EXITIS~その先に向かって~
どうもMake Only Innocent Fantasy代表の三条 海斗です。
先日、完結した「EXITIS~その中にあるもの~」の後日談に当たります。
書きたいことはあとがきに書きますので。
まだ稚拙な部分もありますが、最後までおつきあいください。
それでは、どうぞ!
「すみません、この案件なのですが……」
「先日行われた支部長選挙について……」
四方八方から報告や相談が飛んでくる。聖徳太子じゃないのだから一斉には聞き取れないのだけれど……。
「それだったら、担当者の方に行ってもらった方がいいかな。選挙の結果はもらっておくよ。」
僕は指示を出す。あれからこんな感じの日々がずっと続いていて、休みなんて無いに等しかった。それが嫌なわけではないけれど、休みがないのはつらい。
そういえば、彼らはどうしているだろうか。
あの日、地球であおうと約束をしてから連絡を取っていない。……連絡を取ってみようか。
だけど怜二さんと由紀さんは旅をするって言っていたから連絡は取れないだろうし、斎藤さんは地下都市の環境改善で忙しいだろうから連絡を取るのはなんだか申し訳なく思う。
……メイアさんがいてくれればなぁ。
ゼウスの雷が“消滅した”あと、僕はメイアさんのことを知った。
彼女がアンドロイドだということ、彼女のメモリーのバックアップはされていないこと。彼女の設計図自体、消滅してしまっていること。
それでも、僕は彼女のことをアンドロイドだと思うことができなかった。それは僕の未練かもしれないし、メイアさんという“人間”を知っているからかもしれない。
できることなら、もう一度彼女に会いたいと思う。それが無理な話だと分かっていても、そう望んでいた。
「そういえば、地球での会合はいつだったかな?」
僕は近くにいた職員に聞いてみる。秘書をつけるのはなんだかもどかしいので、僕には特定の秘書がいない。だから近くの人に聞くしかない。
「たしか……来週の水曜だったと思います。」
「わかった。ありがとう。」
そう返事をすると、僕は仕事に戻った。
目の前には山積みになった書類がある。……これが今日の分か……。
コロニー評議会が事実上の消滅をし、僕を除いた各支部の代表・役員全員が死亡したため、各支部の仕事が僕のところに来る。
通常の5倍の量の書類にすこしながらの頭痛を覚えた。……はやく支部が復活してくれないかな……。
そう嘆いていても仕方がない。僕は目の前の書類と戦い始めた。なにも武器をもって戦うだけが戦いじゃないと斎藤さんは言っていた。ならば、僕は僕なりの戦いをするだけだ。
怜二さんたちが守ったこの世界を、今度は進めるために僕は戦おう。ペンは剣よりも強しというし、政治家としての力を惜しみなく使っていこう。
そう一人で決心をした。
* * * * *
「う~ん、どうしよう……。」
かれこれ、一時間以上電話機の前で格闘していた。
電話を掛けることには緊張していないのだが、電話をかけるまでの決意が固まるまでに時間がかかった。
「よし!」
僕は番号を入力し、受話器をとった。
プルルルルという呼び出し音がする。その時間が妙に長く感じるのは知らず知らずのうちに緊張しているからなのかもしれない。
「はい、斎藤ですが。」
「あ、斎藤さん。お久しぶりです。朝比奈です。」
「おお、朝比奈か! 元気にやってるか?」
「ええ。毎日、書類との格闘ですが……。」
「それは大変だな。……それで、どうしたんだ?」
危ない。電話をかけた目的を忘れるところだった。
「今度、コロニー代表として地球に行くんです。それで、都合が合えば皆さんと会おうかなと考えてまして……」
「本当か!? 怜二も由紀も喜ぶよ。ということは怜二たちに連絡を取ればいいんだな?」
「ええ、それをお願いしたくて……いいですか?」
「ああ、構わないさ。日時とか決まったらまた教えてくれ。」
「わかりました。」
その後、少し話をして電話を切った。ほぼ愚痴のような内容だったけど、それでも久しぶりの仕事なしの会話で楽しかった。
世間では若年のトップだの、早熟の才子ともてはやされる一方、若すぎたトップ、若年の無能だの貶められる面もある。普通の仕事だけでも疲労がたまるというのに世間の期待とバッシングでのストレスは御免こうむりたかった。
世間は“あの事件”の真相を知らない。今でも、阿部さんたちの暗殺はEXITISの犯行ということになっている。ゼウスの雷をコロニーに向けた彼さえもEXITISのメンバーということになった。それは、その方が事件を丸く、そして反政府の兆しを増幅させないという狙いがあった。
