おとうさんは被検体!?
突如、消えうせていく自分の身体。
助けを呼ぶにも口が消えてちゃどうしようもないね!
おとうさん、大ピンチ!?
ってわけで、第2話はじまります。
「やっとお目覚めだね。おとうさん(・・・・・)いい夢は見れたかな?」
何もが真っ白い、限りなく白が続く空間。
先程、あっという間に消えていった自分の身体が五体満足であるという事を確認し、あれは一体なんだったんだ、ここはどこなんだと現状の確認をしているときだった。とりあえず生きているという事に、心底安堵していた私にそう問うてきたのは、見ず知らずの男の子だった。
こんな状況で言うのもなんだが、誤解を招かねない。私は断言しよう。決して、私は、この子の、父親ではない!
「その様子だと、あんまり混乱はしていないようだね。ある程度乱れると思ってたから、ちょっと拍子抜けちゃったよ」
満足そうに頷いている目の前の男の子に声をかける。
「君は…そして、ここは一体……?それに、お父さんって、私は君のおとうさん…ではないよね?」
もう一度言うが、私は決してこの子の父親ではない。そう確信していたが、如何せん。私は精神病を患っている可能性があったのだった。私の記憶が無いときに、もしくは…そういう行為をした事自体を記憶さっぱり忘れているかもしれない。あっては困るのだが、万一の事を考えなければならない。この子の将来を考える。
「冗談がつうじない人だなぁ…どうしてそうなんだろうね。僕とおとうさんは、全く関係ないよ。それに、僕のことも此処がどこであるかも、今はおとうさんには全く関係ないよ。知る必要もない」
男の子は、幼くあどけない顔を無表情にする。その顔はどうしても人のものとは思えないほど、青白かった。
「い、いやね。ちょっとおじさん、記憶がおかし―――――
「あなたがそう思ってるのは間違いです。松田高志さん。あなたの気は正常です。こちらのほうでも確認致しましたが、何の問題も見当たりませんでした。安心してください」
私の言葉を女性の声がさえぎった。後ろからのあまりに抑揚のない声が、私の背筋をなぞった気がした。
「あなたは…?それに、一体どこから…?」
「それも、今はおとうさんには関係のないことだよ。それより大丈夫なの?おとうさん、ここにいる理由知りたいんでしょ?」
機械的に話す彼らは、生きているのか死んでいるのか分からないような、そう、今流行しているVOCALOIDとかいう、某会社が開発したソフトウェアに似通っていた。しかし、彼らの容姿は、死人のようであるのを差し引かずとも、人並みではなかった。
何故だかしらないが、彼らは私の内を知っているように感じられた。おそらく、彼らの雰囲気というか、オーラがそうされるのだと思う。
どうしてあなたが私の名前をしっているのか、あなたたちは一体何者なのだ
そう口に出しそうになる疑問をすんでのところで飲み込む。
「そのことを聞いても、あなたたちは答えてくれないのではないかい?」
「そんな事はないよ。僕たち、おとうさんの事については、なんでも知ってるんだ。その事については質問されたら答えなければならない…そういうふうになっているからね」
それなら物は試しとばかりに聞く。
「……私は、誰だ?」
少しの咀嚼もなしに、今度は女性のほうから返事が返ってくる。
「松田高志、42歳。1992年、6月23日にK県の赤十字病院に生まれる。小中学校は公立に通い、高校、大学共に私立の学校を卒業。大学を卒業後、当時まだ無名だった――――――
「もう、いい!ストップだ。もう、分かったから」
「まだ続きがありますが、いかがないましょう。ちなみに、高校の初SH時の自己紹介のほうも記憶していますが…多少恥ずかしいものがありますが、言い切りましょう」
高校の初自己紹介?
「では…『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら―――――――
「ストップ!ストップ!!止めてくれ!本当に、止めてくれ!!」
あぁ、思い出した。思い出したとも!私の暗黒時代を!!二度と思い出さないよう、記憶に蓋をしていたのに、思わぬところで昔の傷口が開いてしまった。
しかし、不思議なものだ。彼女は何の資料も持たず、ただ淡々と言葉を並べていた―――某アニメの台詞だけは妙に似せていたが―――
まるで頭の中にそのまま情報がインプットされてるみたいだな、なんて思いながら次の質問をする。
「次の質問、いいかな?」
「問題ありません。あなたの事に関しては、私どもに知らない事はないでしょうから」
「では……私は何故消えたのでしょう。そして、どうしてここに…?」
「おじさんが消えた理由は、僕たちがここに呼んだからだよ。ここはある程度のことなら、できるからねー。所謂、無法地帯とでも言うのかな?」
「何故、呼んだか…は答えてくれないんだね」
二人との会話は、何故だか神経をすり減らす。だがしかし、おかしな事だ。私とは何ら関わりのない人物が、私の人生の経緯をまるで自分自身が経験してきたかのように、淡々と述べるのは不可解極まりなかった。
私としては、聞きたい事がありすぎて頭の中が絡まった毛糸のように、ぐちゃぐちゃになっているから、目の前にいる二人が一から説明してくれると有難いのだが。
「今は、話せません。ただ―――
「ただ?」
「あなたには、いや、あなた方には、私たちの企画の被検体になってもらいます」
「被検体…ですか。それで?」
身体が消えて、見知らぬ二人に自分のことをペラペラと述べられて。次は被検体ときた。
半ば呆れ顔をつくり、自然と続きを催促した。
