試合に負けて、勝負に勝つ
白い光が弾け、ユウマはロビーの床に転がるように復帰した。
「……っはぁ……はぁ……」
天井を仰ぐと、人工光が目に染みた。
床の冷たさが身体に心地よい。
全身が重い。息が荒い。意識がまだ戦場のままだ。
(……無理だって、あんなの……)
呼吸を整える暇もなく、影がひとつ近づいてくる。
「お疲れ。よくやったな、ユウマ」
胸の奥まで響く、低い声。
フィーンだ。
彼女は腕を組み、片足で軽く床を蹴りながら立っていた。
先ほどまでの血の気が引くほどの殺意は消え、柔らかい笑みへと戻っている。
「……あの状況じゃ、どんな猛者でも結果は同じだ」
ユウマの横に、すっと腰を下ろし、目線を合わせる。
「むしろ──あたしは感動すらしたよ」
「……感動?」
「お前が“本気のあたしたち三人”を相手に、
――手を抜かせなかった」
フィーンの言葉は、誇張でも慰めでもなく、純粋な賛辞だった。
ユウマの喉が、少し震えた。
(……まさかフィーンからそんな言葉が聞けるとはな……)
ユウマは天井を見上げたまま、ようやく口を開いた。
「……あそこでさ。シルフィの背中にM4突きつけて……
“勝った”と思ったんだよ……ほんの1秒だけ」
「その嘘、本当?」
シルフィが意地悪く笑う。
「思っただろうねぇ」
フィーンが笑う。
ここぞとばかりにユーノスがニヤリ。
「でも、あれ私の“デコイ”だったからね」
「……そして背中には、おまえのマグナ=ヘリクス……」
「気付いたときには遅い。いい動きだったが──詰んでたよ」
詰んでた。
本当にその通りだ。
索敵発光が展開された時点で、
こちらの動きは全て相手のHUDに筒抜けになっていた。
「……あれじゃ、どう足掻いても勝てないよな」
「そう。あんたの加速も、予測も、技術も全部読み切ってた」
フィーンは、珍しく優しい声で言葉を続けた。
「だからこそ感動したんだよ。
“全部読まれてても、なお突破しよう”としたお前の根性にな」
ユウマは、少しだけ笑った。
「……ありがとうよ。フィーン」
ぱちぱちぱち、と軽い拍手が聞こえた。
「本当に素晴らしかったわ、ユウマ」
ユーノスだ。
長い髪を揺らし、モデルのような立ち姿でロビー中央に現れる。
「フィーンが本気を出したのなんて、ここ数十回のバトロワで初めてよ?」
「そうか……?」
「そうよ。普段は手加減してるって本人が言ってたもの」
「フィーン、お前……」
「スキルは使わないと決めていたんだ。
でも、試合に勝って、勝負に負けたな。
スキルを使いたいって思ってしまったからな」
フィーンの顔が真っ赤になる。
ユウマは笑いながら肩をすくめた。
「ま、それを引き出したのは……ユウマ、あなたよ」
ユーノスは続けて、少し真剣な声になった。
「ナターシャの戦略も、見事だったわ」
「……ああ。それは認める」
「状況を戦略で操作して、あなたの加速を最大に活かす──
あの戦場は、本当に“君のための舞台”だった」
ゆっくりと端末を閉じる音がした。
「ナターシャは、戦略モジュールを……正しく使いこなせています」
シルフィが近づいてきた。
彼女の声には、珍しく“誇らしさ”が混じっている。
「砂嵐、地形誘導、敵の心理予測、導線の限定……完璧でした」
「でも全部、索敵発光で……」
「ええ。すべてひっくり返ったわね」
「本当にね」
「でも──問題ではないの」
シルフィはユウマの目をしっかりと見つめた。
「ナターシャが“戦略を理解し、運用できる”という証明こそ、最重要だったから」
「……それを示せたのか」
「ええ。全員に」
シルフィは軽く口角を上げた。
「ナターシャは、もう“ただのケアAI”ではありません」
その通りだ。頼もしい仲間が増えた。




