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01 ある日森の中。

 


「詰んだぁ……」



 享年十七歳。短い人生だったな。

 振り返ってみても今までろくな事がなかった。でも、夢を持って前を向いて頑張ってたから悔いは



 ……無茶苦茶あるに決まってるよバカヤロウ。



 あたしの夢は、幸せなお嫁さんだ。

 贅沢は言わない。男前じゃなくていい。お金持ちじゃなくてもいい。ふたまわりぐらい年上でもいい。ハゲてても、ちょっとぐらい加齢臭漂ってても我慢する。


 優しい旦那様に

『世界一可愛いよ。マイハニー♪』

 って(嘘でいいから)言われながら、三人ぐらい子供を産んで。

『愛してるわ。マイエンジェル♪』

 って、反抗期にも成人しても結婚して家を出ていっても全力で可愛いがって。


 ちょっとうんざりされながらも、根負けして老後は大事にしてもらうっていう壮大な夢があったのに。



      ***



 あたしの不幸は両親の死から始まった。


 あたしたち家族が住んでた村は、元々両親が生まれ育った村ではなかった。父も母も隣の隣の隣……ぐらい離れた国の出身だった。

 母はちょっと良い家のお嬢さんだったらしく、父はその家庭教師。いわゆるよくある駆け落ちだ。父も身分が低いってわけでもなかったらしいんだけど、如何せん。親が決めた婚約者ってやつがいたらしい。


 でもまあ駆け落ちからはや十数年。大分ほとぼりも冷めただろうし、親に(あたし)も見せてあげたい。長旅に耐えられる体力があるうちに一度帰郷しようって事で、家財を整理して荷馬車を買った。

 出発前に旅の準備がてら馬車の扱いに慣れようと、両親はあたしを村長宅に預けて隣町の市へ。その間あたしは友人達との別れを惜しんでいた。


 往復二日の距離なのに、五日経っても両親は帰って来なかった。

 脳天気なあたしも村の人達もさすがに心配になり、優しい村長さんが若い衆を集めて捜索隊を組んでくれた。あたしは馬車が壊れて立ち往生してるのかなぁ? なんて、のんきに検討違いの心配をしていた。


 両親は崖下で見つかった。


 追いはぎにでも追われて馬車ごと転落したんだろう。荷馬車は粉々で、馬も首の骨を折って死んでいた。金目のものは根こそぎ無くなっていた。

 あまりのことに呆然となっているあたしに村の人達は優しかった。お葬式を皆であげてくれて、荷馬車に残っていた荷物で使えそうなものはお金に換えてくれた。さらに村長さんは隣町の町長に頭を下げて、働き口まで紹介してくれた。


 天涯孤独で一文無しで、この村じゃなけりゃ危うく野垂れ死にするところだったよ。ホントはこの村にずっといたかったけれど、小さな街で小娘を必要とする働き口なんてそうそう無い。村長さんには大感謝。

 ギャン泣きしながらありがとうを百回ぐらい言って、あたしは住み慣れた村を離れる事になった。がんばってね。幸せになれよという言葉に何度も頷いた。

 そうしてあたしは皆に見送られ、たまたま来ていた行商人に隣町まで送ってもらう途中で




 追いはぎに、襲われた。




 そりゃそーだよ。つい最近あたしの両親もここで襲われたんだもん。誰か気付けよこの道危険だって。

 行商人は追いはぎ達に有り金残さず渡して命乞いし、「女も置いていけ」の言葉にあっさりあたしを差し出した。追いはぎは人買いにあたしを売り、人買いは大陸西部へ行って商売するという別の奴隷商にあたしを売った。

 悪人達も頭使ってるんだねぇ。この国は比較的治安がいいし、人身売買は禁止している。あたしはこのあたりじゃ珍しい黒髪黒眼だから、さらに珍しくなる西の国へ行ったら安全に、もっと高く売れるわけだ。


 西部へ行くという商人達一行は、人身売買専門ってわけではなかった。節操無く、珍しいものなら何でも売買するらしい。

 国境を越えるとあたしを含め五人いた『商品』は、一人またひとりと売れていく。最後にはあたしと四人の商人達だけになった。


 あたしは『ハクカ』という国で売られる。そこには昔、『黒髪黒眼の女神が降臨して国の危機を救った』という伝説があるらしい。

 あまり治安の良い国ではなく、貴族に袖の下も効く。あたしのいた国で治安部隊に目をつけられてしまった奴隷商達は、女神を有り難がる金持ちにあたしを高く売って、暫くこの国に身を隠すそうだ。

 でも、やっぱり悪いことって出来ないもんだね。


 ハクカ国内では森の中を進むことが多い。大国ではあるが国土の大半は山林だ。当然、森の中には獣がいる。

 商人達はハクカの首都まであと少し……ってところで金色熊に襲われてしまった。冬眠から覚めたばかりのこの時期の熊は、怖い。

 焦った商人達が悲鳴をあげて、走ったり木に登って逃げようとする。熊は足が早いし木にも登れる。あっというまに次々と捕まって、血飛沫が上がった。

 熊に出合ったら騒いだり木に登ってはいけない。村では常識だったんだけど、遠目に熊を見たとたんに悲鳴を上げるとか、勘弁してよ。今までよく旅してこれたな。

 あたしは悲鳴をかみ殺し、熊の気を引かないようにそっと逃げ出した。


 奴隷商達はおそらく全滅する。

 血の臭いの染みた馬車には戻れない。

 これはピンチだけどチャンスだ。


 とりあえず西へ向かうことにする。今は夕方。野宿の予定はなかったから、あたしの足でもなんとか辿りつける距離に町か村があるはずだ。

 無一文で見知らぬ国の山の中に放り出されてしまったけど、あたしは希望を捨ててなかった。大好きな村の人達の好意に報いるためにも、あたしは幸せにならなきゃいけないんだ。


『諦めなければ道は開ける』


 かの高名なリン・カゥン氏の言葉を胸に、雨ニモマケズ風ニモマケズ今まで頑張ってきたのに……これはないでしょお……。




 ただ今、絶賛丸腰で三つ目狼の群れに囲まれてます♪




 血の臭いを嗅いでやってきたんですね。仕事早すぎだよ狼さん。いやぁ。流石のあたしもこの状況から生き延びる方法は思いつかないわ。

 目があまり見えず、でかい図体の割に意外に臆病な熊と違って、狼は群れで積極的に狩りをする。そしてこの群れはあたしを獲物と認定したらしい。


 一際大きな狼が他の狼を従えるように前へ出る。群れのボスですね。獲物の美味しいトコロはまずボスが食べるわけですね。

 機嫌良さ気にグルグル唸っていたボスは、あたしの目の前まで来ると凶悪な口を開いて咆哮した。




『ゴアァアアアァーーー!』




 食い殺される恐怖に耐えきれず、あたしはついに失神した。



 

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