表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/69

ユーノスの勝算

 船長室の奥に設けられた作戦会議テーブル。

 天井からぶら下がるライトは古く、チリと揺れている。

 金属の匂いと、船を伝う低い振動だけが空気を満たしていた。


 ユウマ、フィーン、シュナ、シルフィが席につく。

 ユーノスはモニターを背にして立ち、静かに口を開いた。


「まず……君たちに伝えなければならないことがある。

 ガナン&サナ・ソニクル。つまり、シルフィ・ソニクル、君の両親の話だ。」


 名前を呼ばれた瞬間、

 シルフィの肩がびくり、と震えた。


 その震えを、ユウマははっきりと見た。


 ユーノスは懐から古いホログラム端末を取り出し、テーブルに置いた。

 ノイズ混じりの光がふわりと浮かび上がる。


 そこに映ったのは、白衣を着た男女──

 柔らかく笑う男と、目の優しい女性。


「……パパと……ママ……その嘘、本当なの?」


 シルフィの声が懐かしさに染まった。


「ガナン博士とサナ博士──

 君の両親は、《地上の星》が本来掲げていた“AIから人類の自由を守る”という理想を、

 真正面から信じていた研究者だった。」


「…………」


 シルフィは息を飲んだまま、映像に手を伸ばすように見つめている。


「彼らは気づいたんだ。

 ゴッドイーターが、AI中枢の“根幹コード”に潜り込み、

 いつでも AI管理社会そのものを書き換えられる権限 を得ていたことに」


 スキルじゃなくて、権限を使った不正行為だったのか。


 フィーンとシュナが顔を見合わせる。


「じゃあ……それに気づいたから?」


 ユーノスはゆっくりとうなずいた。


「そうだ。

 シルフィの両親は危険を承知で、対抗手段を作った。

 AIそのものを、ゴッドイーターの改竄に耐えられる“新しい構造”へ進化させる……

 ストアドプロシージャだ。」


「……進化、させる……?」


「AIの中枢をアップデートして、

 ゴッドイーターの干渉をすべて“エラー”として弾く。

 それが唯一の対抗策だった。」


「じゃあ……じゃあ……!」


 シルフィが椅子から立ち上がり、胸を押さえた。


「パパとママは……そのせいで……?」


 喉の奥で声が壊れるように震える。


 ユーノスは目を閉じ、短く息を吸って答えた。


「……殺された。

 ゴッドイーターの親衛隊が放った赤鬼熊に」


 沈黙が落ちた。


 船の振動だけが微かに空気を震わせる。


 次の瞬間、シルフィの両肩ががくりと落ち──

 指が震え、涙が静かにこぼれ落ちた。


「そんな……

 研究しかできなくて……

 私に優しくて……ひどい……!」


 涙を拭こうともせず、ただ震える。


 ユウマはそっと彼女の隣に立ち、

 肩へ手を置いた。


「シルフィ……」


「ユウマ……っ、わたし……っ

 ずっと、どこかで信じてたの……

 パパとママは悪いことをしたわけじゃないって……!」


 声が割れ、嗚咽が漏れる。


「やっぱり……違った……世界を守ろうとしていた。

 そして、狙われて……殺されたなんて……!」


 フィーンが唇を噛みしめ、目を伏せる。

 シュナも涙をこぼしながら、シルフィの背中をさすった。


「……ガナン博士とサナ博士は、

 そのストアドプロシージャを旧研究、現《熊鬼研究所》の奥に封印した。」


 シルフィは涙を拭い、顔を上げた。


「……封印……?」


「私たちにも解けない。

 皮肉にも現在、唯一解けるのは──」


 ユーノスははっきりと言った。


「君だけだ。

 シルフィ・ソニクル」


 シルフィの瞳が揺れる。


「ガナン博士とサナ博士は、君を信じていた。

 いつか君が“鍵になる”日が来ると理解していた。

 だから……研究所には君の元々のスキル《追跡》に反応する装置が残されている」


「わたし……が……?」


「君だけが、封印を開けることができる。」


 シルフィはゆっくり立ち上がった。

 涙で濡れた頬のまま、拳を握りしめる。


 フィーンが冷静に問う。

「ストアドプロシージャとかいうのを手に入れてどうする」

「マンハッタンシティのAIサーバが置かれているタワーに侵入して、サーバに直接インストールする。リモートだと気づかれてしまうから」


 シュナが呟く。

「危険すぎる」


 ユウマが覚悟を決めたように口を開く。


「……行くしかない」


 シルフィと続く。


「絶対に、行くわ。

 パパとママが残したものを……

 わたしが取り返す。

 そして、赤熊鬼とゴッドイーターを倒す」


 ユウマも頷き、フィーンとシュナも拳を握った。


「俺たちも一緒だ。」


「あたしも行くわ。当然よ。あんた一人で背負わせない。」


「シルフィ……泣いてもいい。でも……下は向かないで。」


 シルフィの瞳に、強い光が戻る。


「……ありがとう。

 みんながいるなら……怖くない。」


 ユーノスは深く頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