船上の戦場
夕闇が海を覆い、
アストラ号は紫と群青の境をゆっくり滑っていった。
風は止まり、波音だけが低く響く。
――その静寂を切り裂いたのは、甲板下の金属音だった。
「ゴウン……ッ!」
ユウマがM4を構えた瞬間、
船べりに影が三つ、ぬるりと這い上がった。
地上の星の黒い戦闘スーツ。
――《地上の星》
フィーンが舌打ちをする。
「……やっぱり来たわね」
三人は息を合わせ、銃口をこちらへ向ける。
「来る!」
ユウマが叫ぶと同時に、銃火が爆ぜた。
地上の星・戦闘員Aがフルオートで撃ち込み、
甲板の木板が破片を撒き散らす。
「伏せて!」
ユウマはシルフィの肩を抱き寄せ、身を低くした。
ユウマは船縁から半身を出し、
M4で正確に三点バースト。
パパパッ――!
敵Aのアーマーが火花を散らす。
だが、海上戦仕様の硬度は高く、削りきれない。
敵Bがサイドから回り込む。
「(右舷、二)」
「(分かってる!)」
シルフィが応え、跳躍。
白い髪が夕風に舞う。
着地と同時、ショットガンが吠えた。
ドガァン!
散弾が敵Bの胸甲を打ち砕き、
敵は手すりに叩きつけられて海へ落ちる。
「よし!」
だが、敵Cがワイヤーを使い船尾へ回り込み、
高所からユウマを狙い撃つ。
「甘い!」
フィーンが二挺サブマシンガン、マグナ=ヘリクスを両手でそれぞれ引き抜く。
轟音が、海風を吹き飛ばした。
ガガガガガガガ――!!
縦に、横に、海面に跳ねるように生まれる弾痕。
弾道がまるで“檻”のように敵Cを包み、動きを完全に殺す。
敵Cが身を隠すため跳躍した瞬間――
フィーンが全体重で二挺を斜め下に振り下ろした。
「落ちなさい!」
弾の雨に叩かれ、敵Cは悲鳴もなく海へ叩き落とされた。
その時だ。
船底からまたしても重い衝撃。
「下に……まだいる!」
シュナが叫び、船腹の影へ飛び込む。
彼女は船縁の影で膝をつき、
長い銃身を構える。
パシュッ
無音に近い乾いた音。
マークスマンライフルの弾が、船底から這い上がった新手の側頭部にクリーンヒット。
だが――その直後。
「その嘘、本当?ユウマ、後ろ!」
シルフィの悲鳴。
振り返るより早く、
敵の銃身がユウマへ向き――引き金が引かれた。
バンッ!
衝撃が左腕を裂いた。
「っ……!」
ユウマがよろめき、M4を落としそうになる。
「ユウマ!!」
シルフィが駆け寄ろうとするが、
別の敵が横から射線を通してくる。
ユウマは歯を食いしばり、倒れながらも右手だけでM4を引き寄せる。
視界が揺れる。
左腕が焼けるように痛い。
それでも――
(ここで倒れるわけには……いかない)
血を滴らせながら、ユウマは片腕でM4を構えた。
敵が驚愕する。
「片腕で撃てるかよ!」
「撃てるさ……“近接加速”はスキルじゃない」
世界がわずかに遅くなった。
ユウマは片腕の跳ねを抑えるように体を傾け――
右手だけで引き金を引いた。
ダダダダッ!
