ミッション:92
警告音。ゲートの光がほどけ、視界が一気に俯瞰から一人称へ落ちる。
砂混じりのダウンタウン、風切り音。HUD上に敵影候補が点滅――ドロップ開始。
バーンナウトシティでの21戦目。もう慣れたものだ。
「武器もあることだし、ねぇ、ユウマがほしいの」
「敵に見つかる」
「その嘘、本当?ハッキング解析によると近くに敵はいないわ」
「……キスだけだよ」
「もう、いけず」
軽く唇を触れ合わせたつもりが、シルフィは蛇のように身体を絡めてきた。
次の瞬間、ねっとりと熱いキス。舌が絡み、息が混ざる。
ユウマの舌をれろれろ、ちゅっちゅっとシルフィが吸っては舐める。
「あぁん、いい……もっと、もっとちょうだい」
んんんっ!れろれろ、ちゅちゅん
「AIに排除されたら、フィーンを探せなくなるぞ」
「分かってる。でも――リンクが上がったみたい」
ユウマの囁きと同時に、胸骨の奥で鼓動が二重になる。
隷属進化リンク――呼吸、視線、筋収縮が同期し、反応速度が跳ね上がる。
シルフィがハッキング解析した情報がHUDに表示される。
敵の場所が手に取るように分かる。
「(左の非常階段、三階)」「(了解)」
もはや声はいらない。
思考の端同士が触れ、戦術が――跳ぶ。
ユウマ、着地と同時にダッシュ。
アスファルトを蹴る音が一拍遅れて返る。
シルフィは壁面の手すりを踏み台に、非常階段を三段飛ばし。
踊り場、反射で光。敵一。
ユウマが近接加速で一歩だけ世界を縮め、M4の銃口で敵のストックを弾く。
肘、肩、トリガー、三拍子で3点バースト。
壁に弾痕の花が咲き、キルログが流れた。
上階で金属音。扉が開く。
「(二)」「(任せて)」
シルフィが滑り込み、ショットガンが吠える。
シルフィのショットガンは、ダイヤモンド武器のベネリM1014――M3の進化モデル。フルオートで信頼性が高い。
散弾の雲がバイザーを粉砕。
続けてハッキング解析。建物内部のセンサーログを引き抜き、赤いワイヤーフレームが展開。
熱源、三つ。階段裏。
ユウマは腰を落とし、ダッシュ→ジャンプ。
階段の手すりを蹴って壁走り。俯角で三連射。
降りざまにサイドアームへ持ち替え、残る一人の足首を撃ち抜く。
転倒した敵の後頭部に、シルフィの銃口が触れる。
「アウト」――AI審判の声が遅れて届く。俺たちの方が速い。
マップ中央、高架の下に補給ポッド。
開けに出れば狙撃の餌だ。
「(煙、投げる)」「(高架梁、走る)」
スモークが広がる瞬間、ユウマは近接加速で速度を上げる。
空白の縁を走り抜け、梁に飛び乗ったシルフィがケーブルをワンハンドスイング。
流星のように軌道を描き、下に陣取る二人組の背後へ落ちた。
ショットガンがドンと低く一発。
続いてユウマのM4が刻む。
AI審判がまた遅れる――「ダブルキル」。遅延0.18秒。リンクの方が速い。
ユウマはスライディングでエアコンの影に滑り込み、反応の遅い狙撃手を一瞬で仕留める。
シルフィは別ルートから突入、護衛の胸甲を粉砕。
屋上制圧。「残り12」。
工場棟中腹、コンベアの上――三人チーム。盾・突撃・支援。定番の構成。
「(正面、捨てる。上を使う)」「(了解)」
ユウマは正面に飛び出し、敵の視線を奪う。
盾が突進。近接加速で一歩、横へ世界を滑らせ、盾のリムを掌で押し流す。
軸足を殺し、膝蹴り、M4で3点。
突撃が迫る。支柱を蹴って背後の梁へジャンプ。
シルフィが天窓からスライディング降下――ショットガン一閃。
至近距離で胸甲に花を咲かせる。
ユウマはスモークの縁で赤外輪郭を頼りに連射。
「残り6」。
外へ。円は最終縮小。
廃線の上、風が強い。遠くで銃声、砂が舞う。
「(残り二チーム。右土手に二、左積荷に二)」「(右、飛ぶ)」
ユウマが全力ダッシュ。
レールの継ぎ目をポン、ポンと踏み、土手の手前で大ジャンプ。
着地と同時に近接加速。視界が伸びる。
敵が構えるより早く、バレルを押し下げ、肩で突き、M4でパンパンパンッと 3点。
もう一人がナイフで詰める。
ユウマは半身でかわし、肘→ストックで顎をはね上げ、一発。クリア。
左――積荷の陰から連射。反動のクセが鋭い。
「(抑える)」「(回る)」
ユウマが短距離ダッシュで弾幕を張り、顔を上げさせない。
シルフィは貨車の屋根へ跳び、鉄骨を駆け、縁から空中スライディングで背後へ落ちる。
着地と同時にショットガン。
もう一人が振り向く。銃身をたたむように叩き落とし、腹部へ一射。沈黙。
「残り――二」。
無線が静かになり、風だけが乾いた線を引く。
最後のチームが見えない。
「(見せないんじゃない、消えてる。ログがない)」「(地形スキャン?)」「(やる)」
シルフィの指が空を裂くように踊り、ハッキング解析が深層へ潜る。
機械室、保守カメラ、古い監視網。死んだ目を一つずつ起動し、ばらばらの画角を縫い合わせる。
――見えた。積荷の下、錆びたピット。二つの熱源。
「(下)」「(行く)」
ユウマが梯子を半段飛ばしで降下。
ピットの空気は冷たく、古い。
最奥、金網の向こうで二人が狙っていた。
真正面は悪手。
ユウマは配線管を蹴り上がり、ジャンプで金網上に手をかけ、ぶら下がりから前転落下。
同時にシルフィが上からフラッシュ。
白光の中心でユウマは近接加速を重ね、M4の二点を一人の胸に、体の回転の終わりで二点をもう一人の肩へ。
肩を撃たれた男が膝をつく。その隙にシルフィが降り、ズダダンッとショットガンで仕上げる。
――静寂。
AI審判のアナウンスが、ようやく追いつく。
「winner:チーム“ユウマ&シルフィ”。」
「勝数:21、勝率:91%。昇格条件を満たしました。――Sランクへ」
HUDに昇格通知が浮かぶ。
シルフィが息を吐き、ユウマと視線を交わす。
リンクの鼓動は穏やかだが、まだ熱い。
「……行けるね」
「ああ。ここから、もっと厳しい戦いになる」
ロビーへのエレベーターで、ユウマは記録保管庫を呼び出した。
スクロールの隙間――一つだけ強い光。フィーン。
彼女はSランク限定のバトルロワイヤルへ行っていた。
「フィーンの足跡を……見つける」
ユウマは拳を握る。リンクの脈が、ひとつ強く打った。
「――次はそこだ。失踪のヒントは、きっとバトルロワイヤルにある」
シルフィが頷く。
扉が開き、ロビーの光が二人を包む。
AI審判の視線よりも速く、彼らはもう――次の戦場を見ていた。




