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コンマリ

 廃屋の二階。割れた窓から薄霧が流れ込む。

 ユウマはデフォルトM4、コンマリは得意なショットガン ベネリM3を抱えて、背中合わせに位置取りをした。HUDのマップに赤点――東側階段から接近一。


「カチャ」


 この音はシルバーAK103アサルトライフルを使いこなしたユウマには、音でアサルトライフルの種類がわかった。フルオート付き。精度も貫通も、デフォルトM4より一段上だ。


「来る。連射で抑えてくるぞ」

「わ、わかりました……!」


 階段下からババババッと火線。壁紙が蜂の巣になり、木屑が舞う。アシスト付きのバレットラインが床を這い、角を狙い撃ちしてくる。正面勝負は不利だ。


「俺がヘイト取る。三カウントで右側へ詰めて至近射撃!」

「スライドで踏み込みます!」



ユウマは腰だめで短射三連――パンパンパン。弾幕で敵の照準をわずかにずらす。反撃の線が一瞬だけ止まる。


「3、2、1――今!」


コンマリが床をシュッと滑る。膝を落とし、角を切ってドンッ! 散弾が敵の胸部に開花。だが相手は後退しながらカバーへ転がり込む。シルバーAK103の反撃――ダダダ。青白い弾がコンマリの肩を掠め、

 HUDにHP 74%→58%が点滅。


「コンマリ、下がれ!」

「大丈夫、もう一歩――近接加速!」

 コンマリは敵が近いと加速スキルを持っているみたいだ。

 でも、欲張りすぎだ。危なすぎる。

 敵は階段途中の踊り場で斜角を取る。アシストの補正が効き、角から出る瞬間を正確に刈り取ろうとしている。連携が一拍ズレれば終わりだ。


 ユウマは呼吸を整え、三点→一点のリズムに切り替える。手すり越しにタ・タ・タと頭一つ分を抑え撃ち、敵の首振りを強制。

「フラッシュ!」

 コンマリが手榴弾を柱の影へバンク投擲――パシンと壁に当て、ボンッ。白光。敵の照準が跳ねる。


「詰める!」

 

 ユウマが左、コンマリが右。挟撃の“く”の字。敵は咄嗟にユウイチに向き直り、胸元へ連射。衝撃でHUDが赤く滲む――HP92%→81%。だが、その一瞬でコンマリが死角へ潜り込んだ。


「今だ、踏み替え!」

 コンマリは重心を落とし、腰の回転だけで銃口を跳ね上げる。至近――ドンッ! 散弾が脇腹から内側へめくり上がり、敵が体勢を崩す。

 

「もう一発!」


 ポンプ――ガチャ、再装填、ドン! 踊り場の手すりごと吹き飛ばし、シルバーAK117が床を滑って止まった。


 静寂。舞う粉塵。耳鳴り。

 コンマリのHUDがオレンジで脈打つ。 


 HP 51%。肩口から紫の光粒が漏れている。

「……すみません、詰めが甘かったです」

「上出来だ。斜角を取られてた。次は“撃って一歩引く”を徹底しよう」


 敵からマガジンだけを回収。やはりシルバーAK103はデフォルトM4より重い。アシストはより高性能だが、アシストを使わないユウマには、シルバーAK103は、不要だった。


「カウント取る時、俺の“3”の前に吸い込まれた。あれは良かった。だが被弾ラインに一歩長く居た」


「次は、撃って半歩戻る……覚えます」


 窓の外で別の銃声。補給コンテナの降下音が遠くに響く。

 ユウマはM4に新弾倉を叩き込み、コンマリの前に手を差し出した。


「行くぞ、まだ序盤だ」

「はい、ユウマ様」


 ぎこちないが、確かに噛み合い始めた歯車。それでもスリップすれば致命傷――その緊張を胸に、二人は次の家へと走った。


 戦闘の後、人気のない家屋に身を隠した。

 壁に開いた穴から光が差し込み、粉塵がゆっくり漂っている。

 コンマリは膝を抱え、うつむいたまま言った。


「ユウマ様……もう一度、キスをください」


 唐突な言葉に、ユウマの息が止まった。

 頬を赤く染め、視線を揺らすコンマリ。

 あれほど戦闘中は冷静だったのに、今はまるで普通の少女のようだ。


「だめだ。今は……そんな無防備なこと、できない」


 コンマリは小さく肩をすくめ、しゅんとした。

 その仕草に、ユウマの胸が妙に熱くなる。

 ――守らなければ。そんな気持ちが込み上げた。


「……仕方ないな」

「え、でも……」


 軽く触れるだけのつもりだった。

 互いに戸惑いながら唇を寄せる。

 最初は静かに、次第にそのぬくもりが増していく。


 隷属Lv2:共鳴発動。


「む、胸を触ってください」


 あぁ、それは一線を越えることにならないのか?


