3話
「ふーん、イザリア」
「ですから――はい、ロクロ―どうしました?」
「俺、推薦いいや、ちゃんと試験受けるよ」
「へ?……推薦された方が何かと優遇されますよ?」
「いや、こういうのはちゃんと下っ端から始めたいんだ。ここに案内してくれたお礼はさ、違う形でするからさ、ごめん」
「……わかりました。ロクロ―君が決めたなら仕方ありません、試験後にでも教会に遊びに来てくださいね。それでは」
イザリアは冷たい笑顔のまま、優雅にゆったりと冒険者組合を去っていった。
「おほん、一応受験生の名前を書き留めておくので……字は書けますか?」
「かけない」
「わかりました。お名前を言って下さい」
「ロクロ―だ」
「……ロクロ―様、もうすぐ時間になりますのでお席のほうでお待ちください」
「うん、わかった」
ミルカは手の先で待合のソファーを差した。ロクロ―はそのソファーの傍の床に足を延ばして座った。ミルカはその様子を見て怪訝な顔したが、受付をしなければならないのですぐさま接客用の顔に切り替えた。ジャローも同様の顔してさっさと受付を済まして、ロクロ―に近づいていった。
「おい、坊主。椅子に座らねえのか?」
「俺、こっちの方が落ち着くんだ」
「お、おお。お前はそうとう変わってんな。言い忘れたな、俺はジャロー。ランクは青だが、冒険の達人だ」
「よろしく。俺はロクロ―だ。さっきは助けてくれたんだよね?」
「いいってことよ。ていうかお前、わかってなかったのか?」
「うんまあ、イザリアからはちょっと嫌な感じがあったけど、ぼんやりとしかわかってなかった」
「そっか、そっか。坊主はどこから来たんだ?」
「俺はこの近くの山に住んでたんだ」
「は?……マジかよ。ならそうなっても仕方がないのか?」
「?」
「あ、いや、こっちの話だ。それより坊主はアオハナクサを知ってるのか?」
「多分、知ってるよ。あの手でギュっとしたら甘い匂いがするやつでしょ?」
「なんだ知ってたのか、じゃあ楽勝か」
「そうなの?」
「そりゃ――
「――ただいまより、冒険者登録の試験依頼の説明をします。受験生はすぐに第二多目的室にお集まりください!」
「もう始まんのか。じゃ俺もそろそろ出ていくから。坊主、終わったら飯でも行こうな」
「じゃあ……第二多目的室ってどこ?」
「……えっと、あそこの角を曲がって突き当りだ。多分あの人の流れについていけば着くさ」
「ああ、ありがと。それじゃ、またね」
ロクロ―はジャローににこっとした笑みを浮かべてから、人の流れに入っていった。ジャローはロクロ―がちゃんと第二多目的室にいけるかどうか、まるで頼りない子供の巣立ちを心配そうに見る親鳥の気持ちになって姿が見えなくなるまで見ていた。その後、ジャローの連れだろうか、妖艶な足取りで紺色のドレスを着たエキセントリックな美女がジャローに話しかけた。
「あら、あの子はいつ作った隠し子なの?」
「……作ってねーよ、多分。こわいこというんじゃねーよ」
「……思い当たる節はあるのね。それはおいおい聞くとして、あの『イビリのジャロー』がらしくないんじゃない?」
「俺、そんな異名持ってんの?誰が付けた、ぶっ飛ばすぞ」
「はいはい、で、なんで?」
「流すなよ……あいつは強い。大体、冒険者になろうってガキはふわふわした理想だけで実力が伴ってないから危なっかしい。だから、こっちがちっと殺気みてえなのを出すと顔色を悪くしたり、まあ要はビビったりするだろ?だが、あいつは信じらないぐらい目が据わってやがった」
「へえ、それはそれは。でもただ鈍感だったんじゃないの?」
「いやそれはないな。あいつの背中を叩いた時にわかったよ、あれはそこら辺のやつとは違うって。もう緑ぐらいは強いかもな。あながち山育ちってのは嘘じゃねえかもな、あれだけ汚いのはスラム街でもいねえからな。」
「……冗談じゃないわ。あの子供が緑だなんて、目が濁ったんじゃない?」
「なんだそりゃ」
「冗談よ。じゃあいきましょ」
ジャローはこの美女共に、組合を出ていった。
ロクロ―は人の流れに逆らうことなくついていき、数十人が許容できるだけの
大きな部屋にきた。どんどん人が長椅子に座っていくのを見て、ロクロ―は少し迷った後に椅子に座った。周りの人を見ると、緊張した様子や、自信があるような者まで様々だった。ロクロ―はどっちにもつかない、ワクワクした心持ちで依頼内容を聞いていた。
試験内容はアオハナクサの採集で間違いないようで、監視員がどこからか監視しているようで、購入して提出とかのそういったズルは出来ないようだ。期限は2日以内、この期間内に採集を済ませなければならない。
説明も終わり、注意事項なども済み、試験の開始を告げられ、蟻のように散り散りになった。ロクロ―もそれに伴い、城門を抜けて山の方へ走っていった。
そして、わずか一時間後にロクロ―は組合に戻ってきた。
「おわったよ。試験」