第2話 「笑顔の価値は……」
俺は最初からご都合主義ダゼ!
どうぞヨロシクm(_ _)m
『アメリカの保護国という立場からヒンソーダが独立できたのはキューバ危機のドサクサに紛れたこともあるが、やはり独立の父ガブガブ・ヘベレッケのカリスマによるところが大きい。彼は独立後の粛清によって独裁体制を確固たるものとし、現在に至るまで大統領の座に……』
(『ヒンソーダ観光のススメ2010』より)
おいおい、あのCIA野郎。適当な情報を流しやがったな!何がガブガブ似の後継者だよ!
「ひひひ、大統領閣下。わしの最高傑作「タケルン」をお持ち致しました!これは……」
ひざまずくプロフェッサ・サトの頰を銃弾が掠めた。ひっ、と爺さんがビビる。しかし、俺にとっては他人事なので指示された通りに突っ立ったままだ。
「プロフェッサ・サト、貴様は2つ間違いを犯した。なんだかわかるか?」
RPGの王様が座っていそうなデザインの大統領席から冷たく鋭い声がする。そこには髭ボーボーのオッさんが踏ん反り返っている、はずであった。
「も、申し訳ありません。ひとつはこの「タケルン」を野に放ち、閣下を試すようなことをしたこと。もうひとつは、えーと……」
また銃声。大理石の床にピシッとヒビが入る。ふーん、正確に同じ場所を撃つとはなかなか。
「閣下ではない!余のことは陛下と呼べ!」
「は、ははー!」
「最近の若いもんはコレダカラー!」
爺さんが驚きのあまり俺の顔を見る。俺はもちろんぴくりとも表情を変えない。さて、皇帝陛下はどう出るのかな?おっと、ここで走馬灯のようにここに至る経緯が思い浮かんできたぞ〜
昨日 牢屋の中
「わしが作ったダッチワ、じゃなくて人型ロボットがお前さんそっくりなんじゃ。そいつが誰かに盗まれてわしはここに入れられたんじゃ!」
……そのダ、ロボットのふりをしろと?いやいや、バレるでしょ。第一、そんなことしなくても俺、そのうち釈放されるんじゃね?なんも悪いことしてないし。
「ひひひ、馬鹿め。普段ならそうじゃろうが、今は情勢が悪い。新大統領は世代交代の為の流血を望んでいるのじゃ。」
ほーん、ガブガブが死んだってのは本当だったか。さすがCIA。ガイドブックとは情報の鮮度が違う。
「なんじゃ、ニュースかなんかで見たのか。つまらん。だったら、なんでこんな国に来たんじゃ?」
いやー、ニュースで見た国に行きたくなる性格でしてね〜(棒)まあ、そんなこと良いじゃないですか、はいはい、ロボットのふりね。語尾にカタカナでもつけたらいいデスカ〜。
「貴様、わしを馬鹿にしとるな!そうじゃろう!」
回想終わり。そんなこんなで大統領閣下、じゃなくて皇帝陛下(仮)の前に俺と爺さんはいるのです。
「……ふむ、それが貴様の作ったロボットか。なかなか面白いしつけをしたようだな。」
「も、申し訳ありません。すぐプログラムを……」
3発目の銃弾は俺の頰を掠めた。もちろん俺はぴくりとも動かなかったがちょっとばかり血がでた。さてさて、どうしよう。
「私は、プロフェッサ・サトが作ったロボットデス。お喋りの相手から破壊工作まで幅広く実行するために限りなく人間に近い構造をしておりマス。主要なエネルギー源はデンプンですが、最適化の為には栄養バランスのとれた食事と適度な運動、睡眠が必要デス。」
「ほう、素晴らしい!これといったエネルギー資源のない我が帝国に相応しいロボットではないか。プロフェッサ・サト、これまでの無礼は不問とす!」
「ははー、ありがたき幸せ!」
いやー、上手くいくもんだね。反射神経を調整したかいがあったてもんだ。……本当に騙されてくれているのかな?心配だけどまあいっか!
「よし、気に入った!余の即位式とともにこのロボットを発表するのだ!世界は驚き、ひれ伏すであろう!」
いやいや、この子頭がとっても「ヒンソーダ」だよ!あ、いや、「ヒンソーダ」は「こいつ頭がおかしいんじゃねぇか?」って意味だから、これじゃ「馬から落ちて落馬した」みたいな感じに……ああもう、訳わからん。なんでもいいや!
「ヒンソーダ、ばんざザーイ!」
「ははは、見ろ!ロボットすら余の帝国を讃えているぞ!」
「「「ヒンソーダ、万歳!皇帝陛下、万歳!」」」
俺はこの時の彼女の笑顔を一生忘れないだろう。ヒンソーダ帝国初代皇帝ノンベリーナ・ヘベレッケ、あるいは女帝ノンベリーナ1世。良い意味でも悪い意味でも、カリブ海の太陽にも負けない彼女の笑顔こそは資源もない、人材もいない、軍事も経済もスッカラカンというこの国で1番価値のあるものだった。
ああ、ネットサーフィンしたい……
ひゃあ、こんな美少女と2人っきりなんて生まれて初めてダゼ!独裁者で無ければ最高だけど、まあしかたないヤ。ネットサーフィンで学んだ力を今、解き放テ!
次回、第3話 「ジャップらしくで、行こう!」
明日投稿予定です。お楽しみに!