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5話 月はまた昇る・・・2

 しばらくすると由沙は泣き止んだが、私たちはまだ抱き合ったままだった。

 今更ながら、すごく気恥ずかしくなり全身から熱を感じていたが、いきなり離れると由沙が不安がるかも……と思うとなかなか動けない。

 由沙からは相変わらず良い匂いがしてほどよく温かいが、私の肩は由沙の涙だか鼻水だか分からない湿り気を多大に感じた。それは今は気にしないでおこう。


 抱き合ってどれくらいの時間が過ぎたのか、唐突に。予期してない発言が飛び出し私はひっくり返りそうになる。


 「七恵ちゃんって私のこと、好きなの?」


 ん。す、き……? えっ――――!?


 「すき…………好き!? どういう、好き? てか、いきなりどんな質問?」


 私は当然ながらパニックになっていて、身体は硬直しながらも心臓は飛び出すかと思うくらいに強く脈打つのが分かった。


 「好きだから、支えてくれようとしてるんじゃないの?」


 言われて意識する。一度そういう事を考えたこともあったが、あの時はまだ曖昧で答えは出なかった。でも、最近の自分の言動や感情の変化は明かにおかしいように思う。

 由沙の笑顔を見る為にと行動を始めたはずが、いつの間にか笑顔関係なしに由沙の為に何かしたい、もっと一緒にいたいと強く思うようになった。

 しかしそれは、結果的に由沙の笑顔を見る為の努力に繋がるので問題ないはずだ。だけど――――。

 由沙が苦しいと私も胸の辺りが苦しくなる。これは、変だ。拒絶されても、なんとか復縁を図ろうとしてる今の私も変だし、なにより――。

 私の頭の中では四六時中、由沙の事でいっぱいなのが一番変だ。それが意味する答えは、つまり。もしかして。


 私は由沙が好きなんだ。おそらく、恋愛対象として――。


 「す、好き……って。い、いいのかな?」

 「えっと、なにが?」

 「えっ……。だって、私たち女同士だし。言われるまで気付かなかったけど、確かに私は由沙のこと、その、好き……かも。多分、友達以上に」


 誰かをこんなに好きになったことはないけど、これが恋なのかと意識した。がしかし、相手が同じ性別だと由沙も困るのではないか? 同性愛者と嫌悪されてもおかしくない。


 「気持ち悪く、ないかな……?」

 「そんなことないよ。私も七恵ちゃん、好きだし」

 「え、ぇっ――――!?」

 「思えば、毎日七恵ちゃんのこと考えてるし、話してると元気出てくるから。好き、だよ」


 思考が停止する。昨日の絶望感とはまた違った感覚だった。

 呆然とするなか、私を現実に引き戻したのは由沙の温かな手だった。私の手をにぎにぎしていて、その表情を覗くと柔らかい笑みが戻っている。


 「七恵ちゃん、驚きすぎ」

 「え、あっ、うん……」

 「いつから好きだったの?」

 「いつから、かなぁ。もしかしたら一学期の最初……四月くらいから、かも」


 そこからは、なんだか照れ臭くて上手く喋れなかった。喉に水分が足りないのか、呂律が回らず噛むことも多々あった。

 けど、なんとか由沙の笑顔が好きだったと伝えることはできた。「七恵ちゃんはその頃から変だったんだね」などと笑われたりしたが、もう古い思い出のように感じて私もつられて笑っていた。


