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あなたを幸せにできましたか?  作者: 一ノ瀬 スグナ
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2-1 奄美さんとカソウケン

「浜音ちゃん。お待たせー。帰ろ」

「そうだな。なぎさ。ところで……」


 僕の方をジロリと睨む奄美さん。


「なんで、こいつも一緒なんだ?」

「ん? 隠岐くんが一緒だと嫌?」

「嫌ってわけじゃないけどさ……」


 奄美さんは不満げに僕を見下ろす。

 残念ながら僕は身長が低い方だ。背の順にされると、大抵2番目から4番目くらいになる。逆に、奄美さんは他の女子より少し背が高い。結果として、僕は奄美さんを見上げることになってしまう。


「まぁ。なぎさが良いなら、私はいいけど」

「そっか。良かった」


 宮古さんは嬉しそうに微笑むと階段を降り始めた。

 一応、宮古さんより僕の方が背は高い。


「宮古、部長からの連絡ちゃんと見たか?」

「うん。明日の部会の事だよね。あ、そうだ。隠岐くんも来てね」

「わかりました」


 家庭総合研究部。宮古さん曰く通称カソウケン。

 僕は奄美さんに無理やり書かされた入部届を提出していた。部員になったからには少しは仕事をしようとは思っている。部活は嫌じゃない。ただ、そこで発生する人間関係が嫌なだけだだ。


「5人目の部員。部長さんが見つけてくれたんだよね」

「まったく。他のクラスにも声かけなきゃいけなくなるところだったな」


 部活の話はそこで終わって、宮古さんと奄美さんは宿題の話や先生の話などで盛り上がっている。

 僕は二人の後ろでぼんやりと歩いている。

 二人はとても仲がいいと思う。奄美さんも宮古さんと話している時は、表情が柔らかくなる。


「そういえば、なぎさは、体育祭の出場競技もう決めたか?」

「うん。障害物競走にしたよ。浜音ちゃんは?」

「ウチは800メートル走にした。たぶん、選抜も出ると思う」

「浜音ちゃん。足速いもんね」

「走るのは好きだけどさ……別に競争とかしたいわけじゃないんだよなぁ」

「でも、走っている時の浜音ちゃん。すごくかっこいいよね!」

「そうか?」

「うん。運動会も楽しみにしている」

「なぎさに言われたら、やるしかないな」


 奄美さんは嬉しそうに宮古さんの頭を撫でた。

 そんな他愛のない会話をしているうちに、宮古さんの家に着いた。

 宮古さんの家は丁字路を曲がってから、少し歩いたところにあるアパートだった。


「じゃあ。また明日ね。浜音ちゃん。隠岐くん」

「またな。なぎさ」

「また明日」


 宮古さんが鉄板の階段を上っていくのを見送って、僕と奄美さんは駅への道を歩く。

 しばらく奄美さんと無言の時間が過ぎる。

 どうしたらいいかわからないまま歩いていると、奄美さんが僕に話しかけてきた。


「おい。隠岐」

「な、なんですか?」

「お前、家ここらへんじゃないのか?」

「違いますけど……」

「じゃあ、なんでアイツと一緒に帰ることになったんだ?」


 僕は焦った。これは、奄美さんにはあまり追及されたくないことだ。


「そ、それは……。宮古さんから誘われて」

「ふーん」


 その前に色々あったけれど、と心の中で補足する。


「なぁ。隠岐」

「な、なんですか。奄美さん」

「アイツと何話すの?」

「え。宮古さんと?」

「そう」

「ええっと……。誘われたのが昨日だったから、まだ特に……」

「ふーん」


 奄美さんは退屈そうに欠伸をした。本当に退屈なんだと思う。

 その後はなにもないまま駅に着いた。


「私、上り方面だけど」

「あ、じゃあ、反対だ」

「そっか。それじゃあ、またな。隠岐」

「あ、うん」


 僕は電車に乗る前にコンビニでカフェオレを買った。

 緊張で乾いた喉に、甘いカフェオレが染みた。


 翌日

 僕は第二家庭科準備室に来ていた。

 部屋の中には来客用の二人掛けのソファーが2つ、机を挟んで向かい合って置かれていた。その奥には教員用の机があり、他所の教室で邪魔者扱いされた机たちが何個か置かれている。部屋は窮屈だった。棚にはカギがかけられていて、皿などの食器やよくわからない調理器具まで様々なものが揃っていた。

 今、この狭い部屋の中に5人の生徒が集まっていた。ソファーには宮古さんと奄美さん。対面のソファーには二年生が二人座っている。

 僕はそこら辺の机から適当に椅子を取って座っている。


「ごめんね。みんな遅れちゃって……」


 最後に到着したのが、顧問の真鍋先生だった。家庭科の先生で優しいことで有名だったと思う。


「それじゃあ、大崎君。始めて」

「はい。では、これから家庭総合研究部――まぁ、カソウケンの部会を始めよう。今回は適当な自己紹介と今後の活動をざっくりと確認するぞ」


 まず、部長が自己紹介の一番手となった。


「一応この部の部長をしている。大崎 黎人だ。よろしく。短い期間になるかもしれないが、よろしく頼む」


 もう一人の二年生、小豆 椛先輩は生徒会の役員だった。


「小豆 椛です。あんまり来れないかもしれないけれど、生徒会との連絡役として働かせてもらいます。よろしくね」


 一年生の番となって宮古さん、奄美さん、そして僕の順で自己紹介をした。


「宮古 なぎさです。少しでもみんなの力になれたら、嬉しいです」

「奄美 浜音。ええっと……まぁ、よろしくお願いします」

「隠岐 景文です。微力ながらお手伝いさせてもらいます」


 みんなの自己紹介が終わると、小豆先輩が大崎部長に「一年生の子たちはみんな真面目だねー」と耳打ちしていた。

 

「それじゃあ部の活動なんだが……はっきり言うとほとんど無い」


 部長はそう言うと、スマホを取り出して1枚の写真を見せてくれた。

 校舎の2階まで届きそうな大きな笹に、たくさんの短冊が飾られている。


「この学校では七夕の時に大きな笹を飾ることが伝統になっている。それの準備が俺らのメインイベントだ。作業は6月の後半から取り掛かるから……まだ一か月以上先だな。他にも季節に合わせて飾り物を作ったりもする。が、それらは生徒会からの依頼がないと始まらん。なにか依頼が来たら、連絡する」


 最後に互いの連絡先をスマホアプリに登録して、部会は解散となった。


「ちょっと隠岐君いいかな」


 部長は僕に部員名簿を見せた。大崎先輩の欄には「部長」、宮古さんの欄には「副部長」と書かれている。そして、僕の欄には「会計員」と書かれていた。


「隠岐君は一応この部活の会計役員として登録されている。でも、安心してくれ。会計役員は部費が少ないカソウケンのような弱小文化部での仕事はほとんどない。カソウケンは文化祭でも出店しないからね」

「わかりました」


 文化祭は高校が初めてだ。クラスで協力とか面倒な学校行事になりそうだ。と、この時はなんとなく思った。

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