2-3 奄美さんと公園
翌日。奄美さんは無事に登校した。幸いなことに足は無事らしく、体育祭にも出れるらしい。
「おはよう。なぎさ」
「うん。おはよう。浜音ちゃん」
それでも、いつもと様子が違った。
宮古さんと話せばいつも緩んでいた顔の表情も、今日は強張ったままだ。
なんだか、普段の奄美さんではない気がして、僕は思わず声をかけた。
「あの。奄美さん」
「隠岐か。なんだよ」
「その……大丈夫……ですか?」
少しの間があった。奄美さんが僕を凝視している。
「なんだよ。お前。ウチの心配してくれているのか?」
「え、あ。うん」
「隠岐に心配されるとは……お前、心配とかできるんだな」
「そ、それくらいできるよ」
「いやいや。ウチ、お前てっきりロボットか何かだと思っていたからさ」
奄美さんは微笑んだ。でも、彼女が自然に笑っている顔を知っていると、その笑顔にはどこか虚しさを感じる。
「隠岐くんと浜音ちゃんもずいぶん仲良くなったよね」
近くで見ていた宮古さんが楽しそうに言う。
「そうなんですかね?」
「うん。だからさ。今日も三人で帰ろ?」
宮古さんの言葉はとても暖かくて優しかった。
帰り道。
奄美さんと宮古さんの関係はギクシャクとは言うほどじゃなかったけれど、奄美さんが少し遠慮しているようにも見えた。
宮古さんと別れて、奄美さんと二人きりになる。
「ハハッ。すごいよなぁ。アイツ。ウチ、今日は先に帰っちゃおうかなとか思っていたのにさ。まさか誘われるとはな」
奄美さんの笑いは、すこし掠れていた。
そのままお互い無言になって駅に向かって歩く。静かなのはいつもの事なのに、こんなに気まずいのは初めてかもしれない。
しばらくすると公園が見えてきた。中では、小学生たちが追いかけっこをして遊んでいる。
「なぁ。隠岐」
「な、なに?」
「ちょっと寄って行こうぜ」
そう言うと、奄美さんは一人でズカズカ公園の中に入っていった。僕も突っ立っているわけにもいかず、数年ぶりに公園に入る。
奄美さんは近くにあったベンチに座る。僕が恐る恐る隣に座っても、彼女は何も言わない。ただ足を組んで、走っている子どもたちを眺めていた。
「ねぇ。なんかあのお姉さんコッチ見ていない?」
「本当だ……」
子どもたちが視線に気が付くと、奄美さんはベンチから立ち上がって、彼らに近づいた。
「よ。お前ら、これ食べるか?」
「ほんと!?」
奄美さんが差し出したのは、四角い箱に入ったガムだった。
一番小さい女の子が喜んで奄美さんに近づこうとするのを、男の子が引き留めた。
「だめだぞ。おかーさんが、知らない人から何かもらっちゃいけないって言っていただろ。怒られるよ」
「えー。でも……」
「いいから。行くよ」
「待ってよ。おにーちゃん」
そのまま、手を引かれて奄美さんから遠ざかる二人。女の子が寂しげに手を振るのに、奄美さんも手を小さく振って応えた。
「不審者扱いだったね……」
「まぁ。あれくらい気を付けた方がいいのかもしれないけどな。親心ならぬ兄心ってやつだろ」
奄美さんはベンチに戻ってきた。持っていたガムの箱をしばらく見つめて、食べるのかと思ったけれど、そのままカバンに突っ込んだ。
「なぁ。隠岐。お前、兄弟は?」
「僕? 僕は一人っ子だけど」
「ふーん。勝手だけど、兄貴がいそうなイメージだった」
「そうかな?」
奄美さんは?――と聞こうと思ったけれど、先に奄美さんが口を開いた。
「隠岐ってさ。宮古を初めて見た時にどう思った?」
彼女が話を逸らした。いや、たぶん本筋に向かっているのだろう。
これからアイツ――
宮古さんの話をするのだから。




