シルフィvsユーノス
転送光が消え去った瞬間、世界は一変した。灼熱の太陽が容赦なく照りつける、乾ききった砂岩地帯。『ロック・ゲート』だ。
風が砂を払い、巨大な岩柱、影の濃い洞穴、深く刻まれたクレバスが視界の端から端まで続く。この苛烈な地形の先に、ライバル、ユーノスが立っていた。
同一エリアに入ったため、二人の間にHUDのリモート会話がオープンになる。
ユーノスがLMG《ミニミ軽機関銃MG42》を構えたまま、デコイズを展開する。
「さて……開幕から全力いくわよ」
ユーノスが優雅に指を鳴らした瞬間、岩陰の景色が一斉に光学迷彩のゆらぎを見せた。
──ドッ、ドッ、ドッ!!
三つの人影が、足元の砂塵を蹴り上げながら左右へと散開する。デコイズ、展開完了。
「動く速度、姿勢、LMGの構え、全部本物そっくり……気づけるかしら、シルフィ?」
ユーノスは本体を巨大な岩柱の影に深く隠し、LMGを構えたまま完全沈黙。彼女が息をひそめるだけで、広大な砂岩地帯が数倍の殺意で満たされていく。
ユーノスの戦術は、中距離制圧と心理戦の鬼だ。
シルフィは人気のない岩場にしゃがみ込むと、ショットガン《ベネリM3》を抱えたまま、ゆっくりと目を閉じた。彼女は近距離戦の化け物にして、天才解析者。
「……データ受信、開始」
彼女の視界に、砂嵐の中から情報を抜き出す透明なホログラムの点群が浮かび上がる。
風の流れ、地表の微細な反射光、砂の粒子の揺れ方……そして、デコイにはないユーノスの**『影データ』**。
「デコイ3……行動パターン100%模倣。本物は──」
シルフィの瞳がカッと鋭くなる。
「左奥の岩柱。……呼吸が、0.03秒だけ規則的すぎる。その嘘、本当?」
次の瞬間、彼女の唇から、確信に満ちた一言が漏れた。
「──発見。」
その一瞬、ユーノスもシルフィの動きを察知し、動いた。
「さすがね、シルフィ。もう本物を当てて、偽物を無視した……なら──こうよ!」
ユーノスのLMGの銃口から、灼熱の砂嵐のような弾幕が吹き荒れる。
──ドドドドドドッ!!!
岩柱が削られ、砂が爆ぜ、破片が飛び散る。
シルフィは即座に地面を転がって回避しながら、目を細めた。
「……弾幕の密度が高い。この猛攻は、近づけない。」
ユーノスは得意の中距離ポジションを維持したまま、勝利を確信して叫ぶ。
「あなたの武器は近距離のベネリM3。この距離は……圧倒的に私の勝ちよ!!」
ユーノスの弾幕に削られた岩陰から、シルフィがそっと顔を出した。
「……?死ぬぞ」
ユーノスの射撃を制御する指が、ピタッと止まった。
解析結果が、シルフィの視界に赤字で映し出される。
《再計算タイミング:0.92秒後》
「その嘘、本当?」
シルフィは砂を蹴り、地を這うように、そして一直線に跳ぶ。近距離の化け物が、弾幕の針の穴を突くように突撃した。
ユーノスが驚愕の声を上げた。
「来る──!?」
0.92秒の制御の隙を突き、シルフィがショットガンを構える。
──バァンッ!!!
ショットガンから放たれた衝撃波が、ユーノスの身体を叩き貫く。反射的に身をひねりかわすが──
「……ッ──!?」
左腕を庇うように崩れ落ちるユーノス。ダメージを受けた瞬間、展開していたデコイズが一斉に霧散した。
「……見事ね。まさか私の防御と回避を、突破するなんて……」
「あなた、弾幕の**『ポジション制御アルゴリズム』に、毎回1秒だけ『再計算の隙』**がある。」
「まさか……それ、見てたの?」
「見てたわ。ずっと。」
ユーノスは崩れた体勢のまま、乾いた笑いを漏らす。
「シルフィ、あなた……もうSSランク以上の動きよ。」
シルフィは銃口を向けたまま、激しい呼吸を整えて囁いた。
「認められるのは嬉しいけど……まだ終わってないわ。」
「その通りよ!」
ユーノスは素早く砂を掴み、シルフィの顔面目掛けて投げつける。目眩まし。
「……っ!?」
シルフィが瞬時に視界を覆う。再び目を開けた時、ユーノスの姿はもうない。
ユーノスは砂岩地帯の端に放置されていた老朽化したバギーへと一目散に駆け込んでいた。
「今日はここまで! この戦い……次は本気でいくわよ!!」
──バギィィィン!!!
砂煙を巻き上げながら、バギーが猛スピードで走り出す。
「逃げた……!」
シルフィが叫ぶ。
「違うわ。戦略的撤退よ」
仲間の実力を知ったユーノスの眼はギラギラと輝いていた。
「ふふふ。シルフィ……やるわね。
デコイズは、シルフィと相性が悪い。覚えておくわ」




