4羽
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「ねぇ、刹那これって……」
絵里奈がどこか恍惚とした表情で言った。
「ああ……」
刹那もすっかりと見惚れてしまっている。目の前の天使に。
「君が……、上級天使?」
刹那がそう聞くと、その天使は美しい余裕のある笑みをすぐに止めた。ぽかん、と間抜けな間ができた。
「ちっがーう!! アジレスタ様じゃないわ!!」
そして眉を吊り上げ、声を荒げた。
「アジ……」
刹那がその名を口にしようとした時、すっと刹那の口元に天使の人差指が触れた。
「その名で呼んでいいのはわたくしだけです。回音刹那たちは「上級天使」って呼んで下さい」
つり上がっていた眉は下がり、刹那に向かってその天使は諭すようにそう言った。
「じゃあ、あなた誰なの?」
絵里奈が言った。
「わたくし、アイオーンと申します。アジレスタ様のお付きの下級天使です。アジレスタ様のご命令で中央部までの案内を申し受けました」
「よかった、アイオーン……」
刹那は手を差し出した。間違っていなかった。正しい場所まで辿りつけたようだ。刹那はホッとした。
「よろしく頼むよ」
パンッ!
「へ?」
青い目をした美しい天使は僕の手を躊躇なくはたいた。
「いいえ、わたくし、もうアジレスタ様の元へと戻ります」
「ええっ!?」
刹那と絵里奈の声が見事に重なった。
「なんでだよ! 上級天使の命令だろ?」
「甘えないで下さい!」
甘えてねぇ……。刹那は心の中で反論する。
「見て下さい。この透明な水晶でできた床。建物。そしてあるのは一つの螺旋階段」
アイオーンは指をつかい刹那たちの視線を螺旋階段へと向けた。そこにはどこかしら茶色い、キレイだけど茶色い錆のようなものがところどころに見受けられる螺旋階段があった。それは、先が見えず、永遠に続くのではないかという不安を刹那たちに与えるほどに高く高くそびえていた。
「この階段を昇れば、中央部につきます。それだけのことです。あなたたち、危険な臭いがする。私、その都度現れます。だから心配しないで」
いや……。刹那は何も突っ込めなかった。
「気をつけてね」
満面の笑みで満足そうにアイオーンは手を振った。
「いや、ちょっと……!」
刹那は手を振り返すはずない。アイオーンを引きとめようと手を伸ばした。
「うっ!」
が、一筋の光が放たれそこにはもうアイオーンの姿はなかった。ポトリと落ちていたのは一つの羽根だった。
「なんか、和加みたいなこと言うのね」
絵里奈は少し呆れ気味に呟いた。
「はぁ、ほんと、和加も勝手に言うだけ言って消えるし、今の天使もそうだし……。天使様ってのは意外と薄情だな」
刹那はため息と同時に頭を抱えた。
「いい加減なのよ! まったく! こんなことに刹那を巻き込んでおいて」
「まぁ、行くか」
「道案内がいらないっていうのは、本当みたいだしね」
2人で階段を見上げた。
コツ、
踏み出す一歩。なぜか刹那にはこの階段を降りる、というイメージがわかなかった。昇って、昇って、このままどこかへ吸い込まれてしまいそうだったし、それでもいい気がしていた。
コツ、コツ、コツ。
キレイに足音が響く。この音、この塔全体にきっと響いてる。
それほどに静かな空間で、2人の靴音だけが妙にうるさく聞こえた。