その提案は僕がしたわけじゃない。怜二さんや斎藤さんが提案をした。由紀さんはすこし辛そうな顔をしていたが、その提案を受け入れてくれていた。
思えば、僕は世界のことを知らなかった。
EXITISがなぜ、存在をしていたのかを、アンドリュー・ブルックリンの目的を、そしてこのコロニーの闇を知らなかった。
このコロニーで行われていた実験が、地下都市の人間を苦しめ、それがアンドリュー・ブルックリンの欲望を増大させ、ゼウスの雷という兵器を作り、EXITISが誕生した。
すべてはたった一人の研究者が研究していた、たった一つのウイルスが始まりだった。その研究者はもうすでにこの世にいない。そして、その研究者がどんな人間で、どんなことを考えていたかを知る人間もこの世にはいなくなってしまった。
思えば、このコロニーはその研究者を閉じ込めるための鳥籠だったかもしれない。それが表向き、地球から避難してきた人たちの住みかとなったのだろう。
その事実を僕は……僕たちは誰かに話すことはないだろう。一人の“少女”を失ってまで守った世界を、僕らは壊したくないから。
幸い、この事実を知っている人間は僕らしかいない。証拠もないこの事件の真相は闇に葬られたといってもいいだろう。その反面、由紀さんのお兄さんや怜二さんが“謀反人”というレッテルを張られることにはなってしまったけど……。
そんなことを思い出していたら、なぜだか睡魔が襲ってきた。仕事の疲れも残っていたんだろう。
僕はその睡魔に抗うこともせず、素直に眠りについた。その日の夢に彼女が出てきて、起きてみると、自分が号泣していたなんて誰にも言えない……。
* * * * *
「エクシードウイルスの感染者か……」
僕は目の前の書類に悩まされていた。それはアンドリュー・ブルックリンが作ったウイルスで、イギナと同等以上の力を持つエクシードを作るためのウイルスで、そのウイルスに感染した人間はアンドリュー・ブルックリンの手ごまとなる。
彼が怜二さんに敗れてから親を失ったエクシードウイルスの感染者は暴走。軍隊でさえ出動するほどの規模だったが、その暴動はすぐに治まった。
エクシードが突如として力を失い、そのまま意識不明の重体に陥ったのだ。しかも全員。普通ではありえなかった。
軍隊蟻のように王がいなくなれば群れ全体が死滅する……に近いかもしれない。その患者たちは政府の役員であったり、軍人であったりするので当然、コロニーの病院に入院させることになるのだが……。
「この金額は……痛手だなぁ……。」
そう。全員が“コロニー評議会または政府にかかわる人間”であるから治療費などの援助はすべて評議会、そして、政府が行わなければならない。
確認できているだけでもエクシードの数は200人を超える。そして、その治療費の平均が500万程度。家族負担分を差し引いても莫大な金額になる。それだけコロニーの人の税金を圧迫することになる。それが、僕が無能といわれる所以だったりするのだけど。
一応、全員の身分も家族も判明していて、連絡はついているのだけど……その中には地球にいる人もいて、ここまで来るのは難しい人もいた。
妥協案して家族がコロニーに在住している人たちは家族のもとで療養してもらい、それ以外の人たちは引き続き病院で療養するという案がある。だけど、この案はコロニーに住んでいる人が引き取りに来ない可能性が残っているという課題がある。
それには病院というしっかりとした環境の方が安心するという意見もあれば、ただ単に引き取って療養していくだけの時間的、金銭的余裕がないという意見もある。どちらにせよ、引き取ってはくれない意見だ。
エクシードたちが目を覚ますめどはたっていない。このまま様子で行くと、最悪全員が……。それだけは避けなくてはいけない。
妙案が浮かべばいいのだけど、そういうのは簡単には出てこない。そう思った僕は気分転換に外に出ることにした。
こうして、外に出るのはずいぶんと久しぶりな気がする。暗殺の危険があるって言われればその危険はないと思う。
怜二さんたちがコロニーに来てから検査が一層厳しくなった。地球での検査、パスポートの照会、コロニーに来てからの検査を経て、と流れだけではパスポートの照会だけが増えただけなのだが、実際は倍以上になっている。
