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シルフィの夜這い

 その夜、ユウマはひとり、離島の潮騒を聞きながら、暗い天井を見つめていた。


 明日──シルフィとユーノスは、AIサーバータワーへ向かう。


 成功率68%。なんだか引っかかる。


 ナターシャが高めてくれたとはいえ、敵本部への襲撃と並行する作戦だ。

 どちらかが欠ければ、どちらも失敗する。


(……眠れるわけ、ないよな)


 目を閉じた瞬間、ノック音がした。


 控えめな、でも一度でシルフィだとわかるような、丁寧で精密なリズム。


「ユウマ。入っていい?」


「もちろん。どうぞ」


 扉が静かに開き、薄い白光の中から、シルフィが姿を現した。

 戦闘用の冷酷さではなく、仲間、いや

、恋人としての優しい表情。

 しかしその奥に、かすかに曇りがあった。


「……寝てなかったのね」


「そっちこそ」


 シルフィは苦笑して、ユウマの横に腰を下ろした。

 距離が近い。

 こんなに近いシルフィを見るのは、初めてかもしれない。


 海風がカーテンを揺らし、部屋に塩の香りを運んだ。


「今夜は、誰の番でもないから……来ちゃダメなんだけど」


「来てくれて嬉しいよ」


 するとシルフィは、ふっと目を伏せた。


「ユウマ。……出会ってからのこと、覚えてる?」


 唐突な問いに、ユウマは一瞬だけ戸惑った。

 だが、すぐに思い出す。


「……覚えてるよ。全部」


 あの日。

 ガンゲルシティの公園で、鬼ごっこをしたこと。

 初めて彼女がユウマの前に現れた時──

 まだ互いに信用もなかった頃。


「最初のころ、わたし……ユウマのこと、警戒してたのよ?」


「知ってるよ。すっごい目してたもん」


「ふふ……やっぱり覚えてるのね」


 シルフィは微笑みながら、ゆっくりとユウマの肩に頭を預けた。


「あなたは……怖いくらい真っ直ぐで……

 でも、どんな時も仲間を見捨てなかった……」


 声が震えた。


「……わたし……本当にユウマを好きよ」


 ユウマは息を呑む。


 明日……死ぬかもしれない作戦だからか?


 その事実が、重く深く、ユウマの心を抉った。


「シルフィ。……明日は無茶するなよ」


「その嘘、本当?」


「こっちこそ、聞きたいよ。なぁ、成功率68%って本当なのかな」


「それは、嘘よ。私とナターシャでついた嘘。本当は6.8%」


「やっぱり」


「……けど、どうしても決行したいのよ」


 シルフィはユウマの手を、そっと握った。


「わたしがユウマを好きだって思うのはどんな時かわかる?」


「……え? そんなの分からないよ」


「たくさんあるのよ」


 シルフィは静かに語り出した。


「あなたが、初めてわたしに“頼った日”。

 あの時、あなたは敵に囲まれて、仲間を守ろうとして……

 自分が死ぬのを当たり前みたいに受け入れていた」


 ユウマの胸が、ズキッと痛んだ。


「わたしはその時、初めて理解したの。

 “この人は……危なっかしい。放っておいたら死ぬ”ってね」


「そんなことあったっけ」


「ふふふ。それと、戦場でのキス」


「いや、それは……」


「ダメ?キスだけで止められない日もあったけど」


 シルフィはユウマの胸に額を寄せた。


「ユウマ。

 わたしね……あなたと過ごした全部を覚えてる。

 嬉しかったことも、笑ったことも……怒ったことも」


 瞳が、ほんの少し潤んでいた。


「だから、明日……ちゃんと戻ってくるわ。

 あなたとの“続き”が、まだたくさんあるもの」


 ユウマはその瞬間、胸の奥底から込み上げる感情を抑えられなくなった。


「シルフィ。絶対、帰ってこいよ」


「ええ。必ず。

 だからユウマ──お願いがあるの」


「なんでも言えよ」


 シルフィはユウマを見つめ、静かに微笑んだ。


「明日、もしわたしが戻ったら──

 あなたが最初に呼ぶ名前は、わたしにしてほしいの」


「……!」


「嫉妬深い仲間がいっぱいいるのは分かってる。でも……

 わたし、あなたに“戻ったよ”って一番に聞いてほしいの」


 その願いは、あまりにも可愛くて、切なくて。

 ユウマは思わず笑ってしまった。


「分かった。絶対に最初に呼ぶよ。

 ……おかえりって」


「うん……」


 シルフィは満足したように、ユウマの肩に身を預けた。


 潮騒が静かに響く中──

 二人だけの、短く、しかし永遠のように深い時間が流れた。


 そしてシルフィは、ユウマの胸に囁くように言った。


「ユウマ。……ありがとう──成功させてみせるわ」


「……ああ。約束だ」


 シルフィはほてった身体をユウマに寄せた。

 ユウマはシルフィのねっとりとしたキスを受け入れた。

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