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第4部 火の鎖、虹の釼  作者: 沙魚川 出海
火の鎖、虹の釼
20/20

【フライ】(終)

完結です

 まったく――シャワーなんて必要ないだろうに、あいつは……。

 まあ、気が向いたら洗ってもらうよ。気が向いたらな。

 でも、元気そうで何よりだ。

 そっちに行くにはもう少し時間がかかるだろうから、気長に待っていてくれ。

 あのガキもようやく使えるようになってきたし、そろそろこの国に喧嘩でも売ろうかと思う。東京を取り戻したら、一度欧州に――あいつらのところに戻るか。その前にまた寝ることになるかもしれんがな……。

 カルディアとの同化が進んで、俺はもうすぐ石になるだろう。

 その前に、なんとしても――

 不滅にして無限なるもの――童児神イアカス、か。

 全ての血と智、意志と遺志――精神の深淵に潜む、深遠なる意識に輝く神の光。男であることも、女であることも、性も個も超越し全てを抱き存在する両性具有的神人――

 豊穣を司る大地母神デーメーテールと、

 永遠を夢見る童児神イアッコス。

 あいつらを討ち滅ぼすには、もっと多くの人間の光が――神格者の力が必要だ。 

 神は天を制し、

 人は地を征す。

 鳥は空へ。

 魚は海へ。

 犬は野へ。

 花は土へ。

 在るべきところに、光はやがて還ってゆく。

 イアカスはこの世界に在ってはならない。

 かつて人間が旧い神を殺めたように、新しい神を屠るのもまた人間の役目。

 だが俺と同じあの半端者を見て思った。

 神を殺したのが神の子なら――デメテルを滅ぼすことができるのは、デメテルの子であるイアカスなのかもしれない。

 大人になる前に母の子宮へと還る、永遠の少年イアッコス。

 ディオニュソスの母への反抗が、もしかしたら――な。



 百余年。

 春雷が落ち、それだけの歳月が流れた。

 それでも、私は諦めない。

 私は――貴方との約束を必ず果たします。

 貴方は私を救ってくれた。

 それなのに私は、貴方を運命から救えなかった。

 ハジマリのイアカス。

 春雷が落ちる前、この世界で最初に生まれたイアカスである貴方は、母でもなく、弟でもなく、妹でもなく、ただ死を待つしかなかった――犬である私を救ってくれた。

 貴方と出逢えて私は、独りの寂しさと双りの温かさを知りました。

 それなのに、私は。



 あの時の後悔と決意が、今も私を燃やしている。

 この胸の焔が燃え尽きるその刻まで、私は――






 ま、単に借りを返すだけさ。

 お前は俺の相棒だからな。

 貸し借りはなしだぜ。

 そうだろ?

 リュア。






 眩い地平を、二人の娘が駈けてゆく。

 幸せそうに笑いながら、手を繋いで、どこまでも、どこまでも。



〈了〉

『火の鎖、虹の釼』はこれで完結です

この話は【未来の季節】シリーズの第4章(未来編第1章)に当たり、全6章で完結を予定しています

このあとは現代編(第2・3章)を書こうと思っています

10年以内には書き終えたいですね(笑)

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