表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/69

研究所入り口までの道のり

 ユーノスが背中のポーチを開くと、黒い袋が現れた。

 ひらりと取り出されたのは——熊耳が五セット。


「ちょ、ちょっと待って。なんでそんなもの持ってるの?」

 ユウマが一歩さがる。


「変装用だ。TYPE2の巡回ルートを読むには必要だろう」

 ユーノスはいつもの冷静な顔のまま、耳を軽く引っ張り、質感を確認した。


「ま、まさか……それ、本物の熊耳じゃ……?」

 シルフィが青ざめる。


「安心しろ。最新式の人工皮膚だ。触覚まで再現してある」

 そう言ってユーノスは、フィーンの頬にそっと押し当てた。


「ひゃっ……リアルすぎない?これ……!」

 フィーンが耳を押し返す。


 五人は霧の中で身を寄せ合い、素早く変装を始めた。

 耳をつけるだけでなく、肩幅を広く見せるパッド、特殊な筋肉スーツ、呼吸のテンポを合わせるユーノス式訓練。

 完成した姿は——森の影に紛れる五体の“熊鬼兵士”そのものだった。


 ユウマは鏡代わりの水たまりをのぞき込み、

「……すごいぞ……これならバレない?」

 とつぶやいた。


「いいか。TYPE2は歩幅、呼吸、視線の動きが同じに訓練されたいる。ひとつでもズレれば即バレる」

 ユーノスは低く言い、隊列のフォームを示した。


 五人は、擬人化熊鬼の巡回ルートに自然と紛れるように街路へ踏み出した。

 すべての動作がぎこちなくならないよう、慎重に、静かに。


 ……が。


「おい、そこの隊列」

 背後から低い声。


 五人は同時に固まった。


 振り向くと、一段階大柄な熊鬼兵士が立ちはだかり、

 疑い深そうにユーノスたちを見回していた。


 職務質問だ。


「所属番号と任務を言え」

 熊鬼の瞳が鋭い。


 ユウマの足が震え、フィーンは明らかに目を泳がせている。

 シュナがユーノスの背中を小さく叩いた。

 ——やってくれ。


 ユーノスは一歩前に出た。

 背筋を伸ばし、熊鬼特有の低い声を完璧に再現する。


「本隊“外郭警備β-4”。任務は……夜間区画の霧解析だ」


「霧……解析?」

 熊鬼は眉をひそめた。


 ユーノスは畳みかける。


「ああ。霧濃度が一定値を超えるとセンサーにノイズが入る。ゆえに解析命令が出た」

「我々β-4は新設部隊だ。耳慣れないかもしれんが……」

 ユーノスは肩をすくめ、小さく笑った。

「上層部は気まぐれだろう?」


 熊鬼兵士は眉間にしわを寄せたが、次第に表情が緩んでいく。


「……まあ確かに上は気まぐれだ」

「よし、通れ」


 五人は同時に心の底から安堵した。

 歩き出しながら、シルフィが小声で言う。

「その嘘、本当?ユーノスすごすぎない? もう俳優じゃん……」


「だまってろ……」

 フィーンがぼそりと毒を吐く。


 霧の中を進む五人。

 しかし、この街は危険すぎる。死角はほとんどない。


 そこでフィーンが胸元に手を当てると、かすかに光が滲み出した。

 彼の魔力が地面を舐めるように広がり——点々と敵の位置が光の粒子として浮かぶ。


「前方二十メートル、左に巡回ペア。右に三体停留。

 ……あ、ユウマ、そっち行くとぶつかる!」


「お、おう……!」

 ユウマは光の導きに従って、そっと歩幅を合わせる。


 索敵があるだけで、緊張が少し緩む。

 しかし、その光が示すルートは——研究所中央棟の近くで急に複雑に絡み合い始めた。


「ここから先は、通常の巡回じゃない……固定兵が多すぎる」

 シュナが小声で言った。


 シルフィはハッキング解析を発動する。


「……解析開始。TYPE2の思考リンクに、干渉する」

 ピピッ……と電子音が静かに走る。


「シルフィどう?」

 ユウマがのぞき込む。


「待って……データ来た。最短ルートは——」

 画面に、絡まった巡回ルートと隙間が瞬時に描き出される。


「——三十秒後、南側の巡回が同時に折り返す瞬間がある。その“死角”を抜けるわよ」


「三十秒?! 無理無理無理!」

 シュナが叫びそうになるのを、フィーンが口を塞いだ。


 ユーモアを挟みつつも、五人の呼吸はどんどん浅くなる。

 最短だが最も危険なルート。

 失敗すれば即刻アウト。


 ユウマが一歩前に出る。

「行くぞ。ここからは、全員の動きが一つでもズレれば死ぬ」


 ユウマが深呼吸する。

「……よし、覚悟はできてる」


 フィーンが頷いた。

「発光、維持する……頼って」

 フィーンが手を握りしめる。


 こうして五人は、霧と光に包まれながら、

 ついに30階建の一番高いビル、熊鬼研究所入り口に到達した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