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2話

「……この山の向こうが街かあ。それにしてもすっげえ岩山だなあ、山にしては、ちょっと薄いけどなあ」


 擦り切れたボロボロの服装をした黒い長髪の少年がそう呟いた。ボロボロの服は所々に虫食い穴が大量にあり、はたから見てもかなり薄い生地だ。下半身に至っては、腿ぐらいまでしか生地が覆っていない上に靴すら履いていない。伸びきった髪は背中の中腹まで進出しており、必要以上に長く尖った手足の爪は若干の茶色を帯びている。


 首をポリポリと掻きながら、少年は物珍しそうに岩山の至る所を見ていた。規則正しい凹凸や、同じ大きさ形の岩が積み立てられていた所を見て、かなり興奮しているようで、にやっと笑っていた。


 その少年に向かって、城壁の上から衛兵が大声で呼びかけた。鬼気迫る様子で少年に話しかけていた。少年は声に気が付き、顔を上げた。


「おーい!大丈夫か!?」


「ん?おお!人だ!人!おーい!」


「ちょっと今すぐ行くから待ってろよ!」


 しばらく待つと、二人の衛兵が城門からやってきた。少年はややウキウキした様子で待っていたため、衛兵たちは不思議なものを見るようにゆっくりと少年に近づいた。


「おい、お前、その恰好はどうしたんだ?」


「え?『かっこう』?どういう意味?」


「は?……どこから来たんだ?」


「あっちの山から来た。ねえ、『かっこう』ってどういう意味?」


「……おい、どうするよ?こいつ、頭おかしいんじゃねえの?」


「まあ、待てって、お前さん、どうやってあの山を抜けてきた?」


「歩いて」


「……ヤバいってこいつ。あの山をただ抜けらるわけねーだろ」


「……ああ、どうしてこの街に来た?」


「冒険者になりに来たんだ。……もう行っていい?」


「……この汚い餓鬼を入れたらまずいよな」


「だが、こいつは恐らく白だ。一周回りすぎて白だ」


「かと言ってもよ……おい、金を持ってるか」


「金?ああ、持ってないよ」


「一文無しだし、追っ払おうぜ」


「まてまて、お前、こんなとこで小銭とか稼せいでんのか」


「いいだろ?ちょっと要りようがあってな」


「ばか、なにしてんだ」


 衛兵たちが口論をしている間に、少年の後ろの方から馬車がやって来ていた。しばらくすると、かなり質素な幌から艶やかな金髪を慎ましそうに首にそわせた少女が降りてきた。少女は幌から降りるだけでも神秘的な何かを感じさせるような気品があった。少女は議論の近くにゆっくりと歩いてゆき、少年を少しチラッと見た後に衛兵達に話しかけた。


「どうかされました?」


「これは、イザリア様。実はこの少年が街に入りたいと言ってるんですが、出自が不明でこれを通していいものか……」


「そうなんですか……君、ご両親とかはいないの?」


「親?いやもういないよ。……ええっと、あー、それに俺、口減らしにあったからさ。もう戻れないんだ」


「……まだそんな野蛮な風習が……身なりを見るに相当の苦労があったのでしょう。長い間、人里から離れて暮していたのでしょうね。わかりました、一旦教会の方で彼を預かりましょう」


「よ、よろしいのですか?」


「ええ、彼からは特に邪悪な気配を感じませんから、大丈夫です、全て教会の方で責任を持ちます。それに恵まれぬ人に慈悲を与えるのも私の務めですから」


「は、はあ、それではくれぐれもよろしくお願いしますよ」


 そのままの流れで少年と少女は一緒に城門の関所を通った。


 少年は街の中を見て大分興奮している様子だった。沢山の人々が往来を行き来し、生活している様子を見ているだけでも、少年は胸を躍らせていた。鼻の中に未体験の匂いたち、耳に入る生活音たち、目に見える色とりどりのカラフルな色たち、肌にかかる人の熱気。全てが未知の世界で、不思議と心がうきうきとしていた。

 

