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空へ飛べ

 ――ドォォォォォォン!!!


 地下で何かが破裂した。

 揺れは地鳴りのように建物全体を貫き、


 床が跳ね、

 壁が割れ、

 屋上の金属フェンスが波打つ。


 ――ドォォォォォォン!!!


 ついに爆弾が爆発した!?

 一つじゃない。いくつもの爆発が連鎖しているみたいだ。


 ――ドォォォォォォン!!!


「うわっ……立ってられない……!」


 シュナが膝をつく。

 フィーンが支えようとした時、

 突風のような気配が全員の首筋をなぞった。


 赤熊鬼が揺れにも関わらず突撃してきていた。


 爆発。煙。瓦礫。


 視界ゼロ。


 その中を、赤熊鬼は野生の勘だけで突き進む。

 床に爪が食い込み、火花が散る。


「来るぞッ!!」

ユウマが咄嗟に叫ぶ。


 銃は撃てない。煙で視界が悪すぎる。

 赤熊鬼と混戦している仲間を撃つリスクが高すぎる。


 シルフィが叫ぶ。

「全員、屋上入口のドア前に集合!! 背中合わせよ!!」


 五人が入り口へ走り、

 狭い範囲に固まって陣形を組む。


 爆炎の向こうから――


 ガアアアアアアアアアアッ!!!


「いまだ!!咆哮に合わせて撃て!!」


 ユウマの号令。

 五人は音だけを頼りに

 暗闇へ向かってフルオートで銃を撃ちまくる。


 ――ダダダダダダダダッ!!!!

 ――ドンッ!ドンッ!

 ――ガンガンガンッ!!


 火薬の匂いが肺を満たし、

 薬莢が床に降りそそぐ。


 咆哮は止まらない。

 しかし、確実に“弱く”なっていた。


「静かになる……!」


 一瞬、世界が黙った。


 煙だけが揺れ、

 耳鳴りだけが残る。


(終わった……?)


 その時――


 ユウマの耳に、

 かすかな「クゥッ」という小さな熊の咆哮が届いた。


「……上だッ!!!」


 ユウマが叫んだ瞬間、

 全員が反射で真上に銃を向けた。


「撃てぇぇぇぇぇ!!!!!」


 ――閃光。

 ――火薬の爆発。

 ――空気が裂ける衝撃。


 次の瞬間。


 ズサアアアアアアッ!!


 赤熊鬼の巨大な死体が、五人の目の前に落ちてきた。

 その胸には無数の弾痕。

 顔は崩れ、光は完全に失われていた。


 赤い液が床を染め、

 煙がその上をゆらゆら漂う。


「……終わった……のか……」

 シルフィが肩で息をしながら呟く。


「いや、終わってねぇ……!」


 ユウマはヘリの方を見る。


 ――ゴォォォ……ッ!!!


 ヘリコプターが爆発し、

 炎が屋上を飲み込むように広がった。


「嘘でしょ……逃げ場……ないじゃない……!」


 フィーンが歯を噛む。


「ユウマ……どうするの……?」


 ユウマは煙の向こう、

 ビルの縁まで走り、隣のビルを見下ろした。


――ドォォォォォォン!!!


 ビル全体が再び大きく揺れた。

 地下での爆発が連鎖している。腕が震えるほどの衝撃。そして――


 炎上したヘリコプターが、屋上を赤く染めていた。


「逃げ場が……ない……?」

 シルフィがかすれた声で言った。


 ビルの端から覗き込むと、都市の谷間が暗く沈んでいる。

 高さ百メートル。隣のビルまでは――


「シュナ、距離は?」

「……正確に……208メートル。高さ差は約50……!

