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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

その王様、いらないなら私がもらいます

作者: あひる3世



「なぜだ! なぜだ! なぜだ!」



 パトリックは憤怒した。自分たちを欺き、仲間を殺した裏切り者たちに。



「なぜ上手くいかない! これで平和が訪れると思ったのに!」



 パトリックは考えた。なぜ自分たちは失敗したのか。なぜ仲間たちは殺されなければいけなかったのか。



「ああ! 俺にはもう何も残っていない! これからどうしろと言うのだ!」



 パトリックは絶望した。今までの全てが無駄になったことに。自分の無力さに。独りぼっちになってしまったことに。



 いっそこの身を投げだしてしまいたい。そう何度も心の中で思った。



 それでもただ一つだけ。



 彼にはどうしても死ねない理由があった。



「ああ、許してなるものか。今に見てるがいい。必ず貴様たちに地獄を見せてやろう。そしてパトリックとその仲間たちに手を出したことを後悔させてやろう!!」



 心の奥底で真っ赤に燃える憤怒の炎。絶対に奴らを許しはしないという執念。



 気持ちとは裏腹に死にかけの体を動かしてパトリックは必死に前へと進む。



 敵を前にして逃げなければならない屈辱と憎悪を胸のうちに秘めて。



 パトリックの強い復讐心。彼を裏切った者たちがそれを思い知るのはもう少し先のことだった。


 









・・・










「ここはどこだ?」



 体力も限界を迎えるなか、パトリックは這いつくばって何とか隣国に到着した。

 しかし、目的地に着いたことでスイッチが切れてしまったのか、彼はすぐに気絶してしまう。




 そうして、次に目を覚ますと見知らぬベッドの上だった。



 パトリックはここはどこだと考える。するとタイミングのいいことに足音が聞こえてきた。



 それから数秒して部屋の扉が開く。



「あら、目が覚めたんですね」



 部屋の中に入ってきたのはメイド服を着た侍女だった。



「はい。助けていただいてありがとうございます」



 パトリックは死にかけだった自分を救ってくれたのだろう相手に感謝の意を述べる。

 


「いえいえ。礼には及びません。貴方を助けたのはお嬢様ですから」



「お嬢様?」



「そうです。ここはキャロライン辺境伯のお屋敷」



「キャロライン辺境伯」



「辺境伯の御息女であるスカーレット様が貴方を助けたのです」



 パトリックは自分の命を助けてくれた恩人の名前を知った。



「そうですか。おかげで命拾いしました」



「私はよく知りませんが、貴方は重傷だったみたいですよ。それをお嬢様が回復魔法を使って治したのです」



 パトリックは侍女に言われて初めて気づいた。体中にあったはずの傷が無くなっていたことに。



「凄いですね。本当に傷一つない」



「お嬢様は優秀なお方ですから」



「そうですね。きっとスカーレット様に助けて頂かなければ、僕はもう死神に連れ去られていたでしょう」



 パトリックは優秀な回復魔法の使い手に拾われた幸運に感謝した。



「それでは、私は貴方が目覚めたら報告するようお嬢様に言われていますので。失礼致します」



 そうして侍女はこの部屋から去っていった。












「失礼致します」



 それからしばらくしてから、部屋に一人の少女が入ってきた。



「…」



 パトリックは思わず彼女に見惚れてしまった。ルビーのように鮮やかな赤色の髪。シミひとつない白い肌に、天使のように愛らしい顔立ち。可愛らしい小さな唇に、吸い込まれてしまいそうなほど綺麗な赤い瞳。



 彼は今までの人生でこれほど美しい女性を見たことがなかった。



「どうかしましたか?」



「す、すいません! スカーレット様が僕を助けてくれたのですよね?」

 


 我に返ったパトリックは慌てて返事をする。



「はい、そうです」



「本当にありがとうございました。貴方様がいなければ僕はとっくに死んでいたかもしれません」



「そうですね。貴方は本当にいつ亡くなってもおかしくない状態でした」



「自分でもその自覚はあります。このご恩はいつか必ず返させていただきます」



「いえ、その必要はありませんパトリック」



 名前を呼ばれて瞬間にパトリックの警戒度は跳ね上がった。自分を知っている相手からすぐにでも逃げ出せるように周囲を確認する。



「なぜ僕の名前を?」



「フフッ。もちろんそれぐらい知っていますよ。なんたって私は辺境伯の娘ですから」



「そう警戒しなくても大丈夫ですよ。私に敵意はありません」



「…」



「考えてもみて下さい。もし私が貴方を殺す気なら助けなどしません」



「……それもそうですね。確かに貴女からは敵意を感じない」



「何より貴方はもう隣国の方ではありません。我が領土の領民になるのですから」



「僕を受け入れてくれるんですか? 面倒ごとになるかもしれないですよ?」



「ええ、構いません。貴方を手に入れることが出来るのなら些細なことです」



「過大評価じゃないですか? 僕は失敗した男だ…何も守れなかった無力な男だ…」



「いいえ、貴方は優秀です。たとえ貴方自身が認められなくとも、私が貴方を認めましょう」



「…」



「復讐したいのでしょう?」



「…」



「自分を裏切った連中を地獄に叩き落としたいのでしょう?」



「…」



「ならば私の手を取りなさいパトリック。私に尽くすのならば、貴方の願いを叶えましょう」



 パトリックは考える。自分にはもう失うものはない。これはチャンスだと。



 彼には目の前のお嬢様が何を考えているのかは分からない。



 善人なのか悪人なのか。

 でも、そんな事は関係無かった。何故なら彼にはもう夢も理想もなく、守りたかった相手する生き絶えた。



 パトリックの直感は目の前にいるお嬢様を少女の皮を被った化け物だとつげている。

 だがそんな事は関係ない。復讐を達成できるなら全ては些細なこと。

 


