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「広辞苑」「ドア」「猫」

 春野天使


──あー、いたいた。また夢中になって広辞苑を読んでる。

 わたしはドアの隙間に手をかけて、そーと彼の部屋に入っていく。仕事熱心なのはいいけど、熱中しちゃうといつもわたしのこと忘れちゃうんだから。

 彼は作家。今もパソコンの前に座り、必死で広辞苑をめくっている。ネット検索すればいいのに、やっぱり広辞苑がいいんだって。

 わたしは甘えた声を出して、彼の膝に手を伸ばす。

「あ、ミーコ……やばい、朝ご飯まだだったな。昨日は徹夜で書いてたからさ……」

 彼は眠そうに欠伸する。新米作家さんは色々大変でしょうけど、わたしのご飯は忘れないでね。

「ミャー!」

 黒猫のわたしは、ちょっと膨れて彼の広辞苑の上に飛び乗る。ご飯をくれるまで、見せてあげない!


******

「マリオネット」「子犬」「メロン」

 マグロ頭


 俺はマリオネット。壁に掛けられた名もない人形さ。でも、ただの人形じゃない。正真正銘の魔道具なんだ。俺には自我がある。傷も自己修復が出来るのさ。

 だけど、苦手なものもある。俺、死んじゃうから火とかはダメ。そして、この家にいるあの生物だけは無理なんだ。

 ああっ! 言ってた側から奴が現れたよ! 廊下からのっそり現れたよ!

 お、恐ろしい……。何であんなに太ってるのだれうか? まだ産まれて三ヶ月なんだろ? それなのに何、そのメロンの様な体つきは。異常じゃない。って言うか、お前は本当に子犬なのか? 地球外生命体じゃないのか?

 あっ、止めろ! 俺をじっと見るな。また俺をその口の中でくちゃくちゃしたいんだろ! 嫌なんだよあれ。勘弁して下さい!

 えっ? おい、こら人間。俺を壁から取り外すな! あら、チロルちゃん、この人形で遊びたいの? とか吐かすな。ああ、ホントにヤメテ! 臭いの。臭いのよこいつの口の中!

 あっ、投げられた……アイツ尻尾振って構えてるよ……ホント、無理……誰か助けて……


******

『シャンプー』『床板』『てんとう虫』

 柏矢結奈


 あの日、僕は足を怪我をして道端でうずくまってたんだ。痛くて痛くて、一人で泣いてたんだ。みんな無視して、蹴飛ばそうとする人すらいたんだ。


 君だけだったんだよ。立ち止まって、僕を見てくれたのは。爽やかで甘いシャンプーの薫りがほんのり漂ってきて、僕は恐る恐る顔をあげたんだ。そこに、笑顔の君がいた。


 僕を家に連れてってくれて、部屋とご飯を用意してくれた。毎日僕に話しかけてくれた。すっごく嬉しかったぁ。


 そこで穏やかな時間を過ごすうち、僕は君を好きになってった。怪我もずいぶんとよくなったし、部屋を出て君に楽しい話を聞かせてあげたいよ。いろんな所に遊びに行きたい。ずっと…ここにいたいよ。

 だけど、僕はもう行かなくっちゃ。もう大丈夫、怪我は治った。

 小さな部屋の隙間をかいくぐり、目の前にある庭の見える大きな廊下まで歩く。端っこの、床板の最先端まで行って、背中を震わせ空を仰ぐ――。


 君は泣くだろうか。僕を探すだろうか。だけど僕は行くよ。ごめんね……――僕は所詮ちっぽけな、ただのてんとう虫だから。


*******

「カラス」「ショートケーキ」「昔話」

 春野天使


「お母さん、早く、早く!」

「お腹空いちゃった!」

「早くちょうだい!」

 子供たちの目の前には、真っ白なショートケーキが置かれている。それは、苺のショートケーキだったはずだが、上にのっかっていた苺はなくなっていた。

「お待ちなさい、子供たち。今、みんなにわけてあげるわ」

 母親はそう言って、眩しいくらいの白いケーキを見つめる。

「ケーキを食べながら、昔話をしてあげましょう。真っ白なカラスのお話よ」

「真っ白のカラス!?」

 子供たちは驚いて丸い目を一層丸くしました。

「カラスは黒いんじゃないの?」

「違うの。昔のカラスは白かったのよ。でも、白い羽ではつまらないから、おしゃれなカラスは色とりどりの羽を使っておしゃれをしたの。赤や黄色や青色の羽」

「わあ、スゴイなぁ。僕もそんな羽になってみたい」

「でもね、坊や。白いカラスは、あまりにたくさんの色の羽を使ったから、最後には黒い羽になってしまったの」

「へぇ〜だから、カラスは真っ黒な羽になっちゃったのかぁ。欲張りすぎたんだね」

「でもね、黒い羽は一番素敵な羽なのよ」

「どうして?」

「黒い羽は全ての色を集めているから、もう他の色に染まることはないの」

 母親はそう言って、自慢げに自分の真っ黒な羽を広げてみせる。

「全ての色を持っているから、こんなに黒く輝いているのよ」

「そうなんだぁ」

「よかったね〜僕達みんな真っ黒な羽で」

 七羽のカラスの子供たちは、楽しそうにさえずり、大きな口を開けて、母親のカラスがついばむショートケーキを順番に食べさせてもらった。



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