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トレーニング再開

 潮風が吹き抜けた。

 バーンナウトシティの喧騒を離れ、ユウマとシルフィは無人の海岸に立っていた。

 白い波が砕け、濡れた砂が足元に沈む。

 海の青は深く、地平の向こうに黒い島影がぼんやりと浮かんでいた。


「今日もいくわよ」

 シルフィがショットガンを構える。

 ユウマはM4のチャージを確かめ、軽く頷いた。


 ――波の間から、黄色い光が群れで現れる。

 黄色のモンクキャンサー。蟹型のモンスターだ。硬い甲殻と、鋭い脚。

 十、二十、いや三十はいる。

 砂を跳ね上げながら、群れで突進してくる。


「右から五、左から七!」

「了解!」


 ユウマが低く滑り込み、銃口を砂に押しつけるようにして三連射。

 銃火が閃き、甲殻の一部が爆ぜる。

 シルフィは高く跳躍。空中で体をひねり、降下と同時にショットガンを連射。

 炸裂弾がモンクキャンサーの群れを吹き飛ばした。

 その一撃とユウマの弾が、ほぼ同時に着弾する。


 着地した瞬間、シルフィは息をつく。

 「……今の連携は、完璧ね」

 「隷属進化の同期が安定してる。呼吸まで一緒だ」

 「でも、スキルが無効になったら?」

 シルフィの声が揺れた。

「大丈夫だよ」

 「その嘘、本当?Sランク戦は全部、スキル制限付き。私たち、どうなるのか……怖い」


 ユウマは再び銃を構えた。

 「怖くても、撃つんだよ。体で確かめろ。俺たちの連携の本領はスキルじゃない。――信頼だよ」


 次の波が来た。

 砂浜がうねり、無数の脚が蠢く。

 シルフィが叫ぶ。

 「ユウマ、後方から来る!」

 ユウマは振り向かず、足で砂を蹴る。

 身体が勝手に反応する。シルフィの視線が、脳の奥に響いていた。

 ――まるで一つの生き物のように。


 ユウマが左へスライド。シルフィが右から回り込む。

 モンクキャンサーの群れが中央で衝突する瞬間、二人の射撃が交錯した。

 火花の雨の中で、殻が砕け、砂が舞い、硫黄のような匂いが立ち上る。


 全ての動きが呼吸のようだった。

 引き金を引く瞬間も、息を吸うタイミングも、完璧に重なる。

 やがて最後の一匹が爆ぜ、海岸は静寂を取り戻す。

 波の音だけが残った。


 シルフィはヘルメットを外した。

 汗に濡れた髪が頬に張りつく。

 「……ユウマといると、安心する」

 「どうしたの?」

 「心と身体が繋がってる。きっとスキルが切れても、同じ動きができる気がする」

 ユウマは微かに笑う。

 「俺もそう思う」


 そのとき、シルフィの視線が遠くを向いた。

 「ユウマ……あれ、見える?」

 水平線の向こう、靄の中に黒い島影が浮かんでいた。

 波の線を切り裂くように、異様な輪郭。

 ――生命の匂いがしない。けれど、確かに“呼吸”しているように見えた。


「島……?今日は、特に空気が澄んでるからかな。今まで気づかなかった」

 シルフィがユウマの腕に絡みつくようにしがみついた。

「ねぇ、ユウマ。嫌な予感がする」

「大丈夫。ゲイルに聞いてみよう。何かのヒントがあるかもしれない」


 夜。バーンナウトシティの酒場セックスピストルズ。

 ゲイルがスクリーン越しに煙草をくわえたまま言った。


 「あの島を見たのか。……お前ら、知らなかったのか?」

 「なにを?」

 「バトルロワイヤルのフィールドだよ。AIがロビーからデータ実体をフィールドに転送するよな。でもフィールド自体も実物をデータ実体をデータ転送してる。

 バトルロワイヤルのフィールドは、現実の島をコピーしてるんだ」


 シルフィが凍りつく。

 「つまり、AIのフィールドは――現実世界の中にあるってこと?」

 「その通りだ。お前らが見たのは、“バトルロワイヤル島”の本体だ」


 ユウマは拳を握った。

 「ガンゲノムシティで俺が見た黒い熊鬼……もしかしたら仮想じゃなかったのか」

 「多分、島に生息しているんだ。そこにデータ実体の身体が食われた」


「島に野生の熊鬼がいるなんてありえないぞ。データ実体は、島では現実ものを壊したりもできる。逆に、島の動物は、データ実体に触ることもできる。だからAIは島を防壁で囲って監視している」


 ユウマは黒い熊鬼に食われた感触を思い出して、冷や汗を流す。

「もし島に熊鬼がいたら、人や鬼を食べることもできる?」

「噛み付くことはできるだろうな。流石に腹はふくれないだろうが」

 ユウマの脳裏に、過去の記憶が閃く。

 闇の中、黒い毛並み、血の匂い。

 ――あの熊鬼の咆哮。あれは、AIが作った幻なんかじゃない。


「もし……フィーンがその島に囚われているなら?」

 シルフィの声が小さく震えた。

 ユウマは真っ直ぐ彼女を見つめた。

 「AIの防壁の中までは、感じ取れない。だけど、島に行けば――感じられるかもしれない」

 「フィーンを、助けに?」

 「当たり前だろ。俺たちはチームだ。スキルじゃなくて“気持ち”で繋がってる。会いたいんだ。フィーンに」


 風が吹いた。通信のノイズが、砂浜の音に重なる。

 画面の向こうでゲイルが溜息をつく。

 「お前ら、本当に狂ってる。でも……そういう奴らが世界を変えるんだろうな」


 ユウマは笑った。

 「狂っててもいい。俺たちは行く」

 その隣で、シルフィが頷く。

「――ユウマを守る」


 シルフィは、ユウマにキスを求めた。

「お願い、もっとして」

 波の音を聞きながら、二人はとても長く深くキスを交えた。

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