05 未来を視る
旅支度のためにお金を稼ごうと酒場に向かっていたテトラと有香。
その途中で、なにやら怪しい占い師「アステリア」に声をかけられる。
世界を移動する力を言い当てられ、断り難い条件を提示された2人は、一先ずアステリアを連れて宿に移動した。
「今日はここに泊まろう!」
「て、テトラ……? ここ、本当に銅貨数枚で泊まれるの……?」
到着した宿は、有香が想像していたような質素な宿ではなく、高級感と品が感じられる、いかにも高級そうな宿であった。
「ふ……これは試し、というやつだよ有香くん。本当に私達についてきたいというのなら、これくらいぱーっと奢ってくれないとね」
「……自分が払わないから高い方を選んだ、ってことね」
清々しい小物ぶりに呆れたようにため息をつく有香。二人が後ろに居るアステリアの方を振り向けば、彼女は表情一つ変えずに頷いて、二人の前に出る。
「三人分、一泊で構いません。お願いできますか?」
「「お、おぉ……」」
懐から取り出した袋をカウンターに置く。二人が中を覗き込むと、そこには金貨がみちみちに詰まっていた。
支払いを済ませ、案内された場所は、クラシックながらも気品のある調度品に飾られた上等な一室であった。
ベッドや椅子にそれぞれ腰掛けると、改めて話をしようと有香が切り出した。
「それで……その。見返りは私が持ってる地球の知識……ってことでいいのよね?」
「えぇ、えぇ。できればこの世界との差異がわかるようなものであれば尚良く、ひいてはこの世界に存在しない概念についての知識であれば、感激しますよ?」
「そういうの話すのってどうなんだろうね?別世界の知識を持ち込むことは世界の法則を歪める~……みたいなこと言われたりしない?」
「誰によ……」
違う世界の知識、それを軽々に伝えて良いものか。
確かにテトラの言う事も一理はある。誰がそれを咎めるのかはわからないが、もしも地球の知識を伝えたことによってこの世界にとって良くない事につながる……そんな可能性が無いとも言い切れない。
「えぇ、お二人の危惧することも理解しております。ただ……お言葉ですが、別にそこまで重要な知識を握っているとは思えないのですが……」
「うぐ……ま、まぁ私の知ってる重要な知識というか情報は会社の機密くらいなものだけど……」
「それに、そもそもその移動できる力の持ち主が何度も別世界を移動している時点で、あちらの世界の知識は何度も持ち込まれていると言えるでしょう」
「それは……確かにそうだね? じゃあいいの……かな?」
アステリアに指摘されると確かにと納得してしまう。
結局のところ、彼女たちにとって不安なのは目の前の人物が怪しく、信用に値する人間であるのかを決めかねていることにある。
「私が知識を求める理由を気になさっているのでしょうか。えぇ、それは特別飾り立てる理由もなく、ただ単に好奇心によるものです」
そう言ってアステリアは金貨を一枚取り出して見せる。
「お金というものは人間社会において万能のリソースですね。何をするにしても先立つものは必要、そうでしょう?」
「まぁ……」
「それについて悩んでたわけだしね」
「しかし、同時にお金がいくらあっても個人ではなし得ないことや、知り得ないことはあると思うのです。ゆえに、私はこれを使うことで私個人ではなし得ないこと、知り得ないことを知れるのであれば、えぇ、私財を投じることに躊躇はありません」
指で弾いたコインが甲高い音と共に机の上に落ちる。くるくると回り、ぱたりと倒れるのを三人が見届けた後、アステリアがテーブルの元へと歩いていく。
「信用できない、というお気持ちも理解しましょう。であれば、ここで一つ占いなどはいかがでしょう?」
「占い?」
「えぇ、占い師ゆえに。私にできることと言えば占い、先の未来を視ること……貴女方2人の未来を教えて差し上げましょう」
占い師としての提案、それは未来を占うこと。
現実であれば、占いなんてものはいいものだけを信じるというのが有香のスタンスであり、それもあくまで本当に起きるとは考えていない。
だが、ここは異世界、魔法やら世界の移動やらとなんでもありなのだ。
つまり、本当の意味で「未来が見える」という可能性もある。そう思うと、有香は少し興味が湧いていた。
「じゃ、じゃあ……」
「では銅貨2枚を頂きます」
「お金取るの!?」
「タダで占いはしない主義なので」
折角なので占ってもらおうと頷いたところ、手をすっと伸ばすアステリア。
まさかの占い料金請求に二人共前のめり気味に困惑するが、宿代を出してもらった手前、今更断るのも気が引けるのか、渋々ながらもテトラは銅貨を2枚取り出した。
「では……」
「「……!」」
テーブルへ水晶玉を置き、念を込めるように手をかざすアステリア。ぼんやりと水晶玉が光を放つと、2人は唾を飲むように息を止める。
「見えました……」
「おぉ……!」
ひときわ大きく光を放ち、水晶玉が元の状態に戻ると、閉じていた目を開くアステリア。
その口から語られる占いの結果を期待して2人は前のめりになり……。
「お二人と一緒に旅をする私の姿が見えました」
占いの結果を口にされると二人は揃ってガクッと肩を落としてしまう。
期待した占いの結果はなんとも言えない、というよりもツッコミどころしかないもので、苦笑するテトラに対して有香は少し怒ったような表情を浮かべる。
「あ、あんたねぇ……!」
「? 本当にお二人の少し先の未来を視たら、そのような光景が映ったのでそのままお伝えしただけなのですが……」
「ふふっ……なんか面白くなってきちゃった……っくふふ……!」
「ちょっとテトラ……」
アステリアの独特なテンポにテトラはおかしそうに笑い始める。
とてもシリアスが続きそうにない雰囲気に、観念したように有香はため息を付いてベッドに腰を下ろした。
「なんかもう何も考えてないだけの気がしてきたわ……はぁ」
「なんというか邪気も感じないし、いいんじゃないかなぁ連れて行って」
テトラがそう言えば有香は諦めたように頷いた。そして手を伸ばすと、まっすぐアステリアを見据えて。
「よろしく……変なことはしないでよね。この子を確実に家に返してあげるんだから」
「もちろん。よろしくお願いしますね」
握手を交わし、2人はアステリアを受け入れた。
怪しい占い師、その正体はおそらく天然が入っているだけの変わり者なのだろう。
信用したというわけではないが、それでも、ヒロナを一人にしなくて済むというのは、少しばかり安心できるようになったと言えるだろう。
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次回更新は1週間後、1月15日予定です。




