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フィーンvsユーノス

 夕陽に赤く染まる、古代遺跡風の円形劇場。

 石造りの段階観客席がぐるりと中央のステージを囲み、その中心には遮蔽物が一切ない、だだっ広い石畳だけがあった。


 観客席には誰もいないにもかかわらず、戦場の気配は息苦しいほど張り詰めている。

 砂埃がわずかに舞い、鉄の匂いが風に乗って流れる。

 ここでは――隠れる場所など一つもない。

 真正面から殺り合うしかない、純粋な一騎打ちの舞台だ。

 ステージの中心には、片膝をついたフィーンがいた。

 右脚の外骨格はナターシャの違法級爆弾によって深くえぐられ、二丁あった《マグナ=ヘリクス》も残るは片方だけ。

 体力はわずか30%。


「……クソ、丸見えのステージなんて……最悪の相性じゃねぇか……」


 フィーンが血の混じった笑みを浮かべると、赤い血が乾いた砂へ一滴落ちた。

 その時、乾いた石のステージに、規則正しい足音が響く。

 ユーノスが歩いてやってきた。彼女が乗っていたバギーはとっくに故障して乗り捨てられている。

 ユーノスの左腕はシルフィのショットガンで骨格までダメージを負っていた。

 体力は70%。それでも、ユーノスは頬をなぞり、いつもの冷たい笑みを浮かべた。


「……フィーン。ステージの中央に座り込んで……観客には綺麗に見えるわよ?」


「煽ってんのか……?」


 互いに距離は約30メートル。

 この距離は、フィーンのSMGにも、ユーノスのLMGにも、ギリギリ射程圏内だ。

 風で砂が舞い、照明用の魔法灯がぼんやりと点灯し始めた。

 HUDが点滅し、リモート通話が強制的にオープンする。

 二人の声が、円形劇場に響き渡った。

「……これさ、観客席は空なのに、実況だけは強制オンって……やってんな、このAI」

「公平性のため……って言うんでしょうね。逃げられない、隠れられない、一騎打ちのための舞台」


 ユーノスは乱れた髪を払う。

「あなたの野生の殺意、嫌いじゃないわ」

「ヘッ……アンタの冷たい美学もな」

 照明が強まり、二人の影がステージ中央に長く伸びた。

 戦闘開始の合図はない。

 ユーノスの足が砂を踏みしめた、その瞬間──


 ガガガガガガガガアアアアッ!!!


 ユーノスのLMGが火を噴いた。

 防音壁に弾丸が当たり、その反響が一瞬で劇場全体を震わせる。


「ッぐ……!」


 フィーンは横に跳ぶ。

 遮蔽物がないため、回避は“身一つ”のみ。

 砂煙がステージ中央に立ちこめ、視界が霞む。

「正面から撃ち抜く気か……!」

「当然でしょう?あなた、脚が死んでるもの」

 ユーノスはフィーンのわずかな呼吸合わせすら逃さない。

「お前こそ片腕でLMGの照準がぶれぶれだよ!」

 フィーンは転がりながら距離を詰めようとするが──


「あなたの動きは、ヨレヨレの老人みたいよ」


 再びLMGの制圧射撃が襲いかかる。


 ガラララララララッ!!


 石畳が削られ、砂埃が吹き上がり、フィーンを押し戻す。


「ッ……!」

 

 これじゃ前に進めねぇ……!乱数回避しても、真正面のLMGに押し返される……!


 ユーノスは体勢を立て直し、「……デコイ──展開」と呟いた。


 ユーノスの周囲に、青い光が弾け、四体のユーノスが一列に並ぶ。


 左腕がないのは本体だけ。遠距離でもすぐに判別できる。


「お前……その左腕で、まだデコイ出すかよ……!バレバレだぞ」


「ヨボヨボのあんたには……充分よ」


 全デコイズが、観客席に並ぶ亡霊のように、規則的な歩調でフィーンへ向かって歩みだす。

 フィーンは残ったSMGを構えた。


 一発で仕留める……!隠れる場所がないなら……!!


 砂の舞い方。影の伸びる速度。

 LMGの激しい反動での重心のわずかな揺れ。すべてを見る。


「……そこだッ!!」


 フィーンは地を蹴った。爆発的なダッシュで本体と見たデコイの一つへ向かう。


 しかし──


「甘いわ」


 背後から声がした。


「!?後ろ……!」


 フィーンが振り返るより速く、ユーノスは片腕だけでLMGを構えていた。


 左腕は死んでいるのに、右腕一本で。


「勝つ……」


 至近距離で引き金が引かれた。


 ドガガガガガガアアアアアアッ!!!


 LMGの衝撃が、フィーンの胸の装甲を焼き落とす。


 砂煙が吹き飛び、影が弾け、照明が激しく揺れた。


 フィーンは仰向けに倒れ、荒い息を吐いた。


「……くっそ……マジで……化け物だな……アンタ……」


 ユーノスは息を切らしながらも髪を払う。


「あなたもよ。SSランク同士でここまでやれる相手は……そういないわ」


 フィーンは 空を見つめた。


「次は……脚も万全……でやらせろ……」


「ええ、望むところよ」


《PLAYER DOWN — フィーン》


 照明が落ち、夕陽の残光だけが、誰もいない観客席の中、SSランクの勝者であるユーノスを静かに照らしていた。


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