とりあえずは
リハビリを始めて今日で一週間程経つ。まだ身体は思う様には動いてくれない。
現状はというと、短時間ならどうにか立てる様になっていた。短時間というのはだいたい一、二分かその程度である。まだかなり足腰が弱い。歩くのなど到底無理だろう。手や腕の方は割合動く様になってはきているものの、完全にはまだ遠い。例えば箸はまだ無理で、鉛筆を握るくらいは出来る。しかし文字はまだまともに書けない。
静かな病室のベッドにひとり寝ている自分の姿を想像した。それから、何をするにも看護師達に補助して貰っている自分の姿を想像する。——情けない姿だ。一人では何も出来ないとは。
ふうっ、とため息をついて、そっと目を閉じた。
——いつもそうなんだが、意識が戻って以降は寝ようと思うと結構すぐに眠れる。以前は寝ようと思っても簡単には眠れなかった。やっぱり体が変わったのに合わせて体質も変わったのだろうか、と思った。どうして変わったのかは分からないのだけど。
あれこれ考えているうちに、いつの間にか意識は眠りに落ちていった。
どれだけ寝ただろうか、随分長く寝ていた様な気がする。
「早川さん? 寝てますか……」
看護師の島崎が部屋に入ってきた様だ。目を開けている文彦を見て、
「あら、起きてたんですね」
と言った。
「さっきまで寝ていました……」
文彦は余り大きくない声で言った。まだ大きな声は出せないのだ。
「体調はどうですか? どこか辛くないですか?」
と、島崎は文彦に聞いた。
「……大丈夫ですよ。特には、どうもないです。以前の様な痛みはもう無いです」
「そう、あの頃は本当に辛そうだったです。それを思うと——今はいいですよね」
島崎は微笑んだ。
「そうですよね。でも、体はまだまともに動きません……」
文彦は目を逸らし、暗い表情になった。
「それはリハビリを続けていけば、きっと良くなっていくと思います。まだ始めたばかりですけど、少しづつでも絶対良くなっていく。私はそう信じています」
「そうでしょうか……」
「信じてやりましょうよ。何であれ、やってみきゃ何も始まらないんですよ」
「……そうですね」
以前からそうだったが、島崎は常に文彦を元気付けてくれている。この人の言う事は、何だか信じていいという気分になる、そんな事をふと思った。
「明日もリハビリ頑張ります」
「うん、がんばろう!」
そう言ってガッツポーズをした島崎の笑顔はとても素敵だった。
とりあえずは歩ける様になりたい。それを目標に頑張ろうと思っている。