どれだけ厳しいのかというと、例えば、鞄の中にカッターナイフが入っていたとする。まずその時点で、荷物を改められる。そして、カッターナイフを没収されたのち、パスポートに電子スタンプが押される。宇宙でその電子スタンプが検出されると、武器になりそうなもの“すべて”を没収し、鞄の中をすべて調べられ、武器が隠してあったりでもすれば地球に強制送還、逮捕という流れだ。
厳しすぎるという意見もあるが、それだけコロニーの危険要因をなくすためだ。もちろん、すこしやんちゃな人たちがいないわけじゃないけど。
気がつくと、僕は大学の前の通りにいた。
ここで、僕はあの人と初めて出会った。確か……住居の申請について教えたような気がする。目を閉じると、あの声が聞こえてきそうだ。
……後回しにするのはよくない。だけど、今この問題を解決する策が思いつかない。どんなに時間がかかっても僕はエクシードたちを見捨てたりはしないだろう。
たとえそれがわかってもらえなくても、たとえ無能と罵られても僕は僕なりの答えを見つけよう。
やっぱり、外に出て正解だった。僕は満足感を胸に帰路へとついた。
* * * * *
数日後、僕は宇宙船のドックに来ていた。もちろん、地球に行くためだ。
「ようやく、地球に行けるんだなぁ」
そうしみじみとつぶやいてみる。自分が予想していたよりも早く行けることになったが、あの事件からはかなりの月日が経ってしまった。
「まもなく、発進いたします。乗客の皆様は係員の指示に従ってください。」
そのアナウンスが、期待を膨らませる。
「もうすぐなんだ……」
そして、係員がベルトの確認などの一通りの作業を終えた。その後、アナウンスが再度かかり、シャトルは地球に向けて、発進した。
そのまま、地球には何事もなく着陸をした。だけど、トラブルはそこで起きた。
「動くな!!」
突如、シャトルに上がってきた男たち。ざっと、20人くらいはいるだろうか、全員が武器を持っていた。
コロニーと違って地球は地下都市ごとに法律が異なる。武器をもっていい都市もあれば、全面的に禁止している都市もある。
トウヨウニホン地区は許可さえあれば製造・所持ができる都市だったはずだ。だが、それはあくまで個人的な範囲の話で、美術刀はよくても銃火器は所持してはいけなかったはずだ。彼らが持っているのはアサルトライフルだろうか。それはもう個人的な話ではなかった。
「このシャトルにコロニー評議会臨時代表の朝比奈 雄介が乗っているな。……出てこい。」
どうやら、彼らの目的は僕のようだ。……全く、アンドリュー・ブルックリンといい、彼らといい僕は犯罪者に呼び出されるタイプの人間なのか……。
そう思いつつも彼らの前に出ようとする僕を周りの人間は制止する。
「出て行ってはいけません。殺されないとも限らないのですから。」
「いまは様子を見ましょう。」
「そんなことを言って、何もできない方が僕は嫌だ。……それに僕は彼らが来てくれると信じてるよ。」
ほとんどの人が頭にはてなを浮かべていた。そんな彼らに説明をせずに、僕は男たちの前へ出ていった。
「僕が朝比奈 雄介です。」
「ほう……お前が……」
もしかすると、この人たちは僕の顔を“見たことがないのかもしれない”。だったらどうして、僕を狙う。
できる限りの考えをめぐらす。軍の武器じゃない。ならば 軍以外で武器を手入れることができる組織……EXITISにサーファイスといった巨大な組織はもう存在しない。……それ以外ならば……いや、それはないだろう。ということはどちらかの生き残りということになる。それも普通の生活をしていない。
僕の顔はメディアに出ているから見たことがないということはそういった情報が手に入らないということ。それは一つしかなかった。
「イギナ………。」
「なっ!?」
男は驚いた顔していた。ということは相手はイギナの集団だ。新たな組織ができたという話も動きも聞いていない。
「生き残りということか……。一体、何が目的なんですか?」
「黙れ。」
男は銃口をこちらに向けてくる。図星を突かれて少し警戒しているようだった。
「わかりました、あなた方の指示に従います。ですが、その前に僕以外の乗客を開放していただけますか?」
「それはできない。」
「それはなぜですか?」
「ここで全員、死んでもらうからだ。」
その声で一斉に、男たちが銃を構えた。
「やめろっ! 僕が目的なんだろう!? だったら他の人は関係ないでしょ!!」
「ああ、だがこれは復讐だ。」
「復讐?」
「お前には関係ないさ!!」
次の瞬間、まばゆい光が機内を包み込んだ。
それは、彼らの銃が火を噴いたわけでも、エンジンが爆発したわけでもなかった。外側から強烈な光が入り込んでいたのだ。