「君、名前は?」


「ロクロ―っていうんだ」


「ロクロ―君ね、私はイザリア。この町の神官をしているのよ」


「へえ、なにそれ?」


「……メシア様にお仕えして、そのメシア様の教えで困っている人達を助けている人よ」


「仕事ってことか?」


「そういうこと」


「へえ……なあ、冒険者になりたいんだけどどこいけばいいかな?」


「冒険者になるには冒険者組合に行かないといけないわ。このまま真っすぐ道なりに進んで、突き当りにあるのよ」


「ありがとう。それじゃあ」


「ちょっと待って、そのまま行く気?」


「?」


「ひとまず、うちの教会に寄っていったら?そのままだと何かと困るでしょう」


「……うーん、いや、このままいきたいな」


 ロクロ―は少し悩やみながらも、イザリアの目を逸らさずにこう言った。


「……なら、私もついてくわ。さっきみたいに揉め事になっても困るからね」


「ええ、いやいいよ。自分で行くって」


「さあ、はやくいきましょう」


 イザリアはやや強引にロクロ―を言いくるめ、ロクロ―を連れて往来の中に入っていった。ロクロ―はあっちこっちと視線を流しながら、イザリアを見失ないようについっていった。


 イザリアの足が止まった。冒険者組合についたようだ。イザリアはチラッとロクロ―を見てから冒険者組合の扉を開けて中に入っていった。


 ロクロ―は少し緊張した面持ちで集会所の扉を開いた。開けると沢山の人が列をなして、順番に同じような服を着た人達と話をしている。ロクロ―の顔がぐにゃっと歪んだ。ロクロ―はこの中でテンションを上げて雄たけびを上げたいような衝動に駆られるが、イザリアを見て、それなりに抑えた。


 イザリアも列に並んでそれに伴ってロクロ―もイザリアについて並んだ。


「おや、イザリア様じゃねえか。どうしたんだ?」


 髪がやや薄い大柄の男がロクロ―達の後ろからイザリアに話しかけた。男の顔についている傷が風格をによわせていた。イザリアは男に話しかけられた時にあからさまな作り笑顔になって対応した。


「おはようございます、ジャローさん。今日はこの少年のロクロ―付き添いです」


「ははあん……坊主、汚い恰好だな。依頼をしても金がないと誰も受けてくれないぜ」


 順番待ちの視線がロクロ―達に集まっていた。ジャローは嫌な笑みを浮かべながら、ロクロ―に話しかけていた。イザリアは能面のような作り笑顔のままだ。ロクロ―はジャローの話しかけてきた内容とイザリアの笑顔の関係性がよくわからなかった。


「よくわかんないけど、俺、冒険者になりに来たんだ」


 ロクロ―はただジャローを見つめながら返答した。


「そうか、冒険者になるのか、歓迎するぜ、頑張れよ!」


「いてて、ありがと」


 ジャローはロクロ―の背中を笑いながら叩いた。ロクロ―は少し驚いたが、笑って返事を返した。ただ、イザリアを含めたその他大勢が、唖然とした様子だった。


 ロクロ―は状況がつかめず釈然としなかったが、楽観的にまあ、いいかと特に気にしなかった。


 やがて、イザリアとロクロ―の順番が回って来た。受付に回るのは綺麗な栗毛の可愛らしい女性だ。


「お久しぶりです、イザリア様。今日はどのような用件で?」


「お久しぶりです、ミルカさん。今日はこの少年、ロクロ―の冒険者登録の付き添いでやってきました」


「なら、推薦ですか?」


「ええ」


「ちょっと、推薦ってなに?」


「推薦でい――」


「推薦されると、登録試験の依頼をパスされます。また推薦人のランクによって最初に決められるランクが決定します」


「それと、推薦人に依頼料の何割かのお金を支払ったり、推薦人の依頼をこなさないといけなくなるぞ」


  イザリアが何か言う前にミルカが遮って、説明した。それにジャローがずいっと顔を後ろから出して補足してきた。


「坊主、推薦される話はあったのか?」


「いや、なかったよ」


「それはどういうこったい?イザリア様よ」


「いいでしょう?ロクロ―君は教会にお世話になるのですから」


 イザリアとジャローの口論がはじまった。この間に、ロクロ―はミルカに冒険者のルールや色々聞いたが、なんとなくしかわからなかった。


「あのさ、登録試験の依頼ってなに?」


「この時期の登録試験の依頼は、アオハナグサの採集です。アオハナグサは青い葉と花を持つ植物です。10株を2日間までに取ってくれれば依頼完了です。なお、この間にはロクロ―様には監視員がついて依頼の様子を見て採点をしています。それによって合否が決まります。ちょうど今日が試験日ですので、冒険者登録用の試験を受けられますよ」


「ふーん、イザリア」


「ですから――はい、ロクロ―どうしました?」


「俺、推薦いいや、ちゃんと試験受けるよ」

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