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バーンナウトシティからのメッセージ

 ロビーに戻ると、画面右下にメッセージが点滅していた。

 差出人――フィーン。


「Winnerおめでとう。ユウマ、やるじゃん」


 文末には座標タグ。

 位置情報は「バーンナウトシティ」。


 ――ガンゲノムシティの隣に、荒野を経て、もうひとつの都市がある。


 ゲーム時代には存在しなかったエリアだ。

 どうやらこの世界には、複数のシティがネットワークのように点在している。

 ただし、C級以下のランクでは同じロビーからしかミッションに参加できない。


「しばらく、こっちにいるつもり。よかったら遊びに来てね」


 つまり、フィーンに会うためには、自分の足でカンゲノムシティを出て、荒野を越えるしかない。


 だが、その間に広がるのはAIの監視が及ばない――無法地帯。

 人の理も、システムの秩序も存在しない領域。スキルもそこでは使えない。スキルとはAIの助けを借りて実現するものだからだ。

 ユウマは危険を承知で、それでも行く決意を固めていた。



 彼はバー《セックス・オン・ザ・ビーチ》を訪ねた。

 朝の光が窓越しに射し込み、カウンターのボトルが琥珀に光る。

 シュナは、飲んでいたグラスを止めてユウマを見た。


「……また厄介な顔してるね」


「頼みがある。バーンナウトシティまで行きたいんだ」


 グラスを置く音が、店内に乾いた響きを残した。

 シュナは軽く眉をひそめ、深く息を吐く。


「やめとけ。あそこまでの道は“管理外”だ。

 監視AIが届かないから、治安もシステムも保証されない。スキルも使えないし。

 昼はモンスター、夜はシティを追われた野良の鬼。

 戻ってこられた奴なんて、両手で数えるほどだよ」


「それでも行く。フィーンがあっちにいる」


 ユウマの声に迷いはなかった。

 その響きに、シュナは舌打ち混じりの笑みを浮かべる。


「女を追って命を捨てるなんて、ロマンチストにも程がある」


「からかうのかよ……会いたいんだ」


 その言葉に、シュナの赤い瞳がかすかに揺れた。


「……絆が強いね。危険だよ。それでも行くっての?」


「行く。自分の力も確かめたいんだ」


「だから、やめときなよ」


「嫉妬してるのか?」


 冗談半分でシュナに意地悪をしかける。


「はぁ?なにそれ」

 シュナが顔を赤くして抗議する。満更でもないらしい。


「すまない」


 カウンターに置いたシュナの拳が震える。

 シュナは数秒、沈黙ののちにふっと息を漏らした。


「……ほんと、バカだね。

 でも、そういうバカは嫌いじゃない」


 彼女は棚からホロマップを取り出す。

 青い光が空中に展開され、点線が北西へと延びていく。


「こっから廃高速を抜けて“サンドホロウ”を越えな。

 砂に潜むカニ型モンスターが多い。夜は歩くな。

 ――それと」


 彼女はユウマの目を見た。


「まずガイドを探しな。道も分からずに歩くのは、ただの自殺だよ」


「わかった。」


「どうしても行くんだね。本物のバカだよ」


 シュナは肩をすくめ、またグラスを磨きはじめた。

 その瞳には、呆れと、ほんの少しの心配が混じっていた。



 バーを出て、ロビーの通路を歩いていると、HUDがふっと光った。

 未読メッセージ――送信者:コンマリ。


「ユウマ様、私……ロビーに戻れました」


 足が止まる。

 あの“消失”は、完全な消滅ではなかったのか。

 ミッション内で消失しても、ロビーに戻される――。

 しかし、もしシティの中で消えたなら、その時は本当に“死”なのだろう。


 胸の奥が熱くなるのを感じながら、ユウマは指定された広場へ向かった。


 光のゲートの前に、コンマリが立っていた。

 振り返った彼女は、どこか恥ずかしそうに微笑んだ。

 以前よりも、ずっと人間らしい表情だった。


「ユウマ様……もう一度、お礼を言わせてください」


 言葉より先に、視線が絡む。

 お互いの心拍がHUDに重なって表示される。


 静かに、一歩ずつ距離を詰める。

 風のない空間で、空気だけが震えた。人目を避けて、柱の影に隠れる。


 ――再会のキスは、前とは違った。

「んんんっ!はぁ、はぁ、ユウマ様っ」


 ちゅるる、れろらろ!


「あぁ、コンマリ!」


 焦燥でも命令でもなく、確かな意思で結ばれていた。


 コンマリの瞳が光り、HUDに微弱な信号が走る。


 【同期リンク再確立:Lv2】


 胸をまさぐりたい衝動をなんとか抑える。そんなことをしてしまえば、彼女は本当に消失してしまう。


「あぁ、ユウマ様。はしたない私をお許しください」


 コンマリがふしだらに自分で自分の胸を揉みしだく。


「こんな外で、ダメだよ。そんなことしちゃあ」


「あぁ!!はぁ!!」


 しばらくして満足したのか、コンマリが柱にぐったりと持たれる。


「……もう、消えないでくれ」

「はい。ユウマ様の隣で、生きたいです」


 その瞬間、ユウマは悟った。

 彼女は、記憶と欲情を、確かに持っている――生きているんだ。


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