その光にまぎれて一人、刀を持った少女が切り込んできた。
「ぐっ」
「ごっ」
「がっ」
その声が一つ聞こえるたびに、男たちが倒れる音が聞こえてきた。どうやら少女が男たちを倒しているらしい。
「お前は……!」
目の前の男はそういうと、その少女に攻撃を仕掛けたが、軽くよけられ、すぐに気を失った。
「大丈夫?」
「ええ。ありがとうございます。……如月 由紀さん。」
「本当はもうすこし早く来るつもりだったのだけど……。」
「いえ、十分ですよ。それに、来ると信じていましたから。」
目の前に立つ由紀さんは僕がそういうと微笑んだ。
「ところで、ここにいる人たちは……」
「こいつらは全員、EXITISの生き残りだ。」
遅れてゆっくりと登場する青年。それは僕がよく知っている人物だった。
「怜二さん!」
「特にけがはないか?」
「ええ。それよりEXITISの生き残りって……。」
「こいつらはEXITISの代表で由紀の兄……如月の敵を討とうとしていたんだ。たとえ、それが実際にかかわっていない人間でも、やらずにはいられなかったんだろう。」
「……こんなことをしてもお兄ちゃんは帰ってこないのに……」
由紀さんの顔が少し曇る。やはり、少しつらいところがあるのだろう。
「それで、どうするんだ?」
「どうするって?」
「こいつらのこと。」
怜二さんが言っているのは先ほどの男たちのことだろう。見たところ、全員気絶しているようだった。……EXITIS最強のイギナというのは伊達じゃないなぁ……。
「逮捕はしません。」
「……いいのか?」
「ええ。それにイギナが本気を出せば牢屋なんて簡単に脱出できてしまうでしょうから。でも、縛って置いておきましょう。目を覚まして、また暴れられたらすこし厄介ですし。……。」
僕がそういうと、怜二さんはわかっていたのか、縄を取り出して男たちを縛り始めた。その間、由紀さんと僕は乗客の誘導を行った。何人かの乗客は不思議そうな顔をしていたが、それでも素直に従ってくれた。
地球に来て早々にトラブルに巻き込まれたが、反面うれしいこともあった。乗客の人が、「頑張ってくれ」や「かっこよかったよ」とか言ってくれたのは本当にうれしかった。
一通りの乗客の誘導が終わり、怜二さんのところへと向かうと、怜二さんもちょうど、彼らを縛り終えたところだった。
「どうですか?」
「ああ。もう大丈夫だろう。」
「では、僕たちも行きましょう。」
怜二さんたちと外に出ると、僕が乗っていたシャトルを囲むようにほかのシャトルがライトを照らしていた。
「あの光はシャトルの光だったわけですね。」
「ああ。とっさだったから無理やりだったけどな。」
「お~い、朝比奈~!」
遠くの方に、車に乗っている斎藤さんの姿があった。いつも来ている作業服ではなく、今日は私服というか、普段着を着ているようだ。
「斎藤さん、お久しぶりです。」
「ああ。災難だったな。」
「それにしても、よく彼らの動きを察知できましたね。」
「朝比奈が降りてこないからおかしいなと思って、見てみたら武器持った男が見えたから。」
「……事前に察知もしていなかったわけですね。」
よく生きて帰ってこれたと思う。
「さ、乗れよ。」
僕は車に乗り込む。流星群が襲来してから車というのはあまり移動手段として使われなくなったため、この車はすこし古い。それでも普通に動くあたり、斎藤さんが整備をしたのだろうと思う。
「ここが、旧東京都……日本だ。」
「ここが……」
たどり着いた先は、流星群が襲来するまえの日本の首都だった。廃ビルが立ち並ぶその様はかつて栄えた都市であることを象徴していて、すこし寂しさを覚えた。
「あまりであるかない方がいいだろう。俺たちは大丈夫だが、防護服じゃあ限界があるだろう。」
「そうですね。防護服を着ていると会話もすこし煩わしい状況です。」
「なら、早く地下に行った方がいいかも。」
「そうだな。入口まで向かうとするか。」
斎藤さんは車に乗り込むとエンジンをかけた。僕らもそれに続いて車に乗り込む。それを確認した斎藤さんは都市の中を車で移動する。
都市の中は幽霊が出てくるんじゃないかというくらい不気味な雰囲気を醸し出していた。流星群が直撃し、ほぼ壊滅状態となったその都市はまだ、昔の面影を残していて、今にでも復興しそうだった。その一番奥に少し真新しい通路があった。
“トウヨウニホン地区”。
そう書かれた通路は地下につながっているようだった。
「それじゃあ、いくぞ。」