 「こんな、七恵ちゃんの顔が見れない私でも、好きでいてくれるの?」

 「うん。見えなくても声なら聴こえるし、触れば顔もわかるでしょ。こんな風に気持ちも伝えられる」

 「迷惑ばっか、かけるよ……?」

 「私も迷惑かけると思うし、お互い様だよ。それに、そんなに悲観しなくてもある程度は対等に見るつもりだから」

 「どういう意味……?」

 「一緒に出掛けたり、旅行とかも行きたいなぁ、とか思ってるから。見えなくても思い出は作れるし、もっと仲良くなって一緒に遊んだりして、由沙のことをもっと知りたい」

 「…………七恵ちゃん」


 伝えると少しの間があり、由沙の瞳は驚きに見開かれ潤んでいた。

 なるべく特別扱いはしたくないと思った。私が楽しみたいことは出来る限り由沙も一緒がいいなと思っただけだ。由沙の要望も出来るだけ叶えていきたいとも思う。


 「じゃ、じゃあ……私たち……つ、付き合う……?」

 「お願い、します……?」

 「なんで疑問系なの~?」

 「さっきも言ったけど、私たち女の子同士だし。それに私、誰かと付き合ったことないから実感沸かなくて……」


 そうだ。恋愛なんて全く経験がないから、人を好きになる気持ちも絶賛噛み締めてる最中なのだ。

 それにいざ付き合う、とは言っても何をすればいいのかよく分からない。


 「キス、しよう――――!」

 「なっ!? はぁ、あ……っ!?」


 予期せぬ発言に私は変なリアクションを晒した。いや、だって、唐突すぎというか、いきなりすぎで……。あ、頭が回らない。


 「キスしたら、ほら! 好きな人とならっ、ど……どきどきして気持ちいいって前に友達の誰かが言ってた気がする! それがほんとなら、付き合う実感も沸くかも――!」


 由沙の声は珍しく震えていて焦りが見えた。顔の赤みも僅かに増した気がする。

 誰が由沙にそんな入れ知恵をしたのかは分からないが、由沙も本当に私のことが好きでこういう提案をしてきたってことなのだろうか? もしそうなら――、と考えると胸の鼓動が一層速まった。

 こんなにドキドキしてるのにキスなんてしたらどうなってしまうのか。けど、確かにキスは付き合ってる間柄というイメージはある。それに由沙となら、うん。……してみたい。


 「い、いいの? 同じ女の子同士なのに」

 「……七恵ちゃんになら、何されても、いいよ……」

 「え、っ――!? じ、じゃあ、えっと……。失礼、するよ」


 なんだか、いつもは子供っぽくて可愛い感じなのに、今この瞬間は艶かしい色気を感じた。白い肌に赤みが刺し、絹のように繊細な肌が近くなる。息が荒くなり躊躇しそうになったが、由沙もそれは同じだったので安心して続けた。

 やがて、血の巡りが良さそうな苺のような膨らみへ、自分のものを重ねる――。数秒後。


 「どう、だった……?」

 「ど、どきどきしすぎてよく、分からなかった。由沙は……?」

 「私も、なんか不思議な感じはしたけど、あまりわからないかも……。もう一回、やってみない?」

 「えっ、もういっか――――んっ、むっ……!」


 今度は由沙の方から、唇を重ねてきた。両手を掴まれ身体を押し付けられてるので逃げられない。いや、逃げるなんて事はしないけど由沙が大胆で少々驚いただけだ。


 何回も唇を重ねるうちに少しづつ慣れてきたようで、舌を絡めたり唾液を啜ったり吸われたりと変化がついてきた。

 お互い手探りだが夢中になっていて、私は気分がふわふわしていた。多分、気持ちいいのだ。

 なんだか、いけない事をしてるような感覚があり興奮した。由沙も同じなのか、さっきから息がはぁはぁと荒い。でもやめられない。

 嬉しくて、気持ち良くて、幸せで、切なくて――。


 「由沙……。ちょっと激しっ、いよ……」


 あれからしばらく快感に身を任せていたが、さすがに顎が疲れてきて、こんなの日常的には味わえない感覚だなぁ、なんて思ったりした。


 「ご、ごめん。なんだか止まらなくてつい。けど、またしたいかも……。ダメかな?」

 「ううん。私も、したいと思ったから……いいよ」


 由沙と隣同士、ベッドに仰向けに倒れて休憩する。手を握り合っていると、「私たち、恋人同士だね」なんて囁かれて私は顔が真っ赤になった。

 ふと部屋の薄暗さに気付いて時計を見ると、ここに来て二時間ほどの時が過ぎていた。いつまでもこうしていたいと思うが、そうはいかない。

 離れる前に、名残惜しくて抱きしめようとした時だ。コンコン――とドアをノックされ、私たちは同時に跳ね上がった。


 「由沙~、七恵ちゃん、大丈夫? 起きてるー?」

 「お、起きてるよー! もう七恵ちゃん帰るとこだから」


 由沙の母親だった。ドアを開けられないかとひやひやしたが大丈夫だった。ドア越しに会話が続く。


 「七恵ちゃん、ご飯食べていくでしょ?」

 「い、いいんですか?」

 「せっかくだし。母さんも由沙の大好きな七恵ちゃんと話してみたいわー」

 「ちょっと! お母さん!!」

 「冗談よ。早めに降りてきなさいね~」


 そう言うと由沙の母親は離れたようだった。もしかして私たちの関係が気付かれてるかも、と焦ったが多分からかってるだけ……、だと思いたい。いずれは認めて欲しいけど、心の準備がまだだ。


 「ごめんね、お母さんが変なこと言って。最近、意識しないうちに七恵ちゃんの話ばっかりしてたみたい」

 「由沙……」

 「私、頑張るから。七恵ちゃんに釣り合うように」


 由沙が、ぎゅっと抱きついてきていた。私は顔を上げさせて向かい合い「それはこっちの台詞だよ」と返した。お互い笑顔になり、同じ想いでいることに嬉しくなる。


 由沙の笑顔は、満月のように温かくて優しく、今までで一番力強く感じた。

 これから先、この笑顔が陰ることもあるだろう。それでも私たちなら乗り越えていける。そう私は信じてる。

読んでくださったみなさま。

ありがとうございます。m(__)m

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