シュナの一人の夜
その夜。
ロビーが静まり返り、仲間たちがそれぞれの部屋に散った頃。
シュナは、寝室に割り当てられた個室のベットの上で膝を抱えて座り込んでいた。
手元のランタンからこぼれる淡い光だけが、不安に揺れる彼女の横顔を、そっと照らしている。
……はぁ……
深く、深く息を吐き出す。その吐息が、胸の奥をぎゅうっと締め付け、鋭い痛みを走らせた。
「今夜ユウマと過ごすのはフィーンの番かぁ……」
声に出した瞬間、その事実が鉛のように重くのしかかる。
「っもう……苦しい……なんで……こんな……」
堪えきれずに、自分の胸に手を置き、痛みに耐えるように強く握りしめた。
どうしようもない感情の奔流に、ただ溺れていく。
「ユウマの……バカ。ほんとに……優しすぎるんだよ……」
その言葉を紡いだ途端、堰を切ったように目尻が熱くなる。彼女は枕を胸に抱き寄せ、その柔らかさに顔をぐいっと埋めた。
「誰にでも優しいから……みんな、ユウマが大好きになっちゃうじゃん……そのたびに……心がキュッてして……なんで私こんなに……」
頬を伝う涙が、ぽつり、ぽつりと枕の布地に吸い込まれていく。
「……こんなに好きなのに……」
そう呟いた瞬間、心の奥底に押し込めていたすべての感情が、一気に爆発した。
震える両腕で自分の身体を抱きしめ、シュナは自分自身を責める言葉を続けた。
「私なんて……他の子と比べたら……」
「フィーンは強くて……大人で……あんな風に格好よくて……絶対ユウマを守れるし……」
「ユーノスは美人で……なんか余裕で……」
「シルフィは頭が良くて……どんな状況も冷静に見れるし……」
「ナターシャだって……ユウマのこと理解してて……」
一際小さく、震える声が、彼女の胸元に沈む。
「なのに……私だけ……小さくて……子どもみたいで……嫉妬深くて……すぐ泣いて……こんな私……」
そして、最も恐れる言葉が、とうとう口から漏れ出た。
「ユウマに、嫌われる……かも……」
その言葉は、声にした瞬間、自分で自分の胸を抉るナイフとなった。
「……嫌だ……嫌だよ……っ」
とめどなく涙がこぼれ落ち、ランタンの光の中で、小さな体が震え続ける。
シュナは濡れた目元を拭い、必死に自分を奮い立たせようとした。震える手で自分の肩をもみしだく。
それは、崩れそうな心をつなぎとめる、痛々しいほどの必死のマッサージだった。
「大丈夫……頑張れシュナ……嫉妬なんかに負けない……ユウマの近くに……いたいんだよね……?」
今度は両手で頭皮をギュッとマッサージし、切なる願いを問いかける。
「ユウマに……“シュナってすごいな”“可愛いな”って……思ってほしいんだよね……?」
小さな、か弱い頷き。
「……うん……思われたい……もっと……見てほしい……ずっと……私を見てほしい……」
涙で赤く染まった目元が、その切望を物語る。
「どうしたら……振り向いてくれるの……?私……強くなりたいのに……ユウマが困ったとき……助けたいのに……ぜんぜん……届かない……」
力尽きたように、ストンとベッドに倒れこむ。枕をぎゅうううっと抱きしめ、まるでユウマその人を抱きしめているかのように。
「ユウマぁ……」
「大好きだよ……本当は……私だけを見てほしい……私はあなただけを見ていたい……あなたのこと……」
言葉は喉の奥でつかえ、声にならない。
……言ったら、壊れちゃう……ユウマとの関係……壊れたら……私、立ち直れない……
彼女は枕を強く握りしめた。恋心を閉じ込める、頑なな決意。
「だから……言えない……言わない……絶対言わない……でも……好き……」
胸の奥の切ない気持ちだけが、熱く、激しく脈打っている。
涙声のまま、かすれた声で、ぽつりと最後の呟きを落とした。
「……明日……ユウマに……笑ってほしい。そのために……今日、泣くの……」
その言葉を最後に、シュナは抱きしめた枕の温もりに、そっと身を委ねて眠りに落ちた。
それはまるで、燃えるような恋に疲れ果て、夢の中に救いを求めた、小さな小さな少女の寝顔だった。