車を降りて、地下へと続くエレベータに乗る。地下までかなりの時間がかかる。そこで僕たちはあの日から後の話をした。
「旅は順調だよ。いろんなところに行って、いろんなものを見て、いろんなことを感じて、次の目的地を決めてとかそんな感じだな。」
「いいじゃないですか。二人とも楽しそうで。」
「怜二といろんなところに行くのは楽しい。」
「斎藤さんは、どうですか?」
「俺か? 俺は調整の日々だったな。地下都市の環境は昔と比べてよくはなってきているが、それでもまだまだだ。もっとできることはあるはずだ、ってそんなことばかり考えている毎日だよ。」
「斎藤さんらしいといえば、斎藤さんらしいですね。」
「朝比奈はどうだったんだ?」
「僕ですか?」
「いまじゃ、コロニーの代表だろ? 何かあるんじゃないか?」
「そうですね……。各支部の仕事が臨時政府にすべて集まってくるので休みがほぼないような状態ですね。ほかにもエクシードたちや各支部の再建、……やることが多すぎて、僕の手に負えるかどうかいつも不安ですよ。」
「それでも、やるんだろ?」
「もちろんですよ。それが僕の戦いでもありますから。」
やっぱり、この人たちといると安心する。強いからとかそういうのじゃなくて、友達のような、家族のようなそんな感じがする。
だけど、その中ですこし感じる“何かが足りない感じ”。たった一人いないだけなのに、それは大きくて、深かった。
だけど、それを悔やんでたりしてちゃいけない。それこそメイアさんに失礼だ。
「そろそろつくぞ。」
斎藤さんのその声の後、エレベータは到着したことを知らせるベルを鳴らした。
ゆっくりと、扉が開く。その先にあったのは人々が生活をしている地下都市だった。
「これが、地下都市……。」
「朝比奈は初めて見るんだったな。」
「ええ。それにしても……」
「暗いか?」
まさにその通りだったので僕はうなずく。電灯が照らしている人工的な光はコロニーとは大違いでやはり、暗い感じは否めない。
僕は怜二さんたちについていき、ある一室にたどり着いた。
「今は俺が寝床にしている部屋だ。……さ、入れよ。」
斎藤さんが部屋の中へと案内する。
「それじゃあ、失礼します。」
部屋の中に入ると、外の雰囲気とはまた違った和室が広がっていた。外のすこし暗い感じから温かみのある色に変わり、妙に落ち着いた部屋だった。
「いい感じじゃないですか。」
「無理言って和室にしてもらったからな。」
「ほう……これが斎藤の部屋なのか。」
「和室……久しぶり。」
「まぁ座れよ。」
僕は土間で靴を脱ぐ。靴下越しに伝わる畳の感触は何とも言えない感動があった。
「それにしても畳ですか。よく用意できましたね。」
「食料を作ってるプラントの一角で、イグサを栽培してもらってな。新たに導入する施策だからと快く引き受けてくれたよ。」
「それで畳を……。地下都市も活性化に力を入れ始めてきているのでしょうね。」
「まぁトウヨウニホン地区みたいな孤島みたいなところは流通が悪いからな。その分、地元でできることをしなくちゃいけなんだろう。まぁなんにせよ、いいことだと思うぞ。」
「そうですね。コロニーでもなにかそういったものを考案してみようかな。」
「いいじゃないか?」
そんな感じで話しながら団らんとしていた。いつまでもこの時間が続くような気がして、この団らんこそが、平和になった証なんだと実感した。
「……もうこんな時間か……。」
「朝比奈は明日、会合だったか?」
「ええ。コロニーと地下都市、協力していけるように地下都市を回ってみようと思って。その過程で、地下都市の様子が見れればいいと思っています。」
「臨時政府なんだろ? まるで、新政府みたいだな。」
怜二さんがそう言った。無理もないだろう。僕だって出過ぎた真似はしていると思っているが、それでも次につなげるためには臨時とはいえ、代表である僕がある程度の基盤を作っておかなければならない。
「そろそろ、政府の代表を決める選挙があります。それまでに地盤を固めておきたいんです。」
「でも、無理はしないでね。」
「わかっています。大丈夫ですよ。……ちょっと失礼します。」
僕はデバイスを取り出して、簡単な連絡を送る。あと数分したらここに来てくれるはずだ。
「もう時間なのか……。」
「ええ。すみません、もっと時間が取れればよかったのですけど。」
「いや、しょうがないさ。それに明日、死ぬわけじゃない。……また会えるさ。」
「また会おうね。楽しみにしてるから。」
「ええ、ぜひ。」
