TYPE2熊鬼
夜明け前の霧がまだ地面を這い、森の匂いはひんやりと冷たい。
研究所へ続く最後の尾根を越えた瞬間、五人はそろって息を呑んだ。
「……でかい? こんなに巨大な研究所なのか」
ユウマが素で声を上げかけ、シュナに素早く口を押さえられる。
眼下に広がるのは、森の奥に突然生まれ落ちた摩天楼。30階建や20階建のビルが立ち並ぶ。
規則正しく並ぶ兵舎、等間隔に配置された街路灯、鋭く空を刺す監視塔。
どれも緻密で過剰なまでに整えられている。しかし異様なのは構造物ではない。
——問題は兵士たちだ。
二足歩行の“人間”。
ただし頭頂には、ふわりと揺れる丸い熊耳。
皮膚は厚くなめらかに発達し、筋肉は均一に鍛えられ、顔立ちは驚くほど整っている。
「……え、待って。あの人、イケメンなのに耳が熊なんだけど。どういうこと?」
フィーンが目をぱちぱちさせる。
「全員イケメンと美女だよ……?」
ユウマが呟くと、
「ちょっと静かに!」とシュナが肘で小突いた。
街路を歩く擬人化熊鬼たちは、まるで研ぎ澄まされたエリート兵士の群れだった。
歩幅はぴたりと揃い、視線の動きは最小限。
五、六人が一組となったユニットが街を巡回し、時折、まるで機械の動きをコピーしたかのように同時に振り返り、武器の状態を確認する。
「……これ、ただの熊じゃなくて、練度の高い兵士の動きだよね」
シルフィの声は細く震えていた。
ユーノスは頷く。
「TYPE2の熊鬼だ。あれはもう動物じゃない。完全な兵士として設計されている。思考し、言語を操り、命令を忠実に遂行する。筋力や基礎体力は平均して人間の三倍はある。」
「え? その嘘、本当?! じゃあバーンナウトシティで暴れてた四つ足の野獣みたいなやつらは?」
ユウマが問う。
「プロトタイプ。TYPE1だ。試作品……失敗作とも言える。」
ユーノスの語り口は淡々としているが、その横顔には苦い影が落ちていた。
「……ここにいるのは、SSクラスの戦闘力を持つ精鋭だ」
フィーンが小声で「耳ついてるけどね」と呟けば、
シルフィが「それ言わないで、耳はたぶんアイデンティティだから……」と返す。
シュナは真剣そのものの顔で呟く。
「聴覚が優れているんじゃない? だから静かに……」
「静かにしろ。」
ユーノスが低く言った瞬間、五人は同時に身体を固くする。
巡回していた擬人熊鬼たちが、ぴたりと動きを止めた。
……何かを察知したように、同じ角度で一斉に顔を上げる。
「や、やばい……!」
シルフィの肩が小さく跳ねる。
だが幸い、彼らの視線は霧の奥の別方向へ向けられていた。
一拍置いて、隊列はふたたび同期した動きで巡回を開始する。
五人は同時に息を吐いた。
「心臓止まるかと思った……」
ユウマが胸を押さえると、
フィーンが「僕もう三回くらい止まってる」と真顔で言い、
シュナが「勝手に死ぬな!」と小声で叱った。
張り詰めた空気は極限。
それでも、この軽口の応酬が五人の精神をなんとか保たせていた。
ユーノスだけは視線を巡らせたまま、低く告げる。
「……覚悟しろ。ここからが本番だ」
その言葉に、五人の背筋は再び強張った。




