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こんな夢を観た

こんな夢を観た「自衛隊がふらっと立ち寄る」

作者: 夢野彼方

 庭でブーンと唸るような音がする。何事かと思って外に出てみると、頭上から釜飯弁当の釜そっくりな物体がふらふらと舞い降りてくるところだった。

「これって、まさかUFO?!」わたしは仰天した。

 釜の蓋がぱっかんと開いて、中から現れたのは自衛隊員だった。どうやら、新しく開発された、1人乗り飛行機らしい。


「大変恐縮なのですが、水を一杯、いただけませんか?」隊員はわたしに向かって敬礼をし、そう頼んだ。

「あ、はい。今、持ってきますね」

 わたしは、なみなみと水を注いだコップを隊員に渡す。また、ビシッと敬礼をすると、コップを受け取って、うまそうに飲み干す。

「ありがとうございました」そう言うと、釜飯の釜に駆け戻っていく。


「これからどちらへ?」わたしが尋ねると、

「福島の被災地へ、復興支援に行く途中であります。瓦礫の撤去や除染などが、主な任務となっております!」と答えた。

 彼は「空中部隊」に属していて、すでに600もの部隊が現地へ向かっているという。それぞれの部隊は100から300名の隊員で編制されているというから、相当な規模である。


「しかも、この飛行ユニット、通称『釜飯』は、陸上においては車輪駆動による移動も可能であり、いかなる場所においても救援活動が可能となっております!」

 隊員は誇らしげに説明をすると、また敬礼をした。

 

 「釜飯」の蓋が閉じ、降りてきた時と同様、ブーンと音を発しながら、再び空中へと浮かび上がる。

 わたしは見上げて手を振り、たぶん、もう聞こえていないだろうけれど、ねぎらいの言葉をかけた。

「大変な作業でしょうが、頑張ってくださーい! 福島の人たちが、1日でも早く、不自由な生活から戻れるよう、よろしくでーす!」


 50メートルばかり、漂うように上昇していったが、そこからは一気に加速をして、たちまち雲間へと消えた。ほどなくして、はるか高く、青空をバックに、白く鋭いコントレイルを残していった。

 わたしはそのことを話したくてたまらなくなり、友人の桑田に電話を掛ける。

「空を見てみなよ。ほら、飛行機雲が見えるだろ? あれはね、被災地を支援しに行く、自衛隊の新型飛行機なんだ」


 電話の向こうで、窓をガラガラッと開ける音が聞こえた。

「あれのことか。どう見てもただの飛行機雲だな。あの辺りの空には、いつも旅客機が行き来してるぜ」

「違うって、今さっき、うちの庭から飛びたった自衛隊機なんだって」

 わたしがどう説明しても、桑田には信じられないらしかった。

「ふうーん……。『釜飯』って言ったっけ? 悪いけど、聞いたこともないな、そんな――」桑田の言葉が、ふと途切れた。

「どうしたの?」わたしは呼びかける。


「なあ、おれは夢でも見てるのかな」まるで独り言のように桑田がつぶやいた。「夢じゃないとしたら、おまえの話を信じるしかないらしいぞ」

 わたしは空を仰いだ。

 さっきまであった雲が一片残らず消えている。代わりに、無数の飛行機雲が、空一面、縞模様を描き出していた。数百、いや数千本はある。


「東北の復興はすぐだね……」 

 わたしは思わず声を漏らした。けれど、胸が詰まって、おしまいの方は言葉にならなかった。 

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