始まり
「暑いな…」
さっきコンビニで買った炭酸飲料をがぶ飲みしながら言った。
「桜、お前も飲むか?」
隣を歩く桜にペットボトルを差し出す。
(いらない…ってか、お前今口付けたろ)
「付けたよ」
(だからいらない)
潔癖症め…と心で吐き捨てた。
すれ違う人達は皆俺達…ってか俺を訝しげに見てくる。そりゃ、そうだ。
周りから見れば俺1人でずっと話してるだけなんだから。隣に話し掛けては勝手に応えて……
俺の親友・桜は三年前、事故で声が出なくなった。
以前、桜の友達だった奴らは皆桜から離れていった。いや…あいつらは、はなから友達ではなかった。
金持ちでイケメンな桜の側にいれば金を気にせず遊べるし、いい女とも知り合える。ただ、それだけだったんだろう。
俺は別に昔から桜と仲が良かった訳でもないし、悪くもなかった。何回か遊びに行った、そのくらいの関係だった。だけど、桜が事故に遭ったと聞き見舞いくらいは行こうと思った。大した事故ではないと聞いていたので軽いノリで行った。
「すみません。金城 桜の病室を教えてもらえますか?」
「ご家族の方ですか?」
「いえ、友人です」
受付の看護士は少し遠慮がちに顔を俺に近付けて小さな声で言った。
「実は、金城さんは声が出せない状態で…面会は可能なんですが、本人が少し鬱気味なのでお早めにお帰り下さい」
「はぁ……」
声が出ないってヤバいじゃん…どう声掛けてやればいいんだ…
内心1人で見舞いに来た事を後悔しながら、出始めの言葉を考えているうちに病室の前に着いた。
「ふぅ……よし!」
何の緊張感か分からなかったけどとりあえず深呼吸。
《ガラガラッ》
「……………………」
「……よっ、元気か?」
「…………………………」
「すぐに見舞いに来たかったんだけどバイトが休み取れなくて…悪かったな」
「………………………」
「……なんか…大変だな…さっき聞いたよ。…声、出ないんだって?」
「……コクリ」
桜は力無くこちらを見ずに頷いた。
「…………………」
「…………………」
気まずい沈黙。何を話せばいいのか…全く思いつかなかった。辛い緊張感で俺は視線をあちらこちらへ動かした。ふと、ベッドの方へ向くと桜が俺の様子を無表情で見ていた。ギョッとした。
「……ん?な、なにか?」
桜は大きくて長い指を動かし紙とペンを要求した。
すぐに鞄から取り出し、桜に渡した。
ゆっくりと力無く書き、俺に渡してきた。
(他の奴は?)
「なんか忙しいみたいで誘ったけど皆ダメだった。また別の時に来るってよ」
そう言うと桜は諦めたような顔をして紙とペンを俺に返した。
「俺に出来ることがあったら…何でもするよ。なんかない?」
すると桜は少し考えてからまた紙とペンを要求した。
(明日も来い)
「…なんで命令口調なんだよ(笑)。いいよ、明日もまた来る」
そう言うと桜はその日初めて自然とは言えなかったけどぎこちない笑顔を見せた。
読んで頂いた方にはアドバイス、感想、ダメ出しをどんどん書いていただければ嬉しいです。
なにぶんド素人ですので温かな目で読んで下さい。