TYPE3 のジャック
黒い外骨格。生身の存在感。
毛皮ではなく、人工筋繊維で補強された四肢。
獣の目と、人の知能を併せ持つ“擬人化熊鬼”。
明らかにTYPE2とは違う。これがTYPE3の擬人化熊鬼。
「俺はジャック」
その顔は、端正な人間だ。声は朗々と響き、美しくさえある。
厚い唇が歪んだ笑みに吊り上がった。
「……何を企んでいるか知らないが」
低く、湿った声が屋上に響く。
「シルフィ・ソニクル。お前を殺す」
シルフィは一瞬、膝が震えた。
その名を知っているということは──
「その嘘、本当?……あなた、私を知ってるの……?」
ヒューマノイド熊鬼は喉を鳴らした。
それは笑っている音だ。
「そうだ。ガナン博士とサナ博士を殺したのは、この赤熊鬼……俺のペット」
後方の影、巨大な“本命”がゆっくり頭をもたげる。
巨大な輪郭がヘリの機体越しに浮かぶ。
「ゴッドイーター様からのメッセージだ。
親子揃って赤熊鬼のエサにしろ……とな」
ユウマの背筋が凍りつく。
「そして、ユウマ」
熊鬼がゆらりと手を伸ばす。
「貴様は“生け捕り”が命令だ。
大人しく捕まれば、仲間は助けてやる」
静寂が屋上を支配した。
風が吹かない。
ドローンの音も聞こえない。
街の灯りすら遠く見えた。
ユウマは一歩前に出た。
「悪いな。お前と話し合うつもりはない」
その声は低く、迷いが一切無い。珍しく怒気を放っている。
「ジャック、赤熊鬼――お前たちを殺す。」
ジャックの瞳が、獣の光で揺らめいた。
そしてゆっくり、舌舐めずりする。
「そうこなくっちゃな。くくく」
爪が伸び、人工筋肉が膨張する。
「殺し合いをしに来たんだもんな?」
「来るぞ!!」
ユウマが叫ぶと同時に──
ジャックが床を踏み抜いた。同時に赤熊鬼が不規則な動線で撹乱する。
――ドガァッ!!
人間の十倍を超えるジャックの跳躍。
金属の床が陥没し、破片が弾丸のように飛ぶ。
「ユーノス、左!フィーン、カバー!!」
「もう動いてるわ!」
ユーノスは二丁サブマシンガンを構え、
床を低く滑りながら側面に回り込む。
赤熊鬼も暴れ回るように爪を繰り出す。
「動きが読めない!」
フィーンは正面から撃ち込み、
赤熊鬼の眼球に連続射撃。
流れ弾がカンカンカンとヘリコプターに着弾する。
シュナは後方高所に跳び、
膝立ちでマークスマンライフルを構える。
「関節、見える……撃つ!」
――パァンッ!
「グァァァ!!!」
弾丸が赤熊鬼の膝裏へ吸い込まれ、
動きが一瞬だけ鈍る。
ジャックと赤熊鬼の連携が乱れた。
「今よ、ユウマ!!」
シルフィの声が響く。
ユウマは加速した。
近接加速が足元の空気を裂き、
風が衝撃波のように前へ吹き荒れる。
「喰らえ……ッ!!」
M4の三点バースト!
ジャックの心臓に向けてゼロ距離射撃。
――パンッパンッパンッ
装甲が砕け、人工筋肉が裂ける。
ジャックが呻き、膝をついた。致命傷ではない。
「クソ三点バーストが!!」
「落ちろッ!!」
フィーンが飛び込みざまに二丁で挟み撃ち。
ユウマがショットガンを呼ぶ。
「今っ!!シルフィ!!」
シルフィがショットガンを逆手に構え、
風のように跳躍。
「親の仇……!」
彼女の叫びが、銃撃よりも鋭く響いた。
引き金。
――ドォンッ!!!!!!
ジャックの頭部が消し飛び、
身体が崩れ落ちた。
床に転がり、肉片と化した!やはり生身。
しかし、流れ弾が当たったヘリコプターが火災。
ダダーン!!!
爆発音。そして、パチパチと炎が爆ぜる音。
ユウマは息を整えた。
「……一体、倒した」
フィーンが肩越しに言う。
「だが……本命は後ろよ。」
黒煙を上げるヘリの影で、
巨大な影がゆっくりと立ち上がった。
赤い毛並みは燃えるように揺れ、
全身の筋肉が生体兵器そのものの脈動をしている。
爪は腕の長さほどあり、
眼だけが冷たく光っていた。
――ゴォォォォ……
「……こいつが……」
シルフィの声は震えていた。
「父と母を……殺した……“赤熊鬼”……」
赤熊鬼が一歩踏み出しただけで、
床がひしゃげ、瓦礫が飛び散る。
その視線は、
シルフィではなく――ユウマに向けられていた。
「……来いよ」
ユウマはM4を構え、
仲間の前へ出る。
「お前が何であれ。
仲間を奪うって言うなら──」
風が、彼の足元で渦を巻いた。
「俺が殺す。」
ズガガガーーン!!
黒煙をあげていたヘリコプターが爆発した。




