左手で膝を叩いて笑っていた。


「そっかあ、やっぱ信じられんよな」


「どうなってるの?」


「その家の主の魔法らしいぞ。原理的な仕組みはよく解らんが、その家はこの世界中につながっていて、ドアを捻ると色んな場所にいけるぞ」


 ロクロ―は少しの後悔とこれからの恐怖という冷たいものがずっしりと胸を縛る。ハルという男はあきらかに自分の想像の外側にいる。ここから何があってもおかしくない。しかしもう歩き出してしまったものは後には戻れない。青白くなった顔は一瞬にして赤くなった。るとロクロ―は諦観ゆえの強い気持ちでハルを見つめた。


「お、いいね、やる気じゃん。じゃあさっさとやろうか」


 ハルは右手側のぶらぶらしている空白の布の部分を器用に肩らへんに捲りつけていつでも動けるように腰を少し落とした。ロクロ―は猫背気味に前傾姿勢をとり、左足を前に、右足を後ろにして構えて、ハルの出方を伺っている。互いに獲物を見つけた動物のような目をしているが、ロクロ―の顔ははこわばっており、対してハルは薄ら笑みを浮かべていた。


 ロクロ―が少し息を吸った瞬間にハルがロクロ―の目の前まで飛んできた。吸い込まれるようロクロ―の顔に拳が近づいてくる。ロクローは反射的に首を逸らして、拳を避けつつ、左手を鞭のようにしならせてハルへ攻撃をしたが、それを難なくとハルは片足で受けとめた。ロクロ―は目を見開いて、すぐに細めた。また、左足で地面を蹴り、後ろに大きく飛んで数十歩程の距離を開けた。ハルはロクロ―を観察しているようで、動く気配はなかった。


 だがまた、ロクローの目の前に一瞬で現れた。ロクローは今度は予測していたようで、手の平を真っ直ぐに固めて左腕を突き出した。ハルはまた難なく片腕ではらい、前蹴りを腹部へと繰り出してロクロ―を打ち飛ばした。ロクロ―は全力で投げられた石ころのように、高い音を立て、直線を描いて飛んで行った。ロクロ―はそんな中で体勢を立て直し、地面に両足を踏み入れて、なんとか己の勢いを止めた。バリバリと裏の地面が砕け続けて、止まる頃には大地に立派な二本のひっかき傷ができた。ちょうど流れ雲が星光を遮りロクロ―のあたりを暗闇で支配した。


「足腰すげーっていうか、ゴリゴリの野生動物と戦ってる気分だな」


 ハルは少し楽しげに関心したといった言葉を吐いたが、ロクロ―は苦々しくそれを聞いていた。大量の汗滴り落ちて、息も荒かった。そこにできた足裏程の溝からすぐに出て、ハルの方へ歩いた。ロクロ―は先ほどよりも目の色を深めていた。荒れ狂う感情が目に籠っていた。その様子にハルはさっきまでの笑みを消し、真剣な顔でロクロ―を見た。


「ようやっと本気出して来たと思ったら魔法も使えるのか」


 ロクロ―の身体から黄色がかった靄が滲み出ていた。暗闇の中でその黄色で覆われたロクロ―がはっきりと見えた。徐々に光を増していきながら地面を微かに照らし、ゆっくりとハルに近づいていく。そして、突然爆発が起きたように真っ白な光が炸裂した。眩い光の中から出てきたロクロ―は黄金の炎を纏っていた。暗闇も星の光もかき消すほどに輝く純金の火だ。ハルは目を少しだけ開き、何か納得したような顔をして、呟いた。


「お前が運命か」


 その意味をロクロ―は知るよしもなかった。どのみち知る事はないと聞き流し、ハルの懐まで一気に飛び込んだ。そして、左足で地面を叩き割って踏み込むと、凄まじい轟音とともに土が引っ繰り返って隆起し、ハルの身体が少し浮いた。そこに纏った黄金の炎を右手に集めて、腰、背中、肩、腕を全稼働し凄まじい勢いでフック気味に空中にいるハルの身体向けて右拳を叩きこんだ。ハルの服の腹部を蔽っていた部分が一瞬で燃え切った。


 そう叩き込んだはずが、ハルの身体は空中で姿勢を変えて、攻撃を柔らかくいなし躱した。その瞬間に左拳をロクロ―右腕にクロスするように顎へ叩き入れた。ロクロ―は何が起きたのか解らなかったが、自分が崩れ落ちていく感覚だけはあった。そのままにロクロ―は気を失った。





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