シュナのAモーニング
――キスまでにしておきなさい。
女神様の助言の本当の意味を、ユウマはようやく理解した気になった。
隷属の上昇は危険だ。
Lv4――以心伝心まではいい。
だがLv5、強依存に達すると、精神の境界が溶け始め、理性の輪郭が曖昧になる。
坂を転げ落ちるように歯止めが効かない。中毒症状と言っていい。
「コンマリを失った」のは、その一線を越えたからだった。
その喪失の衝撃は、思っていた以上に深かった。
日課のトレーニングを再開する気にもなれず、ユウマはただ、廃人のようにホームのベッドで時間をやり過ごしていた。
彼女の声の残響がまだ耳に残っていた。
――コンコン。
控えめなノックの音。
朝の光が薄くカーテンを透かしている。
「……誰だ?」
「シュナだ。ユウマ、いるんだろ?」
「え……シュナ?」
「やっぱりここにいたか。Aモーニングをテイクアウトしてきた。一緒に食べないか?」
ユウマは驚いてドアを開けた。
朝日がまぶしく差し込み、その光の中に、銀髪の鬼が立っていた。
シュナは微笑んだ。
そして次の瞬間、ためらうことなくユウマの胸に飛び込んできた。
「ユウマ……よかった。無事だったのね」
「シュナ……?」
彼女の声は、いつもの軽口ではなかった。
低く、真剣で、かすかに震えていた。
「もう、街を出たのかと思ってた。
連絡も取れないし、毎朝、店に来ないし……。
……ねえ、行かないでくれ。わたしと、また朝を迎えてほしい」
ユウマの胸の奥が熱くなった。
喪失の後に触れたその温もりが、何かをほどいていく。
「シュナ……どうして、そんなに俺を?」
彼女は顔を上げ、涙をたたえた瞳でユウイチを見つめた。
金色の光を帯びた赤い瞳が、迷いなく揺れている。
「あなたが真っ直ぐで、危なっかしくて……
でも、どこかで誰かを救おうとしてるその背中が、ずっと気になってた」
その言葉に、ユウマは何も言えなかった。
言葉の代わりに、シュナの肩をそっと抱きしめた。
HUDがちらついた。
【スキル発動可能条件:接触(唇)】
シュナ・インテレのAI管理を解除します。
朝の光の中で、彼女の髪が淡く輝いた。
その体温が柔らかくて、優しい。
「好きなんだ。ユウマ。わたしが嫌いか?」
「そんなわけない」
うるうると涙をたたえた上目遣いにユウマを見るシュナ。
ずるい。可愛すぎる。
「シュナ、ありがとう。嬉しいよ」
そうして、ユウマはシュナの胸を揉みしだいた。自然とお尻も鷲掴みにする。
――どうかしていた。
理性も、誇りも、すべて霞んでいた。
「あぁ!ユウマ、もっと!」
シュナが胸に飛び込んできた瞬間、ユウマの中の何かがぷつりと切れた。
「ユウマ……会いたかった」
その声が震えていた。
鬼の戦士の声ではなく、ひとりの女の声だった。
気づけば、互いに言葉を失っていた。
思考よりも先に、感情が動いた。
抑えつけていた欲望が、心の奥から溢れ出していく。
熱い抱擁を重ねた。世界が一瞬、白く弾けた。
それは炎のようでいて、雪解けのようでもあった。
長い冬のあとに初めて差し込む陽光のような、
痛いほどのあたたかさだった。
息が混ざり、言葉が遠のく。
シュナの指先が震え、彼女の赤い瞳が近づく。
その瞳には、迷いも、抗いもなかった。
――ただ、共に生きたいという願いだけ。
どちらからともなく、二人の影が重なった。
音も、匂いも、風さえも消えていく。
ただ、胸の奥で心臓の鼓動だけが響いていた。
それは戦場での撃ち合いにも似た、
命のやり取りのような瞬間だった。




