第4話 「ノンちゃんの独裁日誌」
遅れてしまいすいません。
『この国は資源はねぇし、人間もろくな奴がいねぇ。だから何にもできねぇ、なるようにしかならねぇと、早いとこ見切りをつけたのが俺の成功の秘訣さ……』(ガブガブ・ヘベレッケ 死の間際の発言)
1日目
お父さんは熱心なカトリック信徒だ。でも、同時に夢見がちな共産主義者でもある。外国から見るとかなり胡散臭く見えるらしいけど、この国にはそのおかしさがわかる人はいない。
けど、お父さんの頼みでやって来た遺体保存の人が外国の宗教とか思想とかについていろいろ教えてくれた。とっても勉強になった。いつか私もバチカンやモスクワに行ってみたい。
2日目
昨日は自分が国家指導者代理になるってことを受け容れられなくて現実逃避しちゃった。反省。お父さんの代わりを頑張らなくっちゃ。幸い、官僚組織はキューバやベネズエラの人に褒められた事もあるくらい優秀だもの、私にだって出来るよね?
でも、お父さんが元気になってくれたら、それが一番良いな。
5日目
私は悪くない。ちょっと字が雑で綴りが読みにくいって言っただけだ。親衛隊はどうしてああも過激なんだろう。官僚の人達のところに怒鳴り込むなんて。仕事の邪魔はしないでほしい。
6日目
朝から晩まで核シェルターに閉じ込められていると気持ちが悪くなるとわかった。今日はギルドマスターの日だったのに最悪だ。国防軍の人達は質問しても何にも答えてくれないし、キューバ危機でも起きたのかな?
10日目
(ぐちゃぐちゃとデタラメな線がページ一杯に描かれている。)
11日目
お父さんがキューバの病院で死に、親衛隊の反乱が鎮圧された。今日からは私が正式にこの国の指導者だ。いくつかの政府施設に被害が出たらしく、少しでも復興の為の資金がいる。お父さんには悪いけれど、私の最初の、国家指導者としての正式な仕事はお父さんの遺体保存を中止することだ。
12日目
日曜日だけど、ギルドに行く余裕なんてない。だけど、教会にはちょっと行った。神様、お父さんは火葬にされても天国に行けますか……
15日目
キューバからお父さんの遺灰が届き、国葬が執り行われた。国交のある何ヶ国の外交官も参加した大切な式だったけど自慢出来るようなことは1つも無かった。町はところどころ壊れているし、国民たちの衣服はボロボロで、全員の服を売ってもベネズエラの外交官が着ているスーツ1着の値段に届かないんじゃないかと思った。国家指導者だから仕方ないのだけど、私も人民服で葬儀に参加したから恥ずかしかった。もっと綺麗なお洋服を着て、パリやロンドンみたいに綺麗な町を歩きたいな……
20日目
今日は人民服がどうしても嫌だったので1着だけ持っていた紅いドレスを着て官邸に行った。国防軍の人は嫌そうな顔をしたけど、どうせ私にはほとんど仕事をさせてくれないんだ。椅子に座っているだけなら、どんな服でも良いでしょう?
32日目
人民の敵って何よ!どうして私が牢屋に入れられなくちゃいけないの⁈この日記しか持ち込めなかったから文句を書くしかできないのが辛い。こんなジメジメした薄暗い所は嫌だよ。助けて、お父さんお母さん……
35日目
……ここから出たら、みんな殺してやる。お父さんだって独立直後は粛清をやったんだ。殺してやる、絶対に殺してやる。……ねぇ、誰か助けてよ。
38日目
大統領という変えのきく立場は私、いや、余に相応しい地位ではない。独立の父ガブガブとその美しい妻の下に生まれた唯一の、天に選ばれた存在たる余に相応しいものとはなんだ⁈そう、皇帝の座だ!ローマ法皇よ、待っておれ。久しく空位となっていた神聖ローマ皇帝の座はこのノンベリーナが貰い受けようぞ!
41日目
さすがは余の父が鍛え上げた親衛隊である。森の奥深くに潜み、機会を伺っていたとは天晴れだ!かくして逆賊の国防軍は一掃されたのだから諸君が余のヒンソーダ帝国唯一の暴力装置だ。余の手足となり存分に働くが良い。そうそう、褒美は何が欲しいかと聞いてやったら、親衛隊の隊長の奴め「陛下の口づけを」などと抜かしおった。だから、白馬の王子にでもなったつもりか?この恥知らず、と怒鳴って蹴りつけてやった。余はスカッとした!しかし、隊長の奴が妙に嬉しそうだったのは興醒めである。なんだったのだ、アレは?
44日目
神聖にして不可侵たる余の目は誤魔化せない。国防軍が秘密裏に研究させていた人型兵器の書類に不審な点があったので担当者を呼びつけた。プロフェッサ・サトなるその怪しい老人はどうやら予算を国防軍とぐるになって着服していたようだ。人型兵器などという詐欺は許しがたい。死刑だ!死刑!
46日目
どうせ苦し紛れの嘘だろうがいつぞやの詐欺師が人型兵器は完成しているのだと言い出した。ふん、国防軍の奴が神に反する変態で、貴様に欲望の捌け口を用意させていたことは調べがついているのだ!死刑だ!死刑!
49日目
……どうして自分があんな事を言ったのかわからない。タケルンがロボットな訳がない事は一目でわかった。あんな人間そっくりのロボットはアメリカだって作れないだろう。あの場で詐欺師ごと射殺してしまえば良かったのだ。それに、あんな、甘えさせて欲しいなんて……
どことなく、お父さんに似てるからかな。でも、お父さんはもっと太っててお喋りだったし……
えい!この国では私が黒と言ったら白も黒!白と言ったら黒も白だ!タケルンはロボット!私の「もの言う道具」‼︎千夜一夜物語みたいにお話でもさせてやる!つまらない話をしてみろ!その時が貴様の最後だ!
「……それでは今日はここまでデス。続きはまた明日の夜にいたしマショ。」
「ヒンソーダ皇帝の名を持って命ずる。最後まで話せ!でなければスクラップにするぞ!」
私が必死に頼んだのにタケルンの奴は明日も公務があるでショ、とか長い話ですから一晩では無理デス、とか正論ばかり言って命令を聞かなかった。私がタケルンをスクラップに出来ない事を分かって余裕ぶっているんだ!
(……気になるなぁ、不思議な世界にやって来てしまったニートって人はどうなっちゃうんだろう?神様にもらったスキルっていう能力はどんなだろう?聖書みたいな奇跡なのかな……)
「まぁ、なるようになるのデス。」
タケルンの独り言が聴こえて、ちょっとだけムカついたのがその日の最後の記憶。あーあ、私の人生ってなんなんだろ。やっぱり、なるようにしかならないのかなぁ?
それから、ニートはギルドで……
えっ⁈お嬢ちゃんもギルドマスター⁈
おいおい、今は21世紀だぜ⁈
この国は町並みだけじゃなくって、住んでる人間まで中世風味かよ!
次回、第5話 「日曜日はギルドマスター!」
土日は休んで月曜日に投稿します。
お楽しみに。