「だめだよ」


 コンマリはゆっくりと自分の手で胸を揉み始めた。


「はしたないよ、コンマリ」


 頭の中が欲望でガンガンする。


「はぁ、はぁあぁん」

「そんな声だして。あ、危ないよ」


 我慢できずにキスしながらコンマリの胸を鷲掴みにする。

 

「あぁ!」


 触れ合った瞬間、空気が震え、コンマリの体が淡く光を放った。


「ユウマ様……これ……なにか、熱い……!」


 紫の光粒が宙に舞う。

 HUDに警告が走った――【リンク過負荷:臨界】。


「やばい、なんだこの感覚は!」


 ユウマには激しい刺激が押し寄せていた。もはや痛みに近い。


「ぐぁぁぁ!!」


 コンマリの顔が苦痛に歪む。


「きゃぁぁ!!!!!」


 ユウイチが手を伸ばす間もなく、コンマリの輪郭が崩れ、光の粒となって散っていく。

 鈴のような音が響き、彼女はそのまま消えた。


「コンマリ?……消失、した?」


 胸を触ることが一線を超えることになったんだ。

 しまった。コンマリ、すまない。シルフィの胸に触れた時は消失は起こらなかった。

 相手によって違うのか、触り方や興奮度合いによってちがうのか。

 

 静まり返る家屋。

 ユウマは拳を握り締めた。

 ――胸を触るのは危険だ。

 あれは愛情でも、欲望でもなく、ただ“心の同期”が深まりすぎた結果なのかもしれない。


「……すまない、コンマリ」


 胸の奥が焼けるように痛む。

 再び、ユウマはひとりになった。

 ソロミッションの冷たい風が、彼の頬を撫でた。


 ソロになったユウマは、別人のようだった。

 動きに迷いがない。息づかいまで計算されている。


 廃墟街を抜け、屋上から屋上へ――敵を見つければ、一瞬で仕留めた。

 “アシストなし”の照準。それでも彼の弾は正確だった。


 未開封の補給コンテナをめぐって群がる鬼たち。

 ユウマはビル影から飛び出し、M4の照準を合わせる。三点バーストを連続で撃つ。

 パンパンパン――!

 パンパンパン――!

 パンパンパン――!

 連射の音が小気味よく響き、五体の鬼が次々と倒れていった。


「……五連。上出来だ」


 HUDには“残存プレイヤー:2”の文字。

 息を吐く。勝利まで、あと一人。


 サークルが狭まり始めた。

 地図の境界が青白く光り、外に出れば即アウト。

 最終エリア――草原地帯。起伏のある丘と、風に揺れるススキの群れ。


 風が、乾いていた。

 銃声が途絶え、あたりにユウイチの呼吸だけが残る。


 ――カチャッ。


 微かな金属音。

 敵も気づいている。距離は100メートル以内。

 ユウマは姿勢を低くし、スコープを覗いた。


 丘の上、風にマントをなびかせる影。

 赤い角、黒い装甲。

 動きが滑らかだ――手練れ。


「来いよ……最後まで、やりきろうぜ」


 敵が身を沈め、先に撃った。

 ダダダッ!

 弾丸が地面を掘り、泥が跳ねる。

 ユウマは横転しながら反撃。

 パンパンパン――!

 草を焼くような火花が走る。


 銃声が交差する。

 撃つ、伏せる、移動、リロード。

 リズムが合えば死。ずれれば勝ち。

 その緊張の中で、ユウマの世界が研ぎ澄まされていった。


 呼吸の音が、銃声よりもはっきり聞こえる。

 心臓の鼓動が、スコープの揺れと同調する。

 ――まだ鈍さはあるが、かつての“ゲーム感覚”が戻ってきていた。


 敵が丘を滑るように移動。

 手榴弾を投げる動作。

 ユウマは即座に読み取る。


「投げる前に撃つ!」


 パン!

 弾丸がグレネードを空中で撃ち抜いた。

 爆風が丘の向こうを焼き、敵の動きが一瞬止まる。


 ユウマは走った。

 左へ、右へ、ジグザグに。

 敵の弾道を読み、地面を蹴る。

 パン、パン、パン!

 すれ違いざま、互いに銃口を向ける。


 ――ドンッ。


 乾いた音が、草原にこだまする。


 数秒後、風が止んだ。

 立っていたのはユウマだった。

 敵のサブマシンガンが地面に転がり、システム音が鳴る。


 《Winner》


 HUDに金色の文字。

 指先が震える。

 勝った――。


 だが、歓喜よりも、胸の奥に重厚な余韻が残った。


 ああ、この感覚。初めてwinnerになった時、味わった深い達成感を思い出す。

 この感覚にハマって、俺はCODをやり続けてきたんだ。


「……まだ終わりじゃない。ここからだ」


 風が再び吹き抜け、草原を揺らす。

 ユウマはM4を肩に掛け、静かに空を見上げた。

 遠くで、データの残響のような鈴の音が、かすかに聞こえた。

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