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坂場 セックスピストルズ


 夜のバーンナウトシティは、スパークした回路のように瞬いていた。

 ネオンが断続的に光を吐き、街路は汗とオイルの臭いでむせ返る。

 そんな夜に届いた短いメッセージが一通。


 酒をおごるから、こいよ。

 ――ゲイル


 胡散臭い誘いだが、無視できない名前だった。


「ゲイルから招待されたよ」

「その嘘、本当?あんな嫌なやつに?」


 ネオンの明滅を抜け、ユウマとシルフィは路地裏の奥で足を止めた。

 看板が、古びた銃弾の痕で飾られている――《セックス・ピストルズ》。

 ドアを押すと、錆びたベルが乾いた音を立てた。


 ゴロツキたちの睨むような目線がユウマとシルフィを突き刺す。

 カウンターの奥で、ゲイルが待っていた。

 昼間の闘技場で見た時よりも、ずっと静かな目をしている。

 彼はグラスを拭きながら、皮肉めいた笑みを浮かべた。


「お前ら、ただの新人じゃなかったんだな」


「試合を見てたのか?」

 ユウマが問いかけると、ゲイルは煙草をくわえたまま肩をすくめる。


「自慢じゃねぇが、俺は情報通だ。一度会ったやつの情報は全部追える。おれのブックマーク……スキルでな」


 シルフィは返事をせず、店内を一瞥した。

 空調は止まっている。空気が重く、動かない。

 奥のテーブルには数人の影。全員、腰に武器。

 ここは、ただの酒場じゃない――情報の墓場だ。

「情報は、ときとして銃よりも武器になるのさ」

 ゲイルが賢者のように言葉を並べる。初対面の時よりずっと知的だ。


「聞きたいことがある」

 ユウマの声に、ゲイルが顎で奥を指す。

「だろうな。裏に来い。ここじゃ耳が多すぎる」


 二人が立ち上がると、廊下の先にひっそりと灯が揺れていた。

 狭い個室。壁に無数のナイフ、ノイズだらけのモニター。

 誰かがAIの監視を、意図的に潰している。

「お前たちがわざわざこの街までやってきた理由に興味があってな」

 ゲイルが穏やかな目でユウマを見つめる。そこには興味だけでなく、少しのリスペクトが含まれていた。

「フィーンを知ってるか」

 ユウマが切り出すと、ゲイルの手が止まった。

 「……命知らずだな。よりによってその名を出すか」

 「仲間なんだ」

 部屋の温度が下がる。

 シルフィが静かに言葉を継いだ。

「フィーンはS Sランクのソロプレイヤー。オーガシティ出身。

 誰にも従わず、どんなチームも寄せつけなかった。最強だったよ。

 ユウマはあいつの仲間か。お前たちが強いのも納得だよ」


 ゲイルが低く唸る。

 「だが、居場所を知る者はいねぇ。いい女だった。だが、誰も家を見たことがねぇ。フィーンに惚れて尾けたやつもいたが、全員が――途中で見失ってる」


 ユウマの目が細くなる。

 「見失う?」

 「そうだ。まるで、迷路みたいな路地でまかれちまうのさ」


 ゲイルはグラスを置き、深く息を吐いた。そして、柄に似合わずヒソヒソ声に変える。

 「それと……フィーンは“地上の星”を追ってたらしい」


 その名が出た瞬間、空気が震えた。


「地上の星?」

 ユウマが眉を寄せる。

 ゲイルはゆっくりと腰を下ろした。

「声を小さくしろよ。いいか、あいつらに関わるな。あいつらは、この街で唯一――AIすら手を出せない存在だ」


 シルフィがハッキング解析を使って妨害電波よジャマーを起動する。

 壁を這う青白い波紋が、録音と通信を遮断した。

 ゲイルが煙草に火をつける。オレンジの火が、目の奥を照らす。


 「Sランク限定のバトルロワイヤル。三人一組のチームが、どんな試合でも勝ち残る。勝率、百パーセント。敗北記録はゼロ。チーム名は――地上の星」


 「AIの監視記録は?」

 「存在しねぇ」ゲイルの声が低い。

 「ブックマークのスキルで公式アーカイブを開いても、“no mame”。AIに問い合わせても“未登録”。やつらのなかにAIのデータを改ざんできるやつがいるのさ」


 「そんなのあり?」とユウマ。

 「そんなのチートじゃない」とシルフィ。

 「AIの記憶そのものを書き換える。そんなことができるのは――AI中枢に干渉できるスキルをもつやつだけ」


 ゲイルが舌打ちした。

 「関われば最後だ。奴らに狙われたら、存在が消える。データも履歴も、AIの“記憶”からお前の名前が消えた瞬間、この街では死んだも同然だ」


 沈黙。

 ユウマはテーブルを軽く指で叩く。

 一定のリズム――思考が走っている証拠。


「……地上の星は、どこにいる?」

 ゲイルは答えず、横の壁を叩いた。

 仕込まれたスクリーンが開き、断片的な映像が映る。

 戦場。黒い戦闘服の三人。顔はマスクで隠されている。

 その動きは――人間の限界を超えていた。


 「見ろ。反応速度、射撃精度、回避軌道……どれもAI補正の上限を超えてる」

 ゲイルの声が低く震える。

 「三人とも、AIを操作して特別な効果を得ている。スキル無効のバトルロワイヤルの中でな」


 シルフィの表情が凍る。

 「ずるすぎる」

 「だが、奴らは実際やってる。AIを支配し、逆にAIを上書きする側に回った。連中の目的は、支配の転覆――“AIを駆逐し、世界を生身の鬼の手に取り戻す”ことらしい」


 その瞬間、照明が明滅した。

 ユウマのHUDが赤く点滅する。

 ――《外部アクセスを検知》


「……おしゃべりはここまでだ」

 シルフィが即座に端末を閉じ、信号を遮断。

 ゲイルは煙草を灰皿に押しつけ、低く笑った。


 「ほらな。名前を出しただけで監視が来る。やっぱり化け物だ、あいつらは」


 光が一瞬、すべて消えた。

 闇の中で、ユウマの声だけが静かに響く。

 「……それでも行く。フィーンが何を見たのか、確かめたい」


 再び明かりが戻ったとき、ゲイルは笑っていた。

 「お前、正気か?」

 「正気だよ。俺はフィーンの足跡を辿る。どうしてもフィーンに会いたいんだ」

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