弾丸が一直線に走り、
敵のヘルメットを粉砕する。
最後の一人はシュナが仕留めた。
パシュッ。
夕闇の海に、静かに身体が崩れ落ちた。
戦闘員三人を討ち取り、
甲板には潮と血の混じった匂いが漂った。
シルフィが真っ青な顔で駆け寄る。
「ユウマ、腕……腕が……!」
「大丈夫だ……綺麗に貫通してる」
ユウマは笑おうとしたが、痛みで顔が歪む。
フィーンがすぐに応急処置キットを取り出し、
「じっとして、ユウマ。これは命令よ」
と強く言った。
シュナは周囲を警戒しながら、
ほとんど震える声で呟く。
「地上の星……まだ本気じゃない……」
夕闇の海風が、四人の頬を冷たく撫でた。
戦闘は終わった。
だが、アストラ号に迫る“影”は、これで終わりなはずがなかった。
敵を退け、甲板に静寂が戻った――その瞬間だった。
ドォオオォォンッ!!
甲板の下で何かが破裂し、
アストラ号が横殴りのように傾いた。
「な――ッ!?」
ユウマが叫ぶより早く、
床板が波のように揺れ、全員が踏ん張る。
「爆発……! 船底よ!」
フィーンが咄嗟に船縁へ身を乗り出した。
直後、第二爆発が船腹を裂く。
ゴゴゴゴゴ……ッ!
海水が怒涛のように流れ込み、
アストラ号は嘘みたいな速さで沈み始めた。
「くそっ……奴ら、帰り際に爆弾を仕掛けていったんだ!」
ユウマは左腕を押さえながら走る。
血が滴るが、立ち止まる余裕などない。
「非常ボートは!?」
「船尾に一つだけ!」
「行くぞ!!」
◆沈む船、迫る海
傾いたデッキを跳ねるように走り、
ユウマはロックを外し、ゴムボートを海へ落とした。
「先に乗れ!早く!」
フィーンがシルフィの手を引き、
シュナがユウマの肩を支える。
沈む音が背後で響く。
甲板が海に飲み込まれ、手すりが泡の中へ消えた。
四人が必死に飛び移り――
ゴムボートはギリギリで海上に滑り出た。
直後、アストラ号は嘘みたいに沈んだ。
白銀の船体は波間に引きずり込まれ、
最後に船名プレートだけが光り、
泡の下へ――消えた。
◆海上の漂流 ― それぞれの反応
ゴムボートは波の上で不安定に揺れる。
フィーンは濡れたシャツをバッと払い、
むしろ堂々と胸元を広げた。
「ふぅ……冷たいけど、生きてるだけ良しね。」
その仕草の自然さが、逆に妖艶だった。
対照的に、シュナはオロオロしている。
「フィーン……おっぱい見えてるわよ!」
「だからなに?シルフィだってスケスケじゃない」
「み、見ないでよユウマ……!」
シュナとシルフィは胸元や脚に必死でタオルを押し当て、
顔を真っ赤にして縮こまった。
「な、なんでフィーンだけ堂々としてるの……?」
「触りたかったら触ってもいいのよ」
フィーンは涼しい顔で髪を絞る。
夕闇の風が四人の身体を冷やし、
波の反射が揺らめいた。
ユウマは左腕の痛みに顔を歪めながらも、
沈んだ船が消えた海を見つめた。
(……どうするんだ、これから)
地図も通信も失い、
アストラ号は海の底。海路は、無謀だったんだ。
残ったのは、
四人の身体、武器の一部、そして――
方角も定かでない、茫漠たる海。
ユウマは気づけば、深く頭を抱えていた。
「……俺たち……どこへ向かえばいいんだ……?」
沈黙。
波音だけが、遠く寂しく響いた。
シュナが震えた声で呟く。
「ユウマ……泣きそう……?」
「いや……泣いてないけど……」
シルフィがそっと寄り添う。
「大丈夫。ユウマがいる限り、どこでも行ける」
フィーンが海図の代わりに星を見上げて言った。
「まずは夜を越えましょ。
近くに島があるといいんだけど」
ユウマは唇を噛んだ。
(……逃げ場なんて、最初から無いのか)
波が静かにボートを押し、
四人は夕闇の海へ漂い始めた。
大海原にポツンと遭難して、救助も期待できない。絶体絶命だ。