「今この時から僕は貴方に忠誠を誓いましょう」



「ええ、ありがとうパトリック。私は貴方を絶対に後悔させないわ」



「その代わり」



「分かっているわ。貴方の復讐を叶えましょう」



「ありがとうございますお嬢様」











・・・










 キャロライン・スカーレットは想像以上に物事が上手くいったことにほくそ笑んだ。



 隣国では長きにわたる圧政から革命が起こり、王族や大臣たちが処刑された。

 


 その革命の中心人物だった男がパトリックである。



 田舎の農村に生まれた彼は、重税に苦しむ村を救うために都市部まで出稼ぎに出ることを決意する。

 昔から腕っぷしに自信があったパトリックは冒険者になって金を稼ぎ、その資金で村の復興をしようと考えた。



 その途中で困っている人や村を見て、彼はこの国を何とかしなければ、そう思った。



 そんな彼の思いとリンクするかのように物事は動きだす。途中の街で運良く革命軍の幹部と会った彼は意気投合。



 革命軍に入ったパトリック瞬く間に名声を上げ、革命を成して王になったはずだった。



 しかし、彼は裏切られることになる。



 ぽっと出のパトリックに手柄を取られることを嫌った革命軍の幹部たちによって。



 そんな隣国の話しを諜報員から事前に聞いたスカーレットは好機だと思った。簡単に隣国の英雄を自分のものに出来きる。



 彼女は国境付近で部下を見張らせた。もしパトリックが失落して、亡命してきたらすぐに分かるように。


 そしてスカーレットは傷だらけの彼を拾った。


 結果として彼女は隣国の英雄を手にすることに成功したのだった。









・・・









「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」



 ある日の昼下がり。

 一人の男が絶叫していた。



「これで全てが終わる。お前で最後だ」

 


 男の右腕を切り落としたパトリックは様々な思いを胸に秘めて呟く。



「びゃあぁ痛いー!!」

 


「今どんな気分なんだルイス? 僕たちを陥れて手に入れた王座の座り心地は良かったか?」



「も、もう…許して……」



 パトリックを裏切り、この国の王になった男は涙声で懇願する。



 既に何回も体を切断されたルイスの心は折れていた。

 どれだけ傷を負っても回復魔法で復活させられ、また痛ぶられる。

 



 何度も何度も繰り返し行われる蹂躙。無限の苦しみを与えられたルイスは過去の過ちを後悔していた。



 自分は何という化け物に手を出してしまったのだと。



「いいから僕の質問に答えろよ」



 パトリックは自分の質問に答えないルイスの顔面を蹴り飛ばす。

 凄いスピードで壁に叩きつけられた彼の鼻は砕け、口の中からは折れた歯と血が地面に落ちる。



 綺麗だった王宮のあちこちに血液が付着し、血の匂いが充満する地獄のような場所になっていた。



「僕たちを裏切って手に入れた王座の座り心地は良かったか?」



「ひいっ!」



「僕の仲間たちはお前が盛った毒に苦しんで死んでいった。皆んなお前の事を信用していたのに……何で僕たちを裏切ったんだ!」



「……」



「目先の利益に釣られたのか! そんなに僕のことが疎ましかったか!?」



「そ…そうです…す、すいませんでした」



「ふざけるな!! 今さら謝られたところで仲間は帰ってこない! エドワードには愛する妻子がいたし、エレナのお腹には新しい命が宿ってた! リチャードだって……」



「す、すいません…でした。だ、だから…もう…許して」



「……もういい」



 パトリックはルイスの首を落とした。








「満足出来ましたか?」



 パトリックが落ち着いたタイミングで声をかけるスカーレット。



「はい。お嬢様のおかげで復讐を達成することが出来ました」



「そういう約束ですから」



「それに仲間の親族も助けてもらいました」



「貴方を手に入れられるならそれぐらい安いものよ」



「その期待を裏切らないように頑張ります」



「ええ、期待してます」



「はい」



「しかし、これで貴方の復讐も終わりましたね。これからは第二の人生を歩むことが出来ます」



「そうですね。これからもお嬢様に誠心誠意仕えさせて頂きます」



「そう。ではパトリック」



「はい」



「私と結婚しなさい」



「え」



「聞こえなかったの? 私と結婚しなさいと言ったの」



「いえ、聞こえなかったわけでは」



「それじゃあ決まりね」



「お、お嬢様には婚約者がいるのでは?」




「あんなバカはどうとでもなるわ。それとも、まさか相手が私では不満かしら?」



「それこそまさかですよ。俺を選んだことを後悔はさせません」



「あら、頼もしい言葉。さすが私の選んだ男ね」



「光栄ですお嬢様」



「これからは名前で呼んでパトリック」



「それもそうですね。スカーレット、僕と結婚して下さい」



「ええ、喜んで」





 

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