「おとうさん、詳しい事はもうちょっとまってねー!もうすぐで残りも来るだろうからさ!!」
いつの間にか青白い顔をしていた男の子が、私の横に移動していて、歳相応の明るい声色で言う。顔と声の調子が不釣り合いで些か不気味であったが、私はそれよりも、彼の言った言葉のほうに驚きを示した。
「残り?私のような被験者が他にもいるのかい?」
「それも、今おとうさんは知らなくていい事だよ。あっでも、ここで話すのもありかな。僕はちょっと楽しみだったりするんだー!残りの人数だけでも教えてあげるよ。あと二人。ここに来るのは、あと二人だよ!その人たちが来たら、もっと詳しく説明しようか。ほらっ…もうそろそろだよ!」
誰もいないはずの真っ白い空間を指差す男の子。それにつられて私も顔を横に向ける。彼が指針を示したのは、ここに来て(・・・・・)初めての事だ。それなりに、彼は興奮を抑えきれていないのだろう。流し目で確認すると、やはり心なしかあどけない表情をしている気がした。
だが、何故だろう。ものすごく嫌な予感がするのだ。何か引っかかる。彼が歳相応な表情をするのは良いことだと思うし、被験者が増えるのもこちらとしてはありがたい。こんな胡散臭い所で何をされるか分かったもんじゃないし、不安も募るだろう。それに、一人だけというのはもう(・・)こりごりなのだ。
依然として、彼は何もない白を示し続けている。遅れてくるだろう見知らぬ二人は、今頃、私と同じように足がなくなっている頃合いではないだろうか…
あぁ、今になって恐怖がぶり返してきた…私の顔は、土色に変わっているだろう。あれは、人生の中でTOP3に入るほどのトラウマに認定されたらしい。ワーワーパチパチ。いや、全然嬉しくないが。こう、脳内だけでもふざけていないと、今にも生まれたての小鹿よろしく、足が正常に機能しなくなってしまう。厳つい顔をしたオッサンが脚をプルプルと震わせて立っているというのは…何というか、絵図てきにひいてしまうものがある。気持ち悪い。ただ、私の馬齢が幾度と重なっていなく、それも女児であったならば、いいのかもしれないが……
「何をくだらない事を考えているんだい?」
「えっ…いや、何も……」
「今からがお楽しみなのに、どうしておとうさんはそうなんだろうね。ちゃんと見ててよ」
動揺する私になかなかの迫力で釘をさす男の子。その顔は、今の私とは真逆の顔をしている。
「そろそろ……いや、来ました」
女の声と共に何もないところから足が現れた(・・・・・)。やはり、二人分。向き合っているのだろうか。私から向かって左手にある足は女性、いや、少女のもの。対となっているのは男のもの。彼らが現れるにつれ、明らかになっていく。
胴が現われ首が見える。年ほどを見るに、二人とも、中高生くらいだろうか。丁度、私の子供と同じ年代であろう。発展途上な身体が窺える。
徐々に、徐々に、まるでデータか何かのように次々と現われる各部位。そこで気付く。もしや、本当に彼らは私の ■ ■ ではないのか…?
喉が見え、顎の小さい山が現われる。そして、口が見えたところで――――――
「ーーーーーーーあああああああああああ―――――――っっっっああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
二人分の大絶叫がとどろいた。空間がピリピリと振動するのが伝わってくる。私は思わず耳を塞ぎ、目を固く閉じた。
「…で、親父様よ。何か言う事はないかい?」
「ここが何処で、なんで体が消えていったのか、説明してくれるわよね?お父さん」
再び目を開け、耳に添えていた手をどかすと、やはり依然として真っ白い空間が目の前にあった―――のではなく、我が愛しいの家族が私を出迎えてくれていた。
「聞いてんのかって、おい糞親父!早く吐きやがれ、あいつらもテメェとグルなのかよ!!」
ただ、二人とも半端ではないほどの威圧感をにじませながら…だったが。
「聞いている。聞いているから。だけど、二人とも、少し落ち着きなさい」
「落ち着く?テメェ、これが落ち着いていられるか!親父、一年間も何処ほっつき歩いてたんだ!やっと見つけたと思ったら、吞気に突っ立ってやがって!!」
「はっ?お兄ちゃん、二年前でしょ?お父さんが蒸発したのは」
「あぁん?一年前だろうが。親父が風邪ひいて早退した日から」
「何言ってんの?まだパニック中?二年前だって言ってるでしょ!」
「いや、一年前だ!」
「二年前!!」
このままでは埒が明かない。そう思った私は制止の声をかける。
「火丁、葉月!落ち着きなさい!!一年でも二年でもどちらでもいい。うるさいから黙りなさい!!」
「………どっちでもいい?」
あぁ、これは火に油を注いだだけだったようだ。言い合ってた二人が同時に顔をこちらに向ける。それも、般若の形相を浮かべたままで。
「張の本人が何言ってんだ、このクソ親父ーーーーーー!!!」
やはり、二人分の声がとどろく。
これはしばらく収集が着かないかもしれない。
とりあえず、2話目投稿終わりました。
お越しいただきありがとうございます。
今回でおとうさんの黒歴史が少しだけ登場(笑)
それに、消えた理由が少しだけ明らかに!!
次の話で『異世界』とやらに入りたかったのですが…
難産で、次、説明説明説明になりそうです…
この話がちょっと少ないかな、と思ったら、また付け加える予定です。
どっかの「か」から始まるマヨネーズさん、NAOさん、感想ありがとうございます!
一応、油を取り除くイメージで書いたのですが…
やはり全然ダメでした(笑)
しばらくは我慢してくださいましorz