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第8話「これって一石二鳥ってやつじゃない?」

前回、《ひだまり》は薬草谷の依頼を無事達成。田舎者呼ばわりも少し収まり、街での第一歩を刻めました。今回は報告を終えた帰り道、ひときわ騒がしい“縁”が転がり込んできます。ボケとツッコミの渦の中で、カエデの中にまた一つ、経営の火花が散ります。

第8話「これって一石二鳥ってやつじゃない?」


「達成確認、確かに。こちらが報酬です。《ひだまり》さん、お疲れさまでした」


冒険者ギルドの受付嬢が袋を差し出す。銀貨100枚の触れ合う音に、私たちは自然と顔を見合わせた。


「ふう、終わったな。腹、減ったのう」

「ザックさん、まずは宿だよ。寝る前に食べると太るよ」

「だれが太るって?」

「言ってない。目が言ってた」

「言葉じゃなくて目ぇ読むタイプか、リン」

「読めるよ。父性の脂肪が」


「父性ってなんだろう……」と私が小声でつぶやいた、その時だった。


「もうかりまっかああ! ぼちぼちでんがなあ!」


ギルドの扉が乱暴に開き、風と一緒に小柄な少年が転がり込んできた。腰には荷袋、胸元に商業ギルドのバッジ。目がきらきらしている。


「商業ギルド薬草部門見習い、ポルカと申しますぅ! よろしくしてもうてますか!」

「誰にあいさつしてるの?」

「世界!」

「スケールでかいな」とリンが即ツッコむ。


ポルカは足早に近づいてきて、私たちの胸元を覗き込んだ。

「そのバッジ、《ひだまり》さんでっか。うわさ聞いてますねん。地味な依頼をキッチリやる、そないな堅実ギルドやて」

「地味って言い方」

「褒め言葉や。商売もギルドも地味の積み重ねでっせ」


ザックが腕を組む。「で、お前さん、用件は?」

「単刀直入に言いまひょ。護衛、やりません?」

「ほう」

「うちの親方が今度、ルオーネ村のほうへ行商しはるんですわ。街道、最近ちぃと物騒でしてな。護衛がいれば安心、ついでに村側にも物資が届く。はい、出ました一石二鳥」


私は思わず顔を上げた。「一石二鳥……」

「おうおう、ええ響きじゃの」とザック。

「待って。ついでと言いつつ本題だよね」とリン。

メイが指を折りながら数える。「護衛報酬が一つ目。物資が村に入るのが二つ目。しかも道中で依頼を拾える可能性も……」

「三鳥?」

「三鳥やな」とポルカが得意顔でドヤる。


「でも、予算は?」と私は現実に引き戻す。

「親方がんばります。ぼちぼちですけど」

「ぼちぼちの範囲が広いんだよなあ」とリン。


ポルカは身を乗り出した。「ほな、まずは顔つなぎからいきましょ。うちの親方に会ってください。宿は紹介します。せや、それと……」


「それと?」

「みなさんの《依頼ポスト》。あれ、ええですね。フェルナードの裏通りにも仮設で置いてみません?」

「街に?」と私。

「表の広場は《白翼の矢》さんの縄張り感ありますやろ。裏通りは小さな店と個人客が多い。『ちょっとした困りごと』が眠ってまっせ。拾いに行こ。これも一石二鳥、いや二・五鳥」


「小数点出た」とメイ。

「四捨五入で三鳥やな」とザックがどや顔。

「なんでそこで得意げなの」とリンがピシャリ。


私は深呼吸した。胸の奥で、何かがカチリとはまる音がした気がした。


(奇をてらうんじゃない。地味な仕事を取りにいく。村でやってきたことを、街でも繰り返す)


「わかった。親方さんに会わせて。裏通りの仮設ポストも、試してみたい」

「毎度! 話が早い。ぼちぼちでんがな!」


ポルカは勢いよく踵を返すと、扉に肩をぶつけた。

「いったぁ!」

「勢いしかないのか」とリン。

「勢いは若さの通貨や」とザックがなぜか良いこと風にまとめる。

「通貨価値は変動します」とメイが小声で追い打ち。


その夜。ポルカの紹介で、私たちは市場そばの安宿に部屋を取った。寝台は固いけれど、風車のうなる音が心地よい。


「カエデ」

ベッドに腰かけたリンが、弓弦をゆるめながら言った。

「今日の子、にぎやかだったね」

「うん。でも、彼の提案は理にかなってる。私たちは待つより、拾いに行く」

「拾いに行くなら私の目、役立つよ」とリン。

「私は薬草の見分けと……あと、簡単な調合なら」とメイ。

「道中の剣は任せとけ。お前らの背中、どんだけでも守るで」とザック。


みんなの声を聞きながら、私は帳面を開いた。ページに、今日のひらめきを走り書きしていく。


・裏通りに簡易依頼ポスト(試験設置)

・紹介カード作成(依頼者に二枚渡し、一枚は友人に渡してもらう)

・護衛ルートでの“困りごと拾い”ルール化

・商業ギルドとの連絡窓口はポルカ


(待ちの看板から、歩く看板へ。依頼はつくるもの。風の国なら、風に乗って)


窓の外、風車が回る。明日の歯車も、回り始めている。


カエデのギルド経営日記


ポルカという見習いに会った。うるさいけれど、核心を突いてくる。護衛と流通で一石二鳥、その提案は私たちが目指す「地味の積み重ね」と相性がいい。裏通りに簡易ポストを試験設置。紹介カードも作る。明日、親方に正式に会う。小さな歯車を増やして、回す。


経営Tips


【一石二鳥の設計思考】

一回の行動に二つ以上の価値を重ねる。例:護衛依頼(収益)+行商の同行(関係構築)+移動中の困りごと拾い(案件開拓)。同じ移動コストで価値を束ねると、弱小ギルドでも効率よく実績を積める。


【マイクロ開拓】

大通りではなく“裏通り”に小さな接点を作る。簡易ポスト、紹介カード、顔出し巡回。顧客のハードルを下げる工夫が、依頼の絶対数を増やす。

読了ありがとうございます。今回はポルカが本格登場。ボケとツッコミの嵐でしたが、提案そのものは堅実です。次回は商業ギルドの親方と対面、そしてお得意先づくりへ。第9話「CRM(顧客関係管理)」で、人と人をつなぐ仕組みを物語として描きます。お楽しみに。

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