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第4部 火の鎖、虹の釼  作者: 沙魚川 出海
火の鎖、虹の釼
2/20

【フライ】(一)

『雪の果、春の光』の百余年後の物語ですが、世界が崩壊したあとの話なので、これだけでも一応読めるはず……


異能バトル百合ライトノベル(?)です

百合描写注意。女性同士のキスシーン+αがあります。男も登場しますが百合エンドなので地雷ではありません


ちなみに『ひのくさり、にじのつるぎ』と読みます

『剣』ではなく『釼』です

『鎖』と揃えるために金偏の『釼』にしました

 空が燃えていた。

 森を包む赤色の炎と灰色の煙が、天へと向かい勢いよく昇ってゆく。先刻まで降っていた雨は止み、妖しい色をした雲間から初夏の陽光が射し込んでいる。

 焼け焦げた木々に囲まれ、白い箱が建ち並んでいる。森につくられたその建物は、火の粉を浴びながら、じっと耐えるように森閑たる炎の中に佇んでいた。

 嫌な匂いがする。血の匂いだ。

 湿った土を踏み締め敷地内へ入り、開け放たれた窓から施設の中へと潜り込む。

 そこは簡素な部屋だった。木製の机と革張りの長椅子、本棚くらいしか物がない。本棚にはびっしりと難解な専門書が詰まっている。

 見ると。

 入口のドアの近くに、屍体が転がっていた。

 元は白衣だったはずの丈の長い服は、大量の血で赤黒く変色している。刃物で頸を切られたか。一撃だ。自分が切られたことにすら気づけなかったかもしれない。

 部屋を出る。

 廊下にも三つの屍体があった。全て頸を切られ絶命している。床と壁、それに天井にも、飛び散った液体によって赤黒い模様が施されていた。

 白衣を着た屍体は、ほかにもいくつか転がっていた。どうやら全滅のようだ。

 火の手が強まっている。直にここも危ない。

 一度外に出て、離れた場所に建っている小さな箱に近づく。

 その箱の周囲は燃え方が一際激しく、熱気と臭気が容赦なく襲ってくる。

 嫌な匂いがする。肉が――焼けた匂いだ。

 煤塗れの外壁。

 割れた窓硝子。

 入口から中を覗くと、そこには――真っ黒な屍体と抱き合う少女がいた。

 炎と少女と焼屍体。

 少女はまだ――生きていた。

 それどころか、建物が全焼するほどの炎に包まれていたはずなのに、どこも怪我をしていない。

 少女をきつく抱き締めたまま事切れている、人間だったそれは――少女の母親だろうか。全身が焼き尽くされ、かろうじて女性だと判別できるものの、一見しただけでは性別もわからないほど損傷が酷い。

 古木のような両腕の中で目を閉じていた少女が、ママ――と呟いた。

 少女に語りかけるように――いや、もしかしたら自分を戒めるように、私は言った。

「いくら腕を伸ばしても、人間の手は天に届かない。たとえ輝く光を湛えた英雄であったとしても、人間は地を征くことしかできない」

 少女を縛る、重過ぎる運命。

 少女を鎖す、血濡れた天命。

 もう二度と断ち切れぬ――呪いの鎖。

 この先襲い来る過酷な未来を、少女はどう乗り越えるのだろう。

「それでも人間は、夢を見続けた。その夢の先に暗闇の時代が待っているとも知らず、いつの世も、天を翔る幻想を――かつて手にしかけた栄光を」

 統一を叫び、正義を謳い、自由を求め。

 幾度となく繰り返された恐ろしい冬、そして終末へと疾り出した争いの中で。

「地を這いずるしかない人間が自由を勝ち取るには、天を統べる者を――母なるものを殺すしかない」

 昏い荒野を彷徨い、(くら)い海を游ぐ者にとって、それが唯一の灯なのだ。

「『人間は自由という刑罰に処せられている』――か。俺達は自由で在り続けなければならない。君は」

 どうだ。

 君は――自由か?

 ヒトを殺め、カミをも屠る化物を飼った――サツジンシャである君は。

 君の魂は。

「自由を求めるのならば、強く願え。自分で在ることを。この溟い海に点在し灯る、唯一つの光だということを。そして――」

 生き続けろ。

 戦い続けろ。

 黄泉国(よみのくに)から舞い戻った、清怨なる旧き劫火に灼かれることなく。

 不羇なる者よ――願わくは、最後まで人間として。

 見上げると。

 空は、まだ燃えていた。

『火の鎖、虹の釼』←この題名に辿り着くまで1年かかりました

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