そういった直後、チャイムが鳴る。どうやら、到着したらしい。
「それでは、僕は。……今日は助けてもらってありがとうございました。また会いましょう。」
「ああ。」
その返事を聞き、僕は部屋を出ていく。目の前には車が一台、停車していた。
「それでは、まいりましょう。」
一緒に回る男の人が扉を開けてくれる。……なんだか新鮮だなぁ。
その車に乗り込むと、僕は斎藤さんの部屋を見る。車が走り出した後、彼らは部屋から出てきて、僕のことを見送ってくれた。やっぱり、彼らと会えてよかった。そんなことを思いながらだんだんと遠ざかっていく彼らの姿をずっと見ていた。
* * * * *
車は広いスペースの一角に停車した。
ここは、地下都市の知事がいるコロニーでいう支部のようなもので、その前には駐車場がある。そこは無料で利用でき、僕たちの車以外にも何台か停車していた。
「それじゃあ、行こう。」
僕は付き添いの人たちをつれて中へと入っていく。中は広々としていた。その一番前に受付の人がいて、事情を説明すると僕たちのことを通してくれた。
いきなり来たのにも関わらず、僕たちを通してくれるのは申し訳ない気持ちと、嬉しさがあった。
「すみません。」
僕は扉の前に立っていた女性に声をかけた。
「はい。」
その女性がこちらを向く。その顔に僕は声を抑えられなかった。
「メイア……さん……?」
振り向いた女性はメイアさんにそっくりだった。瓜二つといっても過言ではないだろう。
「いえ、私はメイアではなく、芽衣……浅井 芽衣と申します。」
「ああ、すみません。」
僕が謝ると、後ろから付き添いの人が声をかけた。
「彼女は本日付であなたにつくことになった秘書です。」
「秘書だって!? 僕、そんな話聞いていないよ!!」
「話していませんから。話していてもいらないというだけでしょうし、それに地下都市を訪れるなら一人、いた方がいいです。また、襲われないとも限りませんし。」
……反論の余地がなかった。
「よろしくお願いします。」
そういうと浅井さんは頭を下げる。そのしぐさも彼女と重なった。
……いけない。彼女は彼女。メイアさんじゃないのだから。
「……よろしくお願いします。えっと、失礼ですが、芽衣さんと呼んでも?」
「ええ。いいですよ。」
「ありがとうございます。……それじゃあ、待たせてしまってますから中に入りましょうか。」
僕は扉をノックする。中から「どうぞ」という返事が聞こえた。
「……よし!」
そう気合を入れると、僕は扉を開けた。
これから先、大変なことがあるかもしれない。つらいことも、苦しいことも、今よりも増えてくるかもしれない。
だけど、僕は乗り越えていこうと思う。一人でできないことは誰かに助けてもらいながら、一人でできることは努力して、この先の未来に向かって進み続けようと思う。
僕の戦いは始まったばかりなのだから。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
改めてMake Only Innocent Fantasy代表の三条 海斗です。
EXITIS~その中にあるもの~を読んでここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
こうしてEXITISという作品を無事に完結することができたのは皆さまが読んでくれたからだと思っています。
今回、朝比奈が主人公ということで、激しいバトルも何もなかったですが、どうでしたでしょうか。
今回は”戦いが終わったその後”をメインに書いてみました。
僕なりのEXITISの世界を表現したつもりです。
これを後日談として、EXITISとしてみるみないは皆さんにお任せします。
”歴史の表の主人公”である朝比奈と”歴史の裏の主人公”である怜二という対照的な二人が織りなした世界をここで終わらせるのはもったいないと思いますが、僕の中でEXITISはここで終わってしまっています。
これから先、怜二や由紀、そして朝比奈がどうなったのかは皆さんの想像にお任せします。
幸せな毎日を送ってくれれば僕としてもうれしいです。
長々と書いてしまいましたが、改めて。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
また何かの機会があればそこでお会いしましょう。
僕らの空想が皆さんにとって大きな空想となりますように。
ではこの辺で。
Make Only Innocent Fantasyでした!