表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/69

シュナのAモーニング

 ――キスまでにしておきなさい。


 女神様の助言の本当の意味を、ユウマはようやく理解した気になった。


 隷属の上昇は危険だ。

 Lv4――以心伝心まではいい。

 だがLv5、強依存に達すると、精神の境界が溶け始め、理性の輪郭が曖昧になる。

 坂を転げ落ちるように歯止めが効かない。中毒症状と言っていい。


 「コンマリを失った」のは、その一線を越えたからだった。


 その喪失の衝撃は、思っていた以上に深かった。

 日課のトレーニングを再開する気にもなれず、ユウマはただ、廃人のようにホームのベッドで時間をやり過ごしていた。

 彼女の声の残響がまだ耳に残っていた。


 ――コンコン。


 控えめなノックの音。

 朝の光が薄くカーテンを透かしている。


「……誰だ?」


「シュナだ。ユウマ、いるんだろ?」


「え……シュナ?」


「やっぱりここにいたか。Aモーニングをテイクアウトしてきた。一緒に食べないか?」


 ユウマは驚いてドアを開けた。

 朝日がまぶしく差し込み、その光の中に、銀髪の鬼が立っていた。


 シュナは微笑んだ。

 そして次の瞬間、ためらうことなくユウマの胸に飛び込んできた。


「ユウマ……よかった。無事だったのね」


「シュナ……?」


 彼女の声は、いつもの軽口ではなかった。

 低く、真剣で、かすかに震えていた。


「もう、街を出たのかと思ってた。

 連絡も取れないし、毎朝、店に来ないし……。

 ……ねえ、行かないでくれ。わたしと、また朝を迎えてほしい」


 ユウマの胸の奥が熱くなった。

 喪失の後に触れたその温もりが、何かをほどいていく。


「シュナ……どうして、そんなに俺を?」


 彼女は顔を上げ、涙をたたえた瞳でユウイチを見つめた。

 金色の光を帯びた赤い瞳が、迷いなく揺れている。


「あなたが真っ直ぐで、危なっかしくて……

 でも、どこかで誰かを救おうとしてるその背中が、ずっと気になってた」


 その言葉に、ユウマは何も言えなかった。

 言葉の代わりに、シュナの肩をそっと抱きしめた。


 HUDがちらついた。


 【スキル発動可能条件:接触(唇)】

 シュナ・インテレのAI管理を解除します。


 朝の光の中で、彼女の髪が淡く輝いた。

 その体温が柔らかくて、優しい。


「好きなんだ。ユウマ。わたしが嫌いか?」

「そんなわけない」


 うるうると涙をたたえた上目遣いにユウマを見るシュナ。

 ずるい。可愛すぎる。


「シュナ、ありがとう。嬉しいよ」


 そうして、ユウマはシュナの胸を揉みしだいた。自然とお尻も鷲掴みにする。

 ――どうかしていた。

 理性も、誇りも、すべて霞んでいた。


「あぁ!ユウマ、もっと!」


 シュナが胸に飛び込んできた瞬間、ユウマの中の何かがぷつりと切れた。


 「ユウマ……会いたかった」

 その声が震えていた。

 鬼の戦士の声ではなく、ひとりの女の声だった。


 気づけば、互いに言葉を失っていた。

 思考よりも先に、感情が動いた。

 抑えつけていた欲望が、心の奥から溢れ出していく。


 熱い抱擁を重ねた。世界が一瞬、白く弾けた。

 それは炎のようでいて、雪解けのようでもあった。

 長い冬のあとに初めて差し込む陽光のような、

 痛いほどのあたたかさだった。


 息が混ざり、言葉が遠のく。

 シュナの指先が震え、彼女の赤い瞳が近づく。

 その瞳には、迷いも、抗いもなかった。


 ――ただ、共に生きたいという願いだけ。


 どちらからともなく、二人の影が重なった。

 音も、匂いも、風さえも消えていく。

 ただ、胸の奥で心臓の鼓動だけが響いていた。


 それは戦場での撃ち合いにも似た、

 命のやり取りのような瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