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黒い熊鬼

 銃声が一斉に轟いた。

 東の廃ビルから、敵のライトマシンガンの掃射。

 霧が散り、銃火の閃光が赤い筋を描く。


「囲まれたか……!」

 ユウマは壁際に身を伏せ、弾倉を確認した。残弾、十二発。


「三方向から来てる!」

 フィーンの声がかすかに震える。

 彼女のライフル《マグナ=ヘリクス》は過熱で冷却中。あと十秒、再稼働できない。


「十秒もたせろってか……無茶言うな!」

「でも、できるだろ?」


 そう言うと、フィーンは笑った。

 その笑みがユウマの心を奮い立たせた。


「……くそ、やるしかねえ!」


 ユウマは遮蔽物から飛び出し、タタタタッとM4を連射する。

 弾丸が敵の一人をかすめた。

 だが、即座にカウンターのスナイパー弾が壁を砕く。


「頭を下げろ!」

 フィーンが叫び、影のように跳ぶ。

 彼女の身体がユウマの前に滑り込み、翼のように展開したマグナ=ヘリクスの盾が弾丸を受け止めた。盾までついているのか。


 ガガガガッ!

 火花が散る。

 彼女の角が淡く紫に光り、血のようなデータ粒子が頬を伝った。


「フィーン、ダメージが――!」

「平気だ。……でも、リンクしてるせいで、あんたの心拍まで跳ねてる」


 HUDの心拍数が同調していた。

 彼女が傷を負うたび、ユウマの胸も痛む。


「リンクが……共有されてるのか!」

「そう。これが共鳴。痛みも、生も、ぜんぶ半分こ」


 その瞬間、頭上のビルから手榴弾が落ちた。

 ユウマは咄嗟に叫ぶ。

「伏せろッ!」


 爆風が二人を吹き飛ばした。

 視界がホワイトアウトし、音が遠ざかる。

 フィーンの声だけが、かすかに響いた。


「ユウマ……離れるな」

 フィーンの手が、ユウマの腕を掴む。

 その指先が震えているのがわかった。


「離すかよ。まだ戦いは終わってねえ!」


 爆煙の中、ユウマは立ち上がる。

 片手にM4、もう片方でフィーンの腕を引く。

 霧と煙の境界で、赤い照準レーザーが二人を狙う。


「敵スナイパー、十二時!」

「撃てない……冷却がまだ……!」


「なら俺がやる!」

 ユウマは残弾をすべて撃ち切った。

 最後の一発が、まぐれのように敵の眉間を貫いた。


 HUDに「キル+100」が点滅。


 そして――静寂。

 煙が晴れ、朝日が差す。


「……助かった、のか?」

「ふふ……ほらね。できるじゃないか」


 フィーンが倒れ込むようにユウマの胸に寄りかかった。


「まだ終わってない。……けど、ユウマ、ありがと」

 その声は、ほんの少しだけ、人間のように震えていた。


 その時、霧の奥で“それ”が動いた。

 黒い。大きい。

 人型のようでいて、腕の長さが異様に伸びている。


 ――ズシン。

 一歩ごとに地面が沈む。


「な、なんだ……あれ」

 ユウマが息を呑む。

 HUDに反応なし。敵マーカーも表示されない。

 まるでシステムに存在を認識されていない“バグ”のようだった。


 熊、いや鬼!?熊鬼!


 黒い熊鬼は武器を持たず、ただ、匂いを嗅ぐように鼻を動かしていた。

 その顔には、目がなかった。代わりに、裂けた口だけが横に広がっている。


「ぐあっ!」

 ユウマの視界が一瞬で赤に染まる。

 熊鬼の顎が閃き、彼の左腕を噛み千切った。

 肉の代わりに、データの粒子が飛び散る。


「ユウマ!」

 フィーンの悲鳴が響く。

 鬼はそのまま、ユウマの胴を包み込むようにかぶりついた。

 血ではなく、ノイズの光が霧に散った。


 ――画面がブラックアウト。



ミッションロビー


 光が戻る。

 視界の中には、いつものロビーがあった。

 ユウマとフィーンが立っている。

 順位:18位。


「……なんだったんだ、あれは」

 ユウマの声はかすれていた。

 腕は戻っていたが、感覚が鈍い。痛みだけが残っている。


「ユウマがやられたから、あたしもすぐにミッションリタイアしたよ。タグも出なかった」

「タグがでない?バグってことか?」


 2人チームのミッションでは、1人がやられてももう1人がタグを回収し、リスポーンコールをすれば再度リスポーンできる。

 フィーンは顔をしかめた。

「でも……あれはただのバグじゃない。間違いなく“食ってた”」


「食ってた?」

「うん。人間の肉を、味わってた。……愉しんでた。フィールドではデータしかないのに。それに食べながら身体が大きくなってた」


 ユウマは黙り込む。

 AIの世界に“味覚”など存在しないはずだ。

 それでも、あの咀嚼音――ぞっとするほど“生々しかった”。


「……あいつ、まさかプレイヤーじゃないのか?」

「違う。あれは――食人の熊鬼だよ。でもバトルロワイヤルにどうして、あいつが」


 食人の熊鬼?!そんなキャラクターはCODにはいなかったはずだ。

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