離島の隠れ家
――静かだった。
都市の爆発も銃声も、AIの冷たいアラート音もない。
ただ、海と風と鳥の声だけが、五人を包み込んでいた。
マンハッタンから離れた小島。
ユーノスが“万が一”のために保持していた隠れ家。
軍のレーダー基地がある島の南端にある石造りの建物は、潮風に削られて角が丸くなり、屋根にはカモメが休んでいた。
――ここだけ、戦いが嘘みたいだ。
しかしユウマの身体は、ズタボロだった。
近接加速を“三段階同時解放”した反動で
筋繊維は裂け、神経伝達は焼け、肺には細かな損傷が無数に走っていた。
「……しばらく、まともに歩けないな。」
上半身裸のユウマが苦笑する。
召使いAIのナターシャが冷却ジェルをユウマの背中に塗っている。
ユーノスが呆れた声をあげる。
「一ヶ月は安静。これから超速回復カプセルに1日10時間入ってもらう。
五人まとめて二百メートルも跳んだんだ、当然だろ。」
口調は厳しいが、声色は優しい。
窓辺ではシルフィがタブレットを抱え、
ガナン博士とサナ博士が残した“ストアドプロシージャ”のコードを延々と読み込んでいた。
「……シルフィ?」
ユウマが声をかけると、
彼女は驚いたように肩を震わせ、振り返る。
「あ……ごめん。集中してた」
「いや。何か気になることがあるんだろ?」
シルフィは少し迷った末、唇を結んで言った。
「ユウマ……
このストアドプロシージャ、本当に動くのか……テストしたい。」
「……実行テスト、ってことか?」
ユウマが身体を起こすと、彼女は真剣に頷いた。
「うん。
ゴッドイーターの中枢に送るコードよ。
一度くらい、テスト検証しないと怖い。」
その時、入口からユーノスが静かに入ってきた。
「それなら――場所があるわ。」
「え……?」
シルフィが振り向くと、ユーノスは淡く笑った。
「この島には“レプリケーションAI”がある。
本体AIのバックアップ用に毎日レプリケーションされている旧式サーバー」
「そんなのが……」
「ただし、CPUもメモリもスペックが低いから遅いわよ。
セキュリティは高くないからシルフィならハッキングは容易よ。
灯台下暗し。ここも誰からも見つからない場所。
でも、ストアドプロシージャのテスト検証には――何日もかかるはずよ」
シルフィは息を呑む。
「……それでも……試したい。
本体に直接送って、一度きりのチャンスで失敗したら……取り返しがつかない。」
ユウマは静かに言った。
「分かった。シルフィ。
お前に任せてもいいのか」
一瞬、シルフィの頬が赤く染まる。
「……責任重大すぎる……でも、やる。やらせて……」
ユーノスが皆を見渡して言った。
「――よし、しばらくは“ここで生活”する。
ユウマは身体を治す。
シルフィは一ヶ月かけてレプリケーションAIでテスト。
私とフィーンとシュナは島の防衛と生活を整える。
ナターシャはユウマにケアプログラムを」
ユウマは天井を見上げた。
波のリズム。
鳥の声。
柔らかく差し込む陽光。
「……悪くない。こういう時間も。」
シルフィが穏やかに微笑む。
「うん……
みんな、休まなきゃ。」
ユウマはゆっくりと目を閉じ、仲間の気配を感じながら言う。
「治ったら――動く。
ゴッドイーターを倒すために。」
四人の声が重なった。
「もちろん。」
こうして――
ユウマの長い療養と、
シルフィの一ヶ月におよぶレプリケーションAIテスト。
そして仲間たちの静かな再生の時間が始まった。
静寂の小島で。
次の“世界を変える戦い”の準備は、確実に進み始めていた――。




