【フライ】(終)
完結です
まったく――シャワーなんて必要ないだろうに、あいつは……。
まあ、気が向いたら洗ってもらうよ。気が向いたらな。
でも、元気そうで何よりだ。
そっちに行くにはもう少し時間がかかるだろうから、気長に待っていてくれ。
あのガキもようやく使えるようになってきたし、そろそろこの国に喧嘩でも売ろうかと思う。東京を取り戻したら、一度欧州に――あいつらのところに戻るか。その前にまた寝ることになるかもしれんがな……。
カルディアとの同化が進んで、俺はもうすぐ石になるだろう。
その前に、なんとしても――
不滅にして無限なるもの――童児神イアカス、か。
全ての血と智、意志と遺志――精神の深淵に潜む、深遠なる意識に輝く神の光。男であることも、女であることも、性も個も超越し全てを抱き存在する両性具有的神人――
豊穣を司る大地母神デーメーテールと、
永遠を夢見る童児神イアッコス。
あいつらを討ち滅ぼすには、もっと多くの人間の光が――神格者の力が必要だ。
神は天を制し、
人は地を征す。
鳥は空へ。
魚は海へ。
犬は野へ。
花は土へ。
在るべきところに、光はやがて還ってゆく。
イアカスはこの世界に在ってはならない。
かつて人間が旧い神を殺めたように、新しい神を屠るのもまた人間の役目。
だが俺と同じあの半端者を見て思った。
神を殺したのが神の子なら――デメテルを滅ぼすことができるのは、デメテルの子であるイアカスなのかもしれない。
大人になる前に母の子宮へと還る、永遠の少年イアッコス。
ディオニュソスの母への反抗が、もしかしたら――な。
百余年。
春雷が落ち、それだけの歳月が流れた。
それでも、私は諦めない。
私は――貴方との約束を必ず果たします。
貴方は私を救ってくれた。
それなのに私は、貴方を運命から救えなかった。
ハジマリのイアカス。
春雷が落ちる前、この世界で最初に生まれたイアカスである貴方は、母でもなく、弟でもなく、妹でもなく、ただ死を待つしかなかった――犬である私を救ってくれた。
貴方と出逢えて私は、独りの寂しさと双りの温かさを知りました。
それなのに、私は。
あの時の後悔と決意が、今も私を燃やしている。
この胸の焔が燃え尽きるその刻まで、私は――
ま、単に借りを返すだけさ。
お前は俺の相棒だからな。
貸し借りはなしだぜ。
そうだろ?
リュア。
眩い地平を、二人の娘が駈けてゆく。
幸せそうに笑いながら、手を繋いで、どこまでも、どこまでも。
〈了〉
『火の鎖、虹の釼』はこれで完結です
この話は【未来の季節】シリーズの第4章(未来編第1章)に当たり、全6章で完結を予定しています
このあとは現代編(第2・3章)を書こうと思っています
10年以内には書き終えたいですね(笑)




