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彗星ノスタルジア  作者: 鎮
#1 蒼い星
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彗星とは、小惑星、太陽系外縁天体1等と並んだ太陽系小天体であり、主に氷や塵などでできている。本体の大きさ自体は数キロメートルから数十キロメートル程しかない小さな天体だ。又、太陽に近づいて大気の物質が流出した尾を生じるものを指す。

その尾が伸びた姿から、日本では箒星とも呼ばれている。彗星の中には、肉眼でもはっきり見えるほど明るくなるものもあり、古くでは不吉なことの前兆と考えられていた。同様に、彗星は大気圏内で起こる現象だとも考えられていたようだ。だが、16世紀になって、彗星は宇宙空間にあることが証明された。

明るい彗星の出現の記録は、各地の古い文献などにも残されている。しかし、彗星の性質などには未だ不明な点が多い。


***


12年前、とある彗星が地球に衝突した。その出来事を境に、地球は大きな変化をもたらされることになる。それは、空前絶後の多彗星の衝突だった。

上空を通過するだけのものもあれば、月に数度は彗星並びにその欠片があちこちに衝突する。確認されている中では、彗星の大きさは小さなものばかりであったが、衝突による被害は決して小さなものではなかった。山間部に衝突した彗星の周りでは、原因は不明だが植物が育たなくなり、近くの農村地域に大きな被害をもたらした。さらに初めの記録では、彗星の衝突は山間部、砂漠地帯といった殆ど人のいない地域が多かったが、近年は民家等の建物に激突し負傷者並びに死者を出している。

だが、どの国もすぐにこの事態に対応することは出来なかった。というのも、宇宙開発という分野は近年注目を集め始めたとはいえ、当時政府から資金を援助される優先順位はかなり低く、スポンサー企業の数もかなり限られていたからだ。その為、研究者たちは始終資金不足に悩まされ、研究は思うように進められなかった。しかし皮肉な事に、彗星を火種に宇宙開発は人々の注目を浴びることになる。


いち早く宇宙開発に目をつけたとある大手企業の莫大な資金提供により、研究は類を見ない早さで進められた。その成果としてのひとつが、地球の周りを徘徊する彗星の探査機の開発、そしてもうひとつは、宇宙旅行の実現であった。彗星探査機は彗星の発見、及び、何時何分にどの地点に衝突するかの予測が可能になった。最初の彗星衝突から3年が経つ頃には人的被害は最頂点を迎えたが、その後はこの彗星探査機の活躍によって、減少傾向にある。

だがそれでも、被害者が出てしまうことに変わりはなかった。さらにいえば、環境資源は相も変わらず被害を受け続けている。

だがその一方で、人間には新たな娯楽が誕生した。


ものの12年で世界はかなり変わってしまった様に思える。有人型宇宙旅客機の開発から始まり、宇宙旅行の法的概念の発達、旅行のためのバイパス制作、そして開発され続けてきた宇宙旅客機は、ついに大気圏内浮遊を実現させたのだ。開発された当初はあまりの旅行代の額にごく一部の人々しか乗ることができなかったが、莫大な投資とそれによる研究の進歩によって、今では多少値が張る旅行だと思えば多くの人がこの旅行を楽しむことが出来るようになった。




まるで、彗星の脅威など忘れようとでも言うかのように。





***





身体中を、想像を絶する程の熱が駆け巡る。熱い。熱すぎる。何百度あると言っても過言ではないくらいだ。そのあまりの熱さに、思わず沈みかけていた意識を取り戻した。身体の表面は許容しきれなかった熱を帯びて、今にもドロドロに溶けてしまいそうだ。このままでは死んでしまう。駄目だ、生きたい、生きなければならない。

何よりもこの身体は生を望んでいた。

「…生きなくては」

だが、そんな苦しい時間はすぐに終わりを告げる。ほんの少しだけ瞼を上げると、すぐそこに見えたのは透き通るような蒼の世界。こんな景色、初めて見た。

何処までも続く蒼の地平線に瞳を捉えられ、視線を逸らすことが出来ない。そこから伸びる太陽の輝きが、やんわりと身体を包み込んでいる。今まで感じた事もないような不思議な感覚だったが、何故だかその暖かさの中で身体の力を抜き、その身を預けていた。


大丈夫、このまま眠りにつきなさい。


それは誰の意思だったのだろう。直接脳に響いた優しい言葉はこの身体に投げ掛けられたのか。相も変わらない蒼く美しい景色を最後に、ゆっくりと重い瞼を閉じた。





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