 ユウマ、ムリだよ! こんな距離――」


「ムリかどうかは……俺が決める!」


 叫んだ瞬間、火花が散った。

 炎の中に黒く焦げた金属――貨物用パラシュートが見えた。


 使える。

 五人なら、まだ飛べる。


「あのパラシュート、回収する!」

「ユウマ!?あれは貨物用だぞ!」

 フィーンが叫ぶ。

「だからだ! 俺たち五人まとめてパラシュートで行く!」


 ユーノスが最初に理解して動いた。

「……行ける、のか?ユウマの近接加速で?」


「行くぞ――全員つかまれッ!!」


 炎の中に飛び込み、パラシュートの収納パックを引きずり出す。

 重い。だが、いける。近接加速で筋肉が軋む。


「ユウマッ!!」


 シルフィが俺の背に腕を回した。

 フィーンが右肩、シュナが左肩、ユーノスが腰にしがみつく。


 五人の体温が一気に背中へ集まる。

 心臓の鼓動が同調する。


 シュナが目をつぶって呟く。

「私の計算では、走る速度にして、時速50キロちょい。

 四人抱えたまま、水平よりちょっと上、10度の角度で飛び出して。できる?」


「その嘘、本当?」


「できるかどうかなんて関係ない。やるんだ!」


 ――飛べる。


「全員、しっかり掴まれ! 離すなよ!!」


――ドォォォォォォン!!!


 足元でさらに爆発。屋上が崩れる。


 ユウマが四人を背負って近接加速で走り出す。


「うぉぉぉ!!!」


「ユウマ、今まだ時速40キロ。もっと加速して!」


「ぁあぁぁぁぁぁダァ!!!」


「時速50キロ、クリア!」


「跳ぶッ!!」


 俺はビルの端を蹴り――

 全身の力を“前”へ解き放った。


「角度8度!ちょっと足りない!」


 重力が一気に身体を引きずり下ろす。

 だが俺は空中で姿勢を整え、腕の中の四人を抱き寄せた。


「ユウマッ、対気流来る!」

「わかってる――近接加速……開放ッ!!」


 空気が弾け、身体が“前へ滑る”ように動いた。

 落下速度が変わる。水平ベクトルが伸びる。


 沈む街の光が遠ざかり、風が耳を切る。


「再計算!高度90m!開傘ポイントだよ!」

 シュナが叫ぶ。


「了解!! 行けッ!!」


 ユウマが開傘ロープを引き――

 バンッ!!

 巨大な貨物パラシュートが一気に膨らむ。


 重い衝撃で身体が引き上げられ、全員の息が詰まった。


「ぐっ……!!」


 だが、止まらない。

 パラシュートは風を受け、白い布が月光を受けてひらめいた。


 五人は紐で繋がれ、俺の背からぶら下がる。


「ユウマ、右寄りに風が流れてる……!このままじゃ衝突する!!」


「任せろ……!」


 俺は体重を左へ傾け、近接加速を“わずか”に噴かす。

 帆がしなり、パラシュートが斜めに滑った。


 摩天楼の谷間を、五人がひとつの影になって落ちていく。


「距離あと50……40……30メートル!!」

「行ける! このまま――!」


 風が吠えた。

 街の光が線になり、世界がスローモーションに変わる。


「着地準備!!膝を緩めろ!! 衝撃来るぞ!!」


 隣のビルの屋上が迫る。

 その瞬間、俺は全身の近接加速を“上方向”へ解放した。


 落下ベクトルを殺す。


「今だッ!!」


 五人まとめて――

 ドッ!!

 乾いた衝撃が足に走ったが、膝で吸収し、踏みとどまった。


 俺は片膝をつき、全員を胸の前で抱えたまま、地面を滑る。


 パラシュートが背後で倒れ、風に煽られてめくれ上がった。


「……はぁ……はぁ……」

 地面に手を突いたまま、呼吸が乱れる。


「全員……無事か?」


フィーンがはぁはぁと息を吐く。


「あたしは、死んだよ。やばかった」


「その嘘、本当?私も死んだ」


「私もよ。計算なんて当てにならないわ」


 ユーノスが笑った。


「あははは!全員死亡!大成功よ」


 シルフィが俺の胸から顔をあげた。

 涙で目が濡れている。


「……ユウマ……すごい……」

 声が震えていた。


 フィーンは呆れたように笑った。

「お前……本当に人間かよ……」


 シュナはまだ俺に抱きついたまま震えていた。

「死ぬかと思った……でも……ユウマなら……って……」


 ユーノスは立ち上がり、髪を払った。

「完璧だったわ。あなたは本当に……狂ってる」


「褒めるのは後だ……」

 俺は立ち上がる。

 「まだ逃げ切っていない。」


――ドォォォォォォン!!!


 ダダダダダ!!!


 燃えるビルが背後で崩れ落ち、夜の空気が震える。

 街の風が、五人の髪を揺